コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
人の手を一切加えられて居ない神秘の森は、夜だと錯覚するほど薄暗く、
蛍のようなぼんやりとした光がそこら中に漂っていた。
「……」
ごくりと息を飲み、後ろを振り向くと
…やっぱりな。
森へ入る為の道が消えている。
街へと繋がっていたはずの道は、今や大きな木々で覆われている。
きっと、妖精どもの仕業だ。
イタズラ好きな彼らは、よくこうやって森への侵入者をおもちゃにして遊ぶのだ。
なんて性格の悪い…そんな文句にさえ、彼らは聞く耳を持たない。
夏にうるさい羽虫のように、邪魔でならない存在なのだ。それと同時に、“神秘の森”にとってなくてはならない存在だった。
苛立ちに任せ、手で潰そうものなら、
森の神とやらによって、死よりも重い刑罰が下ることだろう…
もちろん、これは実体験ではなくただの噂話、おとぎ話にすぎない。
しかし、この森を生きて出た者が少ないという事実から。油断してはいけないのは確かである。
「何?何かいるの?」
「…妖精」
嗚呼、もっと早く気づくべきだった。
周りを漂うのは蛍なんかじゃない…
妖精だ。
「嘘…これ全部…?」
「……逃げた方がよさそうだ」
「何でよ?ただの妖精じゃない」
「……いいから走るぞ」
ナリアの手を掴み、全速力で走った。
横から聞こえる笑い声には気を取られないように、目の前に現れる道を進む。
そんなことを繰り返して、しばらくした頃、目の前に道ではなく、大きな沼が現れた。先ほどとは比べ物にならない程の妖精の数、そして沼を囲むのは精霊とエルフ達だった。
重警備にも程がある。一体この沼に何が…いや、この沼自体が神聖な物なのかもしれない。
さっきからずっと感じる、この嫌な予感は一体…
いかにも厳かなこの雰囲気に圧倒される。ナリアも息を切らしながらその沼を眺めた。
「何これ…一体なんだって言うのよ、」
「…ちょっと黙ってな」
「…はぁ?」
「…知り合いかもしれない、話をつけてくる」
そう言って恐る恐る沼に近づくと、警備をする精霊たちの視線が俺に集まった。
「…大丈夫、何もしねぇって…ただ、こいつと話をしたいだけ」
“こいつ”と言う単語に反応して、目の前のエルフが顔を顰めた。
「…無礼者め」
綺麗なルビー色の瞳が、俺を睨んできた。
「あー、あー、せっかくの整った顔が台無しだぞ?ハクア…だっけか」
「な…何故私の…」
「もう忘れたのかよ。俺だよ、ハクア」
そっと顔に被ったフードを下ろすと、周りがざわついた。
「…フリード」
「お、御名答」
「ようやくツケを返しにきたか」
ハクアよりもワントーン低い声が響く。
ハクアより少し背の高い緑色の目をしたエルフ、ルリハも詰め寄ってきた。
全く、人気者は困るぜ
「いいや?取引しにきた」
「…残念だがフリード。ルリハ達はあなたの力になれない。あの方に会うには、森のの許可がいる」
「…おぉ、あいつまだ生きてたのな。死んだのかと思った」
「お前は一体…どれだけ無礼を重ねれば!」
俺に向かってルリハが振り上げた剣をハクアが止める。
「姉様、いけません。」
「……」
「おー、ありがとなー…命拾いしたぜ」
そう言いながら彼女に近づくと、
ハクアによって再び刃が向けられる。
鋭い目つきで睨みながら、ハクアは言った。
「……何を勘違いしているの。
ハクアが貴方を生かしたのは、ツケを払ってもらうためよ」
「うへぇ」
どうやら歓迎はされないらしい。
訳あって、俺はこいつらとかなりの付き合いなのだ。
もちろん、「あの方」と呼ばれる者にも会ったことがある。
せっかく旧友が会いにきてやったのに、この対応とは…
「あのねぇ、貴方達。」
後ろから怒気を孕んだ声が聞こえる。
「私の“ボディーガード”に何の用かしら?」
「「「ボディーガード?」」」
3人揃って、頭に疑問符を浮かべた。
するとナリアはキッと俺の方を睨む。
どうやら“話を合わせろ”ということらしい。
「あ、あぁ…そうだな、ボディーガード…ボディーガード…」
するとナリアは大きくため息を吐いて、続けた。
「…私達、人探しをしてるのよ。
とーっても大事な仕事なの。だから、ここを通してくれる?」
腕を組んで、エルフ達を睨んだ。
その顔は自信に満ち溢れていて、崩れる気配はない。
「…あのね、お嬢さん。知らないでしょうが、ここはルリハ達…いいえ、精霊たちの領域よ。」
ルリハは酷く冷淡な態度で、言葉を返す。!
「……私が貴方達と交流のあるグラスレット、だとしたら?それでも案内してくれないと言うの?」
「グラスレット…」
彼女の家の名前を聞いた途端、ルリハが引き下がる。
「わかりました、御案内しましょう。“あの方”の元へ。」
ハクアがナリアの元へ跪き、奥へと案内した。
「えぇ、頼んだわ。ほら、いらっしゃい?“ボディーガード”さん?」
「……」
どういう事かわからないが、うまく事が進んでいるらしい。
当の本人はとても楽しそうだ。
もう一度言おう、とても楽しそうだ。