最近、グループ最年長の藤澤には、可愛い恋人の事で悩みがあるらしい。
「元貴、好きだよ。」
「うん、ありがとうー。」
「元貴、大好きだよ。 」
「うん、知ってるー。」
「元貴、愛してる!」
「もうっ!しつこい!」
これである。
藤澤は気付いた。
そういえば、大森に好きと言われた事がほとんどない事に。
付き合いたての頃は言ってくれていたような記憶はあるけど、それも片手に収まるくらいの回数だ。
「ねえ、なんで元貴は好きって言ってくれないの?」
「言わなくても分かるでしょ。」
分かってる。
言葉にせずとも態度で示してくれてるのは分かってる。
それに、こんな事言うのは女々しいと言うのも百も承知だ。
それでもやっぱり好きな人には好きと言って欲しいのが、藤澤的乙女心な訳で。
「ライブでJAM’Sのみんなには愛してるよって言ってるじゃん!」
「…涼ちゃんはJAM’Sはじゃないもん。」
「そうじゃなくって、JAM’Sには言えて、なんで僕には言ってくれないのって話!」
「あー!うるさいっ。」
食らいつく藤澤に痺れを切らしたのか、耳を塞ぎながら離脱する大森。
やりすぎたか…とも思うが、藤澤も実は結構傷付いてる訳で。
どうしたもんかと考えた挙句、強硬手段に出る事にした。
その手段とは、藤澤も好きや愛してるの言葉を言わないと言う事。
あれから2週間が経つ。
毎日、あれだけ言ってたのに全く言わなくなった事に対して、大森はもちろん直ぐに気が付いた訳だが、お互い我慢比べ状態となっていた。
ただ、大森からのスキンシップが多くなった気がしている藤澤。
元からスキンシップは多いタイプではあるが、やたら腕を組んできたり、膝の上に乗って来たりの頻度が明らかに増えている。
意識しているのか無意識なのかは分からないが。
「寒い?」
「…。」
MVの撮影待機中、例に漏れず腕を組んでくる大森。
問いかけても返事をしない大森の顔は、拗ねているようにも、何かを思い悩んでいるようにも見える。
そんな大森に優しい藤澤は良心が痛む。
その後、近くに居るのだから口で言えばいいのに、 『今日、涼ちゃん家行ってもいい?』とLINEがきた。
「どうぞ〜。」
「…お邪魔します。」
元貴にとっては勝手知ったる家。
玄関のドアを開けてあげると、さっと入りいつものスリッパを履いてリビングに。
藤澤は先にいつもの定位置に座る大森を横目に、二人分の飲み物を用意して隣に座った。
「…ありがと。」
そう言って、大森は出された飲み物をチビチビ飲む。
その横顔は何か言いたい事があるけど、言い出せないと言った顔。
もう、これだけ長く一緒に居るのだから、顔を見たら大体分かる。
「今日はどうしたの?」
大森が話しやすいように、笑顔で話を振る藤澤。
そんな藤澤の事をチラッと見てから意を決したように、飲み物をテーブルに置いた。
「…涼ちゃん、ぼくの事、好きじゃなくなったの?」
「そんな訳ないじゃない。」
「じゃあ…なんで…」
「言わなくても分かるでしょ?」
大森と藤澤の目が合う。
大森の目にはうっすら涙が溜まっているように見えた。
「わ…かるけど…分かんないっ。」
「不安?」
小さく頷く大森。
「僕も。」
そう言って、藤澤は小さい子をなだめるよう優しく大森の頭を撫でる。
「…ず…しい…ら」
「ん?」
小さすぎて聞こえない大森の声に、首を傾げる。
「恥ずかしいから…大好きな人に、大好きって言うの。」
下を向いていて表情は分からないけど、耳が真っ赤になっている大森を思わず抱きしめる。
「え、なにそれ。可愛すぎない?」
「うるさいっ。」
言葉とは裏腹に大森も藤澤の背中に手を回しギュッと抱きつく。
「なんか…歳上みたいでウザい。」
「みたいじゃなくて、歳上なんです。」
ピッタリくっついているので、自分の服が少し濡れているのに藤澤は気付き、大森の背中の優しくポンポンと撫でた。
「ぅぅ…ウザい。」
「ウザくてもいいよ。でもさ、たまには元貴にも好きって言ってくれたら嬉しいな。」
「…。」
「だめ?」
藤澤の腕の中で首を横に振る大森。
「ふふっ、ありがと。」
「…。」
「元貴、大好きだよ。」
「…ぼくも…涼ちゃんのこと大好き。」
-fin-
コメント
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多分、凄く前のご作品なのですが、好きすぎてコメントさせて頂きます。 もう、大森さんが可愛すぎて.....🫠 それを抱擁してくれる涼ちゃんも尊すぎて....💕 素敵な作品、ありがとうございます✨