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黒ベルドリに導かれて、ユキが歩くことおよそ二〇分。
「(あれ?ここ……最初の洞窟、です?)」
ユキが見上げると、そこは確かに、目覚めたばかりのあの場所だった。
「……クルッポー」
黒ベルドリが小さく鳴き、岩壁の前へと進む。
「くぁ?」
その視線の先にあったのは、岩に刻まれた古びた文字だった。
「(えっと、なんて書いて……『まきこんですまない』……!)」
胸がざわつく。ユキは思い出す――この場所、この空気、この人。
「(……も、もしかして、このベルドリさんって……!)」
ユキはあわてて辺りを見渡し、枝を拾って、丁寧に並べる。
《オニイサン?》
黒ベルドリは、静かにそれを見つめ、そして――こくり、と一度、頷いた。
「くぁーーーっ!」
ユキは叫ぶように喜び、ベルドリの体にすり寄っていく。
羽が上手く回らないのがもどかしくて、ただ身体をこすりつけるようにして。
「(お兄さん!お兄さんっ!ユキ、一人じゃなかったです!)」
「……クルッポー」
か細く、でも確かに優しい声が返ってくる。
“巻き込んですまない”――それはヒロユキなりの、謝罪と、覚悟の言葉だったのだろう。
けれどユキにとっては違う。
「(巻き込まれた?そんなの関係ないです!ユキは……お兄さんと一緒に居たかっただけです!)」
嬉しさと安心が心の中に溢れて、目からぽろりと涙がこぼれそうになった。
「くぁー、くぁー」
「……クルッポー……」
ヒロユキベルドリが静かに歩き出すと、ユキベルドリはそのすぐ後ろを、くっつくようにして付いてくる。
そのせいでヒロユキは少し歩きづらそうだが、何も言わずにそのまま洞窟の奥へと進んでいく。
そこには――ガラクタの山。
「(わー……なんか、いっぱいあるです)」
ユキが目を輝かせる中、ヒロユキは壁際の一角へと向かい、足にくくりつけていたナイフをくちばしで器用に取り、石の上に置く。
そして、ガラクタの中から古びた片手サイズの砥石をくわえ、ゆっくり、ゆっくりとナイフを研ぎはじめた。
「……」
「くぁ♪」
ユキはふわりとその横に身を寄せる。まるで雛鳥のように、心細げに、けれど嬉しそうに。
恐かった。
寂しかった。
泣いた。たくさん泣いた。
けれど今、すぐそばに“お兄さん”がいる。
ただそれだけで、心が満たされていく。
「くぁー……ムニャムニャ……」
心地よい金属と石の擦れる音を聞きながら、ユキはそっとその場に座り込み、足をたたんで小さなお団子のようになった。
そして――眠る。
「…………」
ヒロユキは横目でその様子を一瞥し、そっと、古びた布切れをユキにかける。
そしてまた、何事もなかったように、ナイフを研ぎ続ける。
「……………………………………」
ヒロユキは砥石を動かす手を止めないまま、暗い洞窟の中でじっと、ひとつのことを思案していた。
この姿のまま、もしも遭遇してしまったら――
魔物よりも遥かに厄介で、命取りになりかねない“本物の脅威”____
__“同業者”に出会ってしまったら。
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《ミクラル王国》
「。。。。。。ジュンパク、準備はできたか?」
「え? う、うん!兄貴!できてるよ! でも、どうしたの? 急に“リュウトのボウズに会う”って……そんなに急ぎ?」
「。。。。。。秘密だ。……それより、他のやつはどうしてる?」
「え? えーっと……ユキの姉貴は、あの日の夜に兄貴が連れてきた子を送り届けに行ったきり。数日かかるとかで不在中。
たまこは、なんか調べることがあるって別行動。
で、ボーッとしたユキナは滅多に会わない友達に会いに行くって……だから最初から別行動だったかな。
……まぁ、会いに行くだけなら、ミーひとりでも平気だよ!」
「。。。。。。頼りにしてるよ」
「う、うん……」
ジュンパクは、あの日の夜から“兄貴”に対して、どこか妙な違和感を感じていた。
――たしかに少し飲みすぎてた。だから、酔ってただけだと思っていたけれど。
「(兄貴……なんか、違う)」
けれど、その違和感に確証はなく、確かめる術もないまま、ジュンパクは今も「いつも通り」の態度で接していた。
「。。。。。。じゃあ、行くぞ」
「うん! ギルドの手続きはミーが済ませといたよ。行こっか!」
「アバレー王国へ」