コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
■ 第八章:闇より迫る牙 ―敵の反撃
ロジン小隊が安全地帯で束の間の休息を取っていた夜明け前。
霧は濃く、山の空気は凍えるほど冷えていた。
その静寂を破ったのは――
突然の爆音だった。
「伏せろ!!」
ロジンが叫ぶと同時に、地面が揺れ、火柱が上がる。
敵の迫撃砲が、まるで座標を知っているかのように正確に降り注いだ。
アザルが叫ぶ。
「どうして場所がバレた!? シラン、無線は遮断していたはず!」
シランは機器を確認する。
「ジャミングを突破されてます!
敵の周波数が、前よりずっと高度!」
胸を打つ嫌な予感が走る。
ロジンは唇をかみしめた。
(仲介人……私たちの動きを読んでいる。)
■ 四方から迫る敵影
霧の中から、敵兵士たちが現れた。
動きに迷いがなく、訓練された精鋭部隊。
アザルが息を呑む。
「これはただの武装勢力じゃない。
正規軍レベルの動き!」
ロジンは即座に指示を飛ばす。
「全員、撤退準備!
南の尾根に抜ける!」
しかし敵はすでに南側に回り込みつつあった。
シランが叫ぶ。
「隊長! 南塞がれました!」
ホシュワンが妹を抱えて走り寄る。
「北は!? 北へ抜けられないか!?」
アザルが双眼鏡を覗き、顔色を変える。
「北も敵影多数! まるで待ち伏せされてる!」
小隊は完全に包囲されていた。
■ ロジンの奮戦
ロジンは迷わず突撃する。
「アザル、東側に抜ける!
シラン、妨害波を上げて敵の無線を妨害!!
ホシュワンは妹を守れ!」
敵兵士の精鋭部隊が
一斉に銃火を浴びせてくる。
ロジンは岩陰を移動しながら反撃し、
ひとり、またひとりと敵を仕留めていく。
だが―
敵の数は減らず、むしろ増えている。
アザルが苦鳴をあげる。
「くそ!!数が多すぎる!」
■ シランの発見
その混乱の最中、シランが無線機を叩きながら叫ぶ。
「隊長!
味方じゃありません!
敵の周波数の中に
仲介人の音声が混じってます!」
ロジンは目を細める。
「やっぱり。
あたし
たちを“釣り上げる”ための攻撃か。」
敵の目的は殲滅ではない。
ロジン小隊を生け捕りにし、情報を奪うこと。
その瞬間、上空にドローンの羽音が響いた。
アザルが叫ぶ。
「ドローン!!」
■ 絶望的な包囲網
敵は三方向から迫り、空には爆撃ドローン。
逃げ道はほぼゼロ。
ホシュワンがロジンへすがるように言う。
「隊長どうすれば!!」
ロジンは周囲を一瞬だけ眺め、
息を吸いそして言った。
「尾根の下へ飛び降りる。」
アザルとシランが目を見開く。
「正気!? 下は崖よ!」
「落ちたらただじゃ済まないぜ!!」
ロジンは首を振る。
「ここに留まるよりは生存率は高い。
霧が濃い今なら、落下地点を悟られない。」
ホシュワンが妹を抱き締め、言う。
「隊長…信じていいんだな?」
ロジンは力強く答える。
「あたしはあなたたちを、死なせない。」
■ 崖へ向かう最後の突撃
ロジン小隊は弾幕を張りながら崖際へ走る。
敵の銃弾が背後を掠める。
爆撃ドローンが頭上を横切り、地面を爆ぜさせる。
アザルが叫ぶ。
「もうすぐ崖だ どうする ロジン隊長!」
ロジンは迷わず叫ぶ。
「ロープを出して! !落下!!
全員つかまれ!!」
背後からさらに敵の増援が迫る中、
ロジン小隊は霧に覆われた崖へと飛び込んだ。
視界が白く染まり、風の唸り声が耳を裂いた。
■ 第九章:折れた翼 ― ロジンの負傷
白い霧の中を落下したロジン小隊は、
運良く斜面の途中に引っかかるようにして停止した。
しかし
「ううっ…!!」
ロジンは落下の衝撃をまともに受け、
右脚が不自然な角度に曲がったまま動けなくなっていた。
アザルが声をあげる。
「隊長の 足が…!!」
ロジンは歯を食いしばり、痛みに耐えながら言った。
「動ける。応急処置だけ…して。」
だがその表情は明らかに蒼白で、
誰が見ても“戦闘不能”だった。
■ 敵ドローンの追跡
斜面上方から、
爆撃ドローンの不気味な羽音が近づいてくる。
シランが無線機を操作する。
「隊長、逃げましょう。
動ける人だけでも。」
アザルが怒鳴るように叫ぶ。
「ふざけるな! 隊長を置いていくなんて絶対にありえない!!」
ホシュワンは妹を守りながら周囲を警戒していた。
その時、ロジンが苦しげに目を開ける。
「落ち着いて。
あたしを置いて行けとは
言わない。
だけど
走れないあたし
が足を引っ張る。」
アザルは首を振る。
「そんなの関係ない!!
あんたがいなかったら…ここまで来れてない!」
■ 即席の担架
ホシュワンが決断するように声を出す。
「担いでいく。
枝を使えば即席の担架が作れる。」
シランも頷き、急いで木材を集め始める。
ロジンは弱い声で止めようとする。
「危険だ。あたしのせいで速度が落ちる。」
だがアザルがロジンの肩を掴み言った。
「ロジン。
あんたは、 隊長でしょ。
なら、“守られる番”があってもいいじゃないですか。」
ロジンは、ほんの少しだけ視線をそらした。
「すまない。」
■ 崖下の逃走
簡易担架に載せられたロジンを抱え、
小隊は斜面の下へと走り出す。
しかし、上空のドローンがしつこく追いすがる。
ホシュワンが叫ぶ。
「アザル、迎撃できるか!?」
アザルがSVDを構え、深呼吸する。
「やるしかない。」
ドローンが高度を下げ、爆撃しようとした瞬間―
パンッ!
一発の銃声。
アザルの弾丸がドローンの側部に命中し、
ドローンを破壊した。
空中で火花が散り、ドローンは墜落した。
シランが叫ぶ。
「よくやった、アザル!」
■ ロジンの意識が遠のく
担架の上でロジンは薄く目を開けた。
視界が揺れ、世界が歪んで見える。
「みんな、ほんとうに…強くなったな…。」
アザルが慌ててロジンの手を握る。
「ロジン隊長!! 眠っちゃダメだ!
止血はしてるけど…血圧が落ちてる!!」
ホシュワンが険しい声で言う。
「急ごう。
このままだと隊長が危ない。」
小隊はロジンを守りながら、
深い山の中へと逃れ続けた。
その背後―
霧の向こうで、
ひとりの男がゆっくりと
こちらを見下ろしていた。
ドローンの操縦端末を握ったまま。
仲介人の側近
通称“黒狼(カラ・クル)”。
彼は無線に低く呟く。
「逃がしたか。
だが、あの指揮官が動けなくなった以上…
次で仕留める。」