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カチャリ、と静寂に響いた電子ロックの解除音。
その音は、まるで処刑台へ向かう足音のように、中也の張り詰めた神経を叩いた。
防音扉がゆっくりと開き、廊下の明かりが薄暗い室内に一筋の光を落とす。
入ってきたのは、朝と変わらぬベージュのコートを身にまとった太宰だった。
その腕には、約束通り上等なワインのボトルが抱えられている。
「ただいま、中也。いい子で留守番はできていたかい?」
探偵社の仕事を終えたばかりの、どこか垢抜けた「昼の男」の声音。
だが、一歩部屋に足を踏み入れた瞬間、太宰の瞳からその光がスッと消え失せた。
代わりに溢れ出たのは、中也が狂おしいほどに渇望していた、濃厚で容赦のないαの支配臭だ。「は、……っ、あ……」
薄れていた匂いが一気に部屋を満たし、中也のΩの肉体が歓喜に跳ねる。
凍えていた身体の芯が劇的に熱を帯び、今すぐその胸に飛び込みたいという衝動が脳裏をよぎった。
だが、中也のプライドが、それを全力で叩き潰す。
「……遅ぇんだよ、青鯖。そのまま野垂れ死ねばよかったのによ……っ」
中也は乱れた前髪の隙間から、射殺さんばかりの鋭い眼光を太宰にぶつけた。
身体は歓喜に震え、膝がガクガクと笑っている。
鎖に繋がれた手首をわざと激しく打ち鳴らし、己の健在を、そして決して屈服していないという意志を誇示するように、ギリと奥歯を噛み締めて睨み返した。
「おや、随分と元気そうだね」
太宰はクスクスと喉を鳴らし、ワインをデスクに置くと、ゆっくりとベッドへ歩み寄ってくる。
その足取りはどこまでも優雅で、中也の虚勢などすべて見透かしているかのようだった。
「せっかく定時を少し過ぎてまで、君の好きなヴィンテージを用意してきたというのに。そんな顔で迎えられるとは、飼い主としては少し悲しいな」
「誰が、飼い犬だ……ッ! テメェの持ってきたモンなんか、泥水以下だ。そこに置いてさっさと失せろ!」
中也は声を荒らげ、鎖の限界までベッドボードに身体を押し付けた。
近づいてくる太宰から放たれるαのフェロモンが、容赦なく中也の防壁を削り取っていく。
本当は、その長い指に触れられたくて堪らない。
その矛盾が中也をさらに狂わせ、言葉の刃をいっそう鋭く尖らせた。
「そう怒らなくてもいいじゃないか」
太宰はベッドの縁に腰を下ろすと、躊躇いもなく手を伸ばした。
中也はそれを避けようと顔を背けたが、鉄の爪のような強固な力で、顎をぐっと掴み上げられる。「離せ……っ、触るなって、言ってるだろ……!」
「口ではそう言いながら、身体はこんなに私を求めているよ、中也」
太宰の指先が、中也の項に刻まれた噛み痕をわざとなぞる。
その瞬間、中也の背中に甘い電流が走り、小さく「ひぅ……っ」と情けない悲鳴が喉から漏れてしまった。
意地を張って吊り上げていた目尻に、悔しさの涙がジワリと浮かぶ。
「……っ、ふざ、けるな……、俺は、お前にだけは、絶対に……っ」
「頑固だねぇ。でも、そういう君のプライドを、内側からじっくりと溶かしていくのが、たまらなく愉しいんだ」
太宰は昏い悦びに満ちた瞳で中也を見つめ、抵抗するその唇を、今度は優しく、しかし有無を言わせぬ絶対的な支配をもって塞ぎにいった。
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