𓏸𓏸短編集 🍵×👑

「……なんだこれ」

目の前の扉を何度押しても、開く気配はなかった。小さな部屋。ベッド、ソファ、薄暗い照明、そして壁に浮かび上がった不自然な文字。

《𓏸𓏸しないと出られない部屋》

「ねぇ、すちくん、ここどこ……？ なんか変なこと書いてある」

不安げにすちの服の裾をつかむみこと。すちは彼の頭をぽん、と撫でた。

「大丈夫。落ち着いて。たぶん、これは……そういうタイプの“仕掛け部屋”だね」

「し、仕掛け……って、なにするの……？」

扉の前にはタイマーのようなものが設置されていた。赤く表示された数字は、「01:00:00」。どうやら1時間以内に条件を満たさないと、次のステージには進めないらしい。

しばらく部屋を調べたあと、ソファに並んで座るふたり。タイマーのカウントはじわじわ減っていく。

「試してみるしかないか」

「な、なにを……？」

すちはそっと、みことの手を取った。

「とりあえず、ハグ……してみようか」

「ハグ……！？」

突然の提案にみことの耳が真っ赤になる。けれど拒む様子もなく、きゅっとすちの胸元に頬を寄せる。

「……ん、あったかい」

「ふふ、みこちゃんってほんと可愛いな」

タイマーの数字が一瞬ピッと音を立て、開始となった。

ハグの次に、すちがみことの頬にキスを落とす。

「ちょ、すちくん……顔、近い……」

「これも、試さないと」

「……ん」

唇が触れ合うだけの、優しいキス。

けれどみことの体温はじわじわ上がっていき、胸がきゅうっと締め付けられるようだった。

すちの指がそっと髪を梳き、キスは長く深くなる。

「……気持ちいい？」

「……わかんない、でも……やだって思わない」

壁のタイマーは順調に進んでいた。

部屋の照明が少しずつ暖かくなり、ベッドのシーツがふわりと動いた。

まるで「次はここで」と言っているようだった。

みことは不安そうにすちを見上げた。

「……これって、ほんとに……しないと出られないの？」

「たぶん、そうだと思う」

「でも、俺……初めてだし……」

すちはみことの頬に手を添えて、静かに囁いた。

「無理にしなくてもいいんだよ。俺は、みこちゃんを無理やりなんてしない」

「……でも、すちくんなら……俺、してもいいって、思ってる」

その一言に、すちの表情がわずかに緩む。

ゆっくりとベッドに押し倒し、重なる体。

唇を何度も確かめ合いながら、熱がじわじわと高まっていく。

みことのシャツのボタンに、すちの指が触れる。

「……脱がすね」

「う、うん……」

軽い接触が、じれったい熱に変わっていく。

初めての感覚に戸惑いながらも、みことはすちの腕の中で素直に震える——。

___

みことの白いシャツのボタンが、ひとつ、またひとつと外されていく。

「……すちくんの手、熱い……」

「みことの肌が、あったかいから」

言葉を交わすたびに、みことの表情がとろけていく。

胸元が露わになり、すちの指がゆっくりと撫でる。

「……ん、っ……ふあ……」

小さな声が漏れ、みことの脚がぎこちなくすちの腰に絡まる。

何も知らないまま、ただ感じるままに身体を預けるその様子に、すちは一度深く息を吐いた。

「もし辛かったら、すぐ言ってね」

「……うん。すちくんなら、大丈夫……信じてる」

逃げないと、みことの瞳がそう語っていた。

ゆっくりとキスを繰り返しながら、すちは彼の脚の間に手を滑り込ませる。

「っ……や、あ……そこ……」

「気持ちよく、してあげるから」

最初はくすぐったそうに身をよじっていたみことも、指先に優しく触れられ、だんだんと甘い声を漏らしていく。

「……だめ、変になりそう……っ」

「変になっていい。もっと、教えて……」

何度も確かめるように口づけながら、すちはみことの奥へ指を這わせていく。

最初は慎重に、ゆっくりと。

「痛くない？」

「ん……ちょっと変な感じだけど……嫌じゃない」

潤滑剤が出現するのも、この部屋の“仕掛け”らしい。すちはそれを指に取り、丹念にみことの中を慣らしていく。

「……すちくん、もう、入れても……いいよ」

「本当に、いいの？」

「俺……すちくんに、触れてほしい。全部……知ってほしい」

みことの瞳がうるんでいて、それでも真っ直ぐだった。

すちはゆっくりと、みことの身体に自身を沈めていく。

「……っ、ん、あ……すごい……」

「みこちゃん……中、すごく締めつけて……やばい、我慢できないかも……」

みことの手がすちの背に回され、爪が食い込むほどぎゅっと抱きつく。

「もっと、して……すちくんの、全部欲しい……」

理性がとける。

何度も、何度も深く繋がっていく。

肌を擦り合わせ、甘く切ない声が重なって、何もかもが混ざっていく。

すちのキスは時に優しく、時に貪欲で、みことをとろとろに溶かしていった。

「っ、あ……すち、くんっ、い、いきそう……！」

「一緒に、いこ……っ」

達した瞬間、部屋の光が一気に明るくなり、扉のロックがカチャリと外れる音が響く。

けれど、ふたりはすぐには動かなかった。

互いの余韻に身を預けながら、静かに重なったまま呼吸を整えていた。

「……出られるみたいだね」

「うん……でも、なんか、もう少しここにいたいかも……」

みことがぽつりと呟き、すちはくすりと笑う。

「じゃあ……もう一回、𓏸𓏸しないと出られない部屋に戻ってもいいかもね」

「……ばか」

そう言いながら、みことは愛しそうに、すちの胸に頬を寄せた。

──あの部屋は、ふたりをただ閉じ込めただけじゃなかった。

心と体、どちらも繋ぎ直す部屋だったのかもしれない。