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「――って、ことがあったんだよね」
「へ、へぇ~……」
朝一番、恍惚とした表情で盛大なのろけをかます瀬名を、一臣は顔を引き攣らせて眺めていた。 出社早々、ニヤニヤしながら瀬名が近づいてきた時点で嫌な予感はしていたが、まさか開口一番に「理人さんとのエッチが凄すぎてクセになっちゃいそうだったよ」と来るとは思わなかった。
「まさかあの理人さんが、『やら』とか『らめぇ』なんて舌っ足らずに鳴くとは思わなくて……。結局その後、抜かずに3回も続けてシちゃったんだよね。あー、思い出しただけでも勃ちそう」
「知るかよ!!」
一臣はたまらず鋭いツッコミを入れ、自分のデスクに突っ伏した。 何が悲しくて、自分が狙っている男の生々しい性事情を聞かされなければならないのか。
(コイツ、絶対わかってて自慢してやがる……)
自分を同じ土俵にすら立たせないばかりか、わざわざマウントを取りに来る性格の悪さに、無性に腹が立ってくる。
「お前さ……そんな話、俺にして楽しいか?」
一臣が睨み付けるように見上げると、瀬名はキョトンとして首を傾げた。そして、これ以上ないほど爽やかな笑顔を浮かべる。
「うん、超楽しい」
「…………」
一臣は返す言葉を失って黙り込んだ。この腹黒男、キラッキラの笑顔で残酷なことをさらりと言いおる。 理人はこの変態男のどこがいいのだろうか。どう考えたって、自分の方が若くて活きがいいはずなのに。理人が瀬名を選ぶ理由が、一臣には微塵も理解できなかった。
「理人さんが僕のためにカレーまで作ってくれて……最高だったな」
「へぇ、そうかよ」
「しかも、お風呂上がりの理人さんが色っぽ過ぎて我慢できなくてさ。そのままベッドで一回戦に突入して……。あまりに可愛かったから思わず動画撮っちゃったんだけど、見る?」
「あぁもう! のろけは要らねぇっての! ……でも、その動画は寄越せ」
「要るんだ」
瀬名がニヤリと笑ってスマホを操作しようとした、その時――。
「瀬名……てめぇ、いつの間に動画なんて……っ!」
ゴゴゴゴゴ……と背後に地鳴りが聞こえてきそうな程の威圧感を纏い、理人が音もなく詰め寄ってきた。
「あれ、理人さん。おはようございます、今日は早いですね?」
「はぐらかすんじゃねぇ! 朝っぱらからデカい声でベラベラと……頭沸いてんのか!? つか、桐島! てめぇも普通に動画貰おうとしてんじゃねぇ! クソどもが!!」
理人の容赦ない拳骨が二人の脳天に落とされる。瀬名は「痛いですって」と言いながらも、どこか嬉しそうにヘラヘラと笑っている。
「ッてぇな……なんで俺まで……」
一臣も頭を押さえながら毒づくが、理人の顔が耳まで真っ赤に染まっているのを見て、さらに複雑な気分になった。
*****
「……課長、いいんですか、アレ放っておいて。そろそろ止めないと、鬼塚部長マジでキレてますけど……。ほら、もう血管浮き出てるし」
「あぁ、大丈夫だよ。アレはじゃれてるだけだから」
「そう、なんですか?」
三人の騒ぎを遠巻きに眺め、心配そうに声をかけてきた萩原に、片桐はニッコリと微笑んだ。 確かに傍から見れば理人の一方的な制裁に見えるかもしれないが、片桐には理人が満更でもなさそうなのが見て取れた。
理人の怒号は実のところ「照れ隠し」であり、瀬名もそれを知っているからこそ、わざと怒られるような真似をする。理人も本気で嫌なら、とっくに彼らを叩き出しているはずなのだ。
「課長、絶対面白がってますよね?」
いつもはクールで仕事のできる上司が、恋人のこととなると途端にポンコツになる。その様子は、片桐の庇護欲と加虐心を同時に刺激して止まなかった。
「ふふ、わかる? 鬼塚君って、本当に可愛いよねぇ」
「あ~……はい」
萩原は呆れたような顔をしたが、否定はしなかった。
「というか、みんな薄々気付いてますよね。あの二人の関係」
「え? まぁ……鬼塚部長、分かりやすいというか。瀬名も、新しく来た桐島君も、隠すつもりはさらさらないみたいですしね」
「僕もね、最初は戸惑ったんだけど。二人を見てたら段々と『そういうものなのかな』って思えるようになってきて……。今では結構、楽しく見てるよ。特に鬼塚君は、普段はあんなにしっかりして頼れるのに、瀬名君の前だと急に人間臭くなるからね。つい揶揄いたくなっちゃうんだよ」
「あぁ……わかります、なんとなく」
「あ~あ、今日もウチの課は平和だねぇ」
二人は顔を見合わせて苦笑すると、楽しげに(?)戯れる三人の姿を、温かな、あるいは生温かな目で見守り続けた。
END
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