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肌寒い季節です。
今週演奏会なので私たちの部活はいつも以上に張り切っています。
「百瀬さん、ファーストトランペットミスなく吹けるようになったのね。凄い上達。」
「さすが”百瀬 優の娘”」
「これからも頑張って!」
それだけ言って先生は音楽室から出ていきました。
私は私なのに。いつまで経っても”百瀬 優の娘”でしか見られません。
いつになったら”百瀬 鈴”として見てくれるのでしょうか。
「今週演奏会あるんだね!それも日曜日!」
「うん、。」
彼の話がめずらしく耳を通りません。
「鈴?元気無い?」
「ごめん、大丈夫、!」
いつもこうです。
強がってばかりで助けなど求められないんです。
「嘘だ。元気ないじゃん。大丈夫じゃないじゃん。」
「そうだね、。少し元気がない、かな。」
何故でしょう。彼の前では嘘をつこうと思うってもそれが出来ないのです。
「大丈夫だよ、鈴。」
「俺が着いてるから。」
そう言って彼は私の左手をそっと握ってくれました。
私も彼の右手を握り返したのです。
スマートフォンの通知音が鳴ります。
俊ちゃんからの電話でした。
「もしもし、どうしたの?」
「少し歩かない?」
「で、何があったの?」
「いや別に、特に何もないんだけどさ。普通に鈴に会いたくなった。」
「意味わかんない」
珍しく私の歩幅に合わせて歩いてくれる俊ちゃんが少し大人に見えたのです。
「あのさ、小さい頃約束したこと覚えてる?」
「約束、?」
「鈴!なんで泣いてるんだ?」
「ゴン太くんに虐められたの。」
保育園児の中ではかなり大きくていつも威張ってばかりのゴン太という奴がいた。
いや、実際にはゴン太というのはあだ名で本名は違った気がする。
ゴン太は小柄でおっとりした鈴のことが好きでよくいじめていた。
鈴はそんなゴン太が嫌いで、いらじめれていつも泣いていた。
「分かった!俺がゴン太から鈴を守るよ!」
「だから、だから大きくなったら俺と結婚しよう!」
そんな俺も初恋が鈴だった。
今も好きだ。ずっとずっと、これからも好きだと思う。
「俊ちゃんが鈴を守ってくれるの?」
「なら鈴安心だ!」
そう言って太陽のように笑う君。
誰にでも優しいところも、大人びた性格も、笑った時のえくぼも、思った事がすぐ顔に出ちゃうところも全部、全部大好きだ。
「そりゃあ、覚えてないよな、。」
「え?」
「俺さずっとずっと前から鈴のことが好き。」
頭が真っ白になりました。
俊ちゃんが私のことを好きだなんて1ミリも知りませんでした。
「うん、ありがとう。」
今までどれだけ長い間俊ちゃんと過ごしてきたでしょう。
正直に言うと私のことを一番知っているのは彼ではなく俊ちゃんです。
だからでしょう、俊ちゃんは私の事が好きだということだけ伝えたかったのだと分かってしまうのです。
「それだけ、だから。じゃあな。」
そう言って自分の家に入ってしまいました。
きっともう俊ちゃんとまともに会話することはできないのでしょう。
私の命が尽きるまであと4ヶ月です。