テラーノベル
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「ほら。俺たちが気付けないような視点で人を見られてる」
「ホントそうだね!」
仁人の言葉に悦子が満面の笑みでうなずいて……瑠璃香はそんな同期たちを見比べて瞳を見開く。
「……そう、かな?」
「ああ」
仁人にニヤリと笑いかけられてサムズアップされた瑠璃香は、その隣で「うん、うん!」と同意する悦子になんだか照れてしまう。
「……そうだといいなぁ」
「自信持てって」
「そうだよ、瑠璃香! 瑠璃香なら大丈夫!」
二人の言葉に、瑠璃香はほわりと心の奥が温かくなるのを感じた。藤代に太鼓判を押された時よりも、同期二人にこんな風に肯定された方が嬉しく感じられた気がした。
話がひと段落したと思ったのか、仁人が焼き鳥へ手を伸ばす。
「ちょっ、それ最後のねぎまじゃない?」
「早い者勝ち」
「私も食べたかったのにぃー!」
「知らね」
「もぉー。私がねぎま好きなの知ってるくせにぃー。仁人の意地悪! 半分でいいから食べさせて!」
悦子が何気なく仁人の手を握る。本当に何気なく――。
だが、その瞬間、仁人の動きがぴたりと止まった。
「……おい、木嶋」
「何よ」
「呼び方……と距離……」
「……あ」
悦子がしまった、という顔をする。
「……日下。それ、全部私にちょうだい」
「さっきは半分って言ってただろ」
「そんなこと言ってない!」
「お前、さっき唐揚げ最後の一個食っただろ。これは俺に食わせろ」
「あれは仁人がモタモタしてたからでしょ」
「木嶋」
「……くっ、日下がモタモタしてたから……っ!」
慌てて言い直す悦子を見ながら、瑠璃香は口元へグラスを運んだ。
(ふふっ)
危うく笑ってしまうところだった。
(悦子ってばさっきから日下のこと、〝仁人〟って言いまくりだよ!?)
しかも日下は、瑠璃香にはまだ何も知られていないと思っているから、悦子が失言するたびにそわそわした様子でこちらを見てくる。それが堪らなく可笑しくて。
うつむきがちに笑いをこらえていたけれど、肩が震えてしまうのをどうしても止められない。
「……小笹、お前何笑ってんだよ?」
「えっ? 笑ってないよ?」
「いや、笑ってただろ」
「きっ、気のせいじゃない?」
「怪しい」
仁人にじっと見られて、瑠璃香はしらを切りとおしつつビールを口にする。
その向こうでは、悦子が必死に〝どうしよう!?〟と目で訴えていた。
(もう、言っちゃえ)
瑠璃香は仁人には見えないように気遣いながら、悦子にそう口パクで伝える。
二人のことなのだから、二人の口から聞きたい。二人の関係は知っているけれど、仁人の前で自分にカミングアウトするタイミングは悦子に任せたい。
そう思っていたら、
「……なぁ、小笹」
ムスッとした顔で何事かを考え込んでいた仁人が、それまでとは違う調子で瑠璃香の名を呼んだ。
「ん?」
見ると、仁人が悦子の方をちらりと見て、「小笹に言ってもいいか?」と問いかけた。
まさか日下からそう打診されるとは思っていなかったんだろう。悦子が驚いた顔をして……でもややして照れ臭そうに小さく頷いた。
それを確認してから、仁人が瑠璃香へ向き直る。
「その……俺らから話があるんだけど」
「うん」
来た。
何の話なのかは、もう分かっている。
それでも瑠璃香は知らないふりをしたまま、仁人の次の言葉を待った。
「俺と悦子……」
そこで仁人が一度、言葉を切る。
#極道
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月詠 涼
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「ちょっと前から付き合ってる」
隣で悦子が、照れくさそうに頷いた。
悦子から聞かされて知っていたことだったけれど、〝日下から〟言ってくれたことが嬉しくて、瑠璃香は思わず満面の笑顔になる。
「そっか……。やっぱりそうだったんだ!」
「……やっぱり?」
仁人が怪訝そうに眉を寄せる。
「だって……」
瑠璃香は笑顔のまま、答える。
「さっきからちょいちょい悦子が日下のこと〝仁人〟って呼んじゃってるし……。それに――」
「それに?」
「悦子から日下に告白したっていう話までは聞いてたから……もしかして……って思ったの」
電話でつい悦子が〝ポロリ〟と日下のことを『仁人』と呼んでしまったことはバラさないでいいと思った。それを言わなくても十分、瑠璃香が二人のことを推察できたと伝えることは出来たし、そこは嘘も方便だ。
仁人がゆっくりと隣を見る。
「やっぱ……アレは気付くよな」
「うん」
「ったく俺が必死こいて〝木嶋〟って呼んでんのにコイツが何回も名前呼びしてくるから……隠せてねぇかな? とは思ってた」
「うん。実はね、いつ言ってくれるのかなぁ? って期待してた」
「くそぉ! なんか無茶苦茶恥ずかしいんだけど!」
「いいじゃない。幸せな報告なんだし。ね!? 悦子!」
「……うん」
悦子の頬がほんのり赤くなっている。
それが可愛いと思ってしまった瑠璃香だ。
コメント
2件
日下くんから言ってくれたの、本当良かった!
うわあ、ついに二人が瑠璃香にカミングアウトした! 仁人からちゃんと話そうとしてくれたのがすごく良かったし、「小笹に言ってもいいか?」って悦子に確認するところに仁人の誠実さが現れててじーんと来た。でも何より、全部知ってるのに知らないふりして待ってた瑠璃香の優しさが沁みるなあ。三人の距離感がどんどん温かくなってくのが最高に好きです!