ねぇ、先輩。
私、先輩に会えて、本当に良かった。
先輩と、一緒に過ごせて、本当に良かった。
ねえ、せんぱい。
8月、上旬。セミの声と熱い空気に包まれながらーいや、邪魔されていると言った方が正しいかもしれないがー私、津城菫は、陸上部のジャージを着て高校への道のりを歩いていた。この高校に入学してからの3ヶ月間歩き続けた坂道の多いこの道にも、もう慣れてきた。
ずっと、ずっと、陸上が大好きだった。
その気持ちは今も変わらない。
この高校に入った理由も、陸上の強豪校だったからだ。勉強が嫌いな私が毎日学校に行けているのは、毎日放課後に部活があるからと言っても過言ではない。
それと、もう1つ、この高校に毎日通える理由がある。
それはー
「綾瀬先輩、おはようございます」
「ん、おはよ」
綾瀬桜翔先輩に会えるから。
先輩は、面白くて、優しくて、可愛い。
先輩は、面白いことをすぐ思いついて、みんなを笑わせてくれる。
先輩は、分からないことがあると、分かりやすく、丁寧に教えてくれる。
先輩は、笑顔が可愛い。
もっと、先輩と、仲良くなりたい。
暑い日差しの中、今日も練習が始まる。顧問の赤城先生は、顔が怖いことから、赤鬼(あかぎ)とも呼ばれている。そんな先生が考えるメニューも鬼である。今日の暑さは先生には関係ないようで、思いっきり外でやるものばかりだ。容赦なく照りつける太陽に睨みを利かせ、自分の根性と勝負する。少し離れたところでは、綾瀬先輩が他の2年生と練習をしている。
私と、綾瀬先輩は、同じ長距離選手だ。だから、部活の中で綾瀬先輩に1番接近できるのが種目ごとの練習時間。今日は1年と2年でそれぞれの走りを見合うらしい。綾瀬先輩の走りをはやく見たかった。
「よーい……」
ぱあぁん
2年生の長距離選手が、一斉にスタートする。
私の目線は、トラックにそって走る綾瀬先輩に向けられる。綾瀬先輩は部で1番速い訳ではないけど、フォームの綺麗さは誰にも負けてない、と思う。
あっという間に2年生はトラックを何周も走り抜け、全員ゴールラインを通過した。2年生は、みんな速かった。私もあれぐらい速く走れるようになるのだろうか。
1年生の番になった。
「よーい……」
ぱあぁん
2年生の先輩みたいに、一斉にスタートする。
私が中学生の時は、長距離は部活内では1番速かった。
でも、高校に入って初めてタイムを計ったときは、中学の時より落ちてしまった。たぶん、部活を引退してから走る機会があまりなかったからだと思う。
長距離は陸上の種目の中で1番好きな種目だった。だから、中学の時は長距離を選んだ。冬の体育で持久走があるとき、友達はみんないやな顔をしてたけど、私は好きだった。昨日の自分と競うのが面白かった。
今、戦うべき相手は、中学の頃の自分なんだと思う。
高校では、中学の自分を超えて、先輩も超えたい。
そして、中学生の時に果たせなかった全国の大会に出たい。
それが、今の私の夢だ。
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