テラーノベル
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「……日下、悦子のこと、幸せにしてあげてね!?」
「ああ、もちろんだ……。――けど、その……誤解して欲しくねぇから言うんだけど」
「ん?」
仁人が、どこか言いづらそうに言葉を途切れさせる。
「その……なんか悦子から好きって言われたからって、相手を切り替えたみたいで、すげぇ不誠実だって思われてるかもしれねぇんだけど」
隣で悦子も黙る。
仁人が何を言おうとしているのか、瑠璃香にも少し遅れて分かった。
「俺さ、元々、悦子のことは異性として意識してなかったんだ」
仁人はごく自然に〝悦子〟のことを名前で呼んだ。
「同期だし、ずっと一緒にいたし。俺は入社当初から……その……お前に全振りで……悦子のことはそういう目で見たことなかった……」
「あー、うん」
言われてみれば、瑠璃香だって、〝そうだったのかな?〟と思わなかったわけではない。
でも、仁人じゃないけれど瑠璃香にとって、日下仁人という男は、〝同期以外の何物でもなかった〟から……。彼同様、異性として意識することもなかった。
それより何より、ずっと仁人を好きだった悦子の気持ちを知っていた瑠璃香は、余計に彼のことを眼中に収めないようにしていた。
「お前が脈なしなのはずっと分かってた。けど諦めきれねぇってなってたところに……悦子からいきなり好きだって言われて。ちょっと考えさせてほしいって距離を置いてみたものの、気が付いたらなんか俺の方も悦子のこと、意識するようになってたんだ」
照れくさいのか、仁人が首の後ろを掻く。
「今までだったら何とも思わなかったことが妙に気になったりしてさ。仕事で男と二人きりで話してんのとか見たら……『俺が好きなんじゃねぇのかよ!?』とか思っちまって何か妙にモヤモヤしたり……」
「……仁人、私、それ初めて聞いた」
悦子が目を丸くする。
「……スルーしろ。今お前に話してんじゃねぇから」
「えー。だって、私の話でしょ!?」
「あとで聞け」
「何それ」
そのやり取りに少しだけ笑った瑠璃香に、仁人が改めて向き直る。
「まあ、そういうのがあって。だんだん悦子を見る目が変わってきたっていうか」
「うん」
「だから、小笹が駄目だったから悦子に切り替えたとか、そういうんじゃねぇから」
いつもヘラリと冗談を言いがちな仁人が、今はとても真剣な顔をしていた。
「俺はちゃんと悦子のことが好きだって思ったから付き合おうって言った……」
自分が瑠璃香にどう思われるかというより、悦子が自分のことを〝瑠璃香の代わり〟だと思ったりするのでは? と心配なんだろう。
#極道
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月詠 涼
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それが分かって、何だか安心した。
「うん」
「そもそも小笹は、気付いてなかったかもしんねぇけど……」
「何が?」
「お前、俺のこと、異性として見てくれたこと、一度もなかっただろ?」
「……」
思わず黙ってしまう。
否定しようとして、でも出来なかった。
「……まあ、うん……そう、だね」
「だよなぁぁぁ」
「だって私、悦子が日下のこと好きなの知ってたし」
「……え?」
仁人の動きが止まる。
「ちょっと待て、それっていつから……?」
仁人の問いに、瑠璃香は悦子を見遣る。
「それは本人に聞いて?」
仁人の視線が自分へ向いたことにそわそわとして、ややして悦子は観念したように小さく吐息を落とした。
「その……入社式の時から……ずっと」
「は?」
仁人の驚いた顔を見つめながら、瑠璃香が続ける。
「私は悦子からずっとその相談を受けてたの。……だから日下だけは、最初からそういう対象から除外してた」
「マジかぁー。最初から脈なしだったってこと?」
「うん」
「容赦ねぇな!」
悦子が、困ったように瑠璃香を見る。
「瑠璃香……気を遣わせてたよね。ホント、ごめん」
「いいの」
「でも……」
「本当にいいんだって」
瑠璃香は少し考えてから、続ける。
「それがなくても多分、私、日下には惹かれてなかったと思うし」
「ひでぇ!」
仁人が即座に突っ込んできた。
「ふふっ」
「そこは嘘でも〝分かんない〟とか言ってくれよ!」
「だって……今さら日下に期待持たせても仕方ないでしょう?」
「もう期待してねぇし、その必要もねぇよ!」
「うん、そうだね」
「ああ、何しろ今の俺は悦子一筋だからな!」
仁人が言い切って、悦子が「ふぁ!?」と奇声を発して真っ赤になる。
そんな悦子を見て、瑠璃香は心の底から幸せな気持ちになった。
(よかった)
日下が自分を好きだったこと。
悦子が日下を好きだったこと。
瑠璃香が悦子の気持ちをずっと知っていて応援していたこと。
交錯していたそれぞれの想いが、ようやくいい形に並んだ。
「おめでとう、二人とも」
改めて言った瑠璃香を、二人が幸せそうな……だけどどこか照れくさそうな眼差しで見つめてくる。
コメント
2件
収まるべきところにみんな収まった気がする!(○︎´Δ`人)
ああ、ようやく三人の想いがひとつの場所に収まった感じがしますね。仁人が「切り替えたわけじゃない」と誠実に説明するところ、すごく良かったです。それに瑠璃香がずっと悦子の気持ちを知っていて応援していたという事実が明らかになることで、この関係の美しい着地点がより際立ちました。お互いを想い合う気持ちの積み重ねが、この答え合わせに繋がったんだなと感じます。