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■就活の終わり、未来の始まり
ある朝。
ヒカルのスマホに、一通のメールが届いた。
「警視庁採用最終試験合格」
画面を見た瞬間、息が止まった。
「やった!」
小さく叫ぶと、ロジンが驚いて部屋から出てきた。
「ヒカル?どうしたの?」
ヒカルはメールを見せ、涙ぐみながら言った。
「受かった!警察官になれる!」
ロジンは一瞬、言葉を失って固まった。
そして次の瞬間、ヒカルを強く抱きしめて泣き出した。
「ヒカルすごい本当に…!」
「ママの背中を見て育ったからだよ」
ヒカルの声に、ロジンはさらに涙を流した。
■警視庁採用、東京へ
4月。
東京都心にある警視庁の教育センターに、ヒカルは入った。
初めて着る濃紺の制服。まだ硬い生地。
けれど袖を通した瞬間、胸の奥に熱いものが湧き上がる。
「今日から、私は守る側に立つんだ」
訓練は厳しかった。
拳銃の基礎操作、護身術、無線の扱い、人命救助。
夜まで続く日もあった。
それでもヒカルは弱音を吐かなかった。
母が、かつて戦場を生き抜いた人だと知っているから。
「私も、生きたい未来を守りたい」
その思いがヒカルを強くした。
■配属初日、新人らしくない新人
6月、ヒカルは都内の繁華街を担当する警察署に配属された。
治安維持、パトロール、迷子対応、交通整理。
新人ながら、街には事件が絶えなかった。
ある日、ヒカルは夜の駅で様子のおかしい男を見つけた。
挙動不審、手の震え、視線が定まらない。
周囲の女性に近づいては離れ、また近づく。
ヒカルは先輩に静かに言った。
「先輩、あの人…危ないです」
先輩は驚いた顔をした。
「よく気づいたな。あれは“兆候”だね。行くぞ」
二人は慎重に接触し、男は未然に保護された。
先輩がぽつりとつぶやく。
「おまえ、新人にしては“見えてる”な」
ヒカルは照れくさく笑った。
「ママから学んだので」
■ロジン、新しい日々
その頃―
ロジンはPTSDの専門クリニックに定期的に通い、治療を受けていた。
フラッシュバックはまだ完全には消えない。
けれど、以前のように夜中に崩れ落ちることは少なくなった。
医師に言われた。
「あなたには支えがある。娘さんですね」
ロジンは微笑む。
「はい。娘がいるから、私は前に進めます」
治療と同時に、ロジンは日本語学校で非常勤講師から専任講師へ。
彼女のクラスは人気があった。
実戦的で、温かくて、時々クルド語の文化も交える。
学生たちから“ロジン先生は太陽だ”と呼ばれるほど。
ロジンは教室で笑顔を見せるたびに思う。
—カイ、あなたがくれた命が、こうして続いている。
■娘の活躍、母の誇り
ある夜。
ヒカルは久しぶりに夕飯に間に合い、二人で食卓を囲んだ。
「今日ね、迷子の子を助けたんだ。
泣きながら“ありがとう、おまわりさん”って言われてさ」
ロジンはその言葉だけで胸が熱くなった。
「ヒカル…あなた、本当に立派になったわ」
ヒカルは苦笑しながら箸を置いた。
「でもママだって、外国語教室でめっちゃ人気じゃん。
私なんかより、よっぽど活躍してるよ」
「そんなこと」
「あるよ。
私はママの子だから、強くなれたんだよ」
ロジンの目から、静かに涙が落ちた。
「ヒカル…ありがとう」
■静かな夜に、確かな成長
食後のコーヒーを飲みながら、ヒカルがふと言った。
「ママ、少しずつだけど…笑えるようになったね」
ロジンは頷き、窓の外の夜景を見つめた。
「ええ。
あなたのおかげで、私は“今”を生きられているの」
ヒカルは照れくさく笑う。
「じゃあ、明日も守るよ。みんなと、ママのこと」
その言葉は、静かな部屋に温かく響いた。
母は、少しずつ過去を癒しながら前へ。
娘は、東京の街で強く優しく成長していく。
二人の未来は、確かに光へ向かっていた。
■白石凌、休暇の上京
北海道警察の白石凌は、久しぶりにまとまった休暇を得た。
「たまには都会の空気も吸わないとな。」
そうつぶやき、新千歳から羽田へ向かった。
上京の目的は観光─ではあるが、もうひとつの理由があった。
ヒカルが都内で警察官として働いている。
義理の娘の成長を、この目で見てみたい。
しかし
忙しいだろうから連絡はせず、こっそり街を歩くだけにしよう、
そう決めていた。
■浅草の午後、事件の空気
浅草の雷門前。
観光客でにぎわう中、白石は人ごみを歩いていた。
私服姿でも警官の雰囲気は抜けず、その鋭い目は無意識に周囲を警戒している。
すると
「キャアッ!! 財布がっ!」
中年の女性の悲鳴。
通りを走り抜ける黒いパーカーの若い男。
白石の身体が条件反射で反応した。
「ひったくりか…!」
休暇中だ。
それでも警察官は警察官だ。
白石は一瞬で追走に入った。
■白石、犯人を追い詰めるが…
男は細い路地に入り、スピードを上げて逃げる。
白石も全力で追うが、さすがに東京の土地勘はない。
曲がり角で一瞬迷い、男との距離が開く。
「ちっ…! 逃すわけには─」
そのとき。
路地の先で、誰かが犯人の進路に飛び出した。
黒色の短い髪。
警察の青い制服。
すらりとした体躯。
ヒカルだった。
■ヒカル、見事な確保
ヒカルは瞬時に状況を把握すると、体勢を低くしながら声を張った。
「警察だ!! 止まりなさい!!」
男は勢いのままヒカルに突っ込む。
しかし
ヒカルは横に流れるように身体をずらし、
男の腕を掴んで重心を崩した。
「っ……ぐ!!」
路地に倒れ込んだ男の腕を取り、
柔道技の要領で抑え込む。
「確保!! 応援お願いします!」
無線を飛ばす声は、堂々としていた。
白石はその光景を見て、思わず立ち止まった。
見違えたな。
■白石とヒカル、再会
犯人が署のパトカーに乗せられたあと、
ヒカルが振り返り、白石に気づいた。
「えっ?」
驚きに目を丸くし、制服のまま駆け寄ってくる。
「叔父さん!? なんで東京に? 休暇じゃなかったんですか?」
白石は息を整えながら、笑みを浮かべた。
「休暇で観光に来ただけだよ。
まさか、こんな形で会うとは思わなかったがな」
ヒカルは照れたように頬をかいた。
「見られてたんですね、私の arrest(逮捕)。」
「見事だったよ。
体の使い方、判断力、無線…
“新人の動きじゃないよ”」
ヒカルは顔を赤くした。
「そんな、大したことじゃ…。」
「いや。
あれは“守る者”の動きだ。
ロジンの娘は、やっぱり強いな」
その言葉は、ヒカルの胸に深く響いた。
■白石、ロジンを想う
ひとしきり話したあと、白石はふと聞いた。
「ロジンさんは…元気にしてるか?」
ヒカルは笑って頷く。
「うん。PTSDの治療も続けてるけど、授業では生徒に人気だよ。
“ロジン先生は太陽みたい”って」
白石は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「君が支えてくれてるんだろう」
ヒカルは黙って微笑んだ。
■帰り際のひとこと
浅草寺の境内で、二人は別れ際に立ち止まった。
「叔父さん、また来てよ。
仕事で疲れたら、うちに遊びにきて」
「ああ。
君の成長を、これからも見たいからな」
ヒカルは照れながら敬礼をした。
「はい、“義理のパパ”」
白石は思わず吹き出した。
「おいおい…。」
けれど、その表情はとても嬉しそうだった。
■四月下旬・夜の東京
ヒカルが警視庁に配属されて1ヶ月ほど。
新人とは思えない働きを見せ、先輩にも一目置かれ始めていた。
その夜、交番勤務を終えて帰ろうとした時、
署内の雰囲気がざわついた。
「誘拐だと?」
「被害者は小学生の女の子。犯人は現金強奪の前科持ち…。」
緊急配備のアラームが鳴る。
ヒカルの背筋に、冷たい緊張が走った。
■臨時捜査本部
本部の会議室に警察官が集められる。
新人のヒカルも、例外ではなかった。
捜査一課の刑事が状況を読み上げる。
「犯人・佐伯裕二(31)。強盗傷害の前歴あり。
本日午後7時、帰宅途中の小学3年・綾瀬茉莉さんを連れ去った。
母親の携帯に“300万円用意しろ、警察に言うな”と脅迫電話」
暗く重い空気。
ヒカルは拳を握った。
絶対に、助ける。
■新人ヒカル、異例の抜擢
捜査主任がメンバーを配置していく。
「現場周辺の聞き込み班は…」
その時、別の刑事が言った。
「主任、今回ルート周辺の地図把握なら、
新人の日向(ヒカル)が役に立つかもしれません。
こいつ、地理的記憶力が異常に高い」
突然名前を呼ばれ、ヒカルは驚いた。
しかし主任は鋭い目でヒカルを見ると──
「日向、犯人の逃走ルート分析を手伝え。
新人を本部に入れるのは異例だが、失敗は許されんぞ。」
「はい!」
その声は震えていない。
白石に褒められたあの日、胸に刻んだ言葉がある。
守る者の動きをする。
■ヒカルの“地図頭脳”発揮
犯人が電話をかけてきた公衆電話から、
徒歩で移動できる範囲を地図で追う。
ヒカルは地図を見た後、数秒で言った。
「犯人が身を隠せる建物はここかなと…。」
指さしたのは、古い倉庫群。
刑事たちが驚く。
「なんでそう思う?」
「犯人の足。
“右膝を痛めて引きずっていた”と言っていた目撃者がいます。
長距離は無理。細い道を通って見つかりにくい場所……
ここしかありません」
主任は短く頷いた。
「捜査一課、出るぞ。日向、お前も来い」
新人としては異例の現場同行。
ヒカルは深呼吸して車に乗り込んだ。
■廃倉庫での緊迫
倉庫街は静まり返り、風の音だけが響いていた。
「茉莉ちゃんの声は聞こえるか?」
捜査員が耳を澄ます。
そのとき。
「……だれか…たすけて……」
小さな泣き声。
ヒカルが先に気づいた。
「この建物の中です!」
主任が判断を下す。
「突入準備!!」
数十秒の緊張。
ヒカルの心臓が激しく脈打つ。
「行け!!」
ドアが破られ、中に突入する。
■犯人との対峙
茉莉を抱いた男が、ナイフを振り上げた。
「来るな!!」
刑事たちが一歩下がる。
ヒカルは一歩、前に出た。
「佐伯さん。
その子はあなたに怯えてます。」
犯人が動揺する。
「黙れ…警察が何を!!」
「あなた、膝を痛めてますよね。
茉莉ちゃんを抱えたまま逃げられない。
それでも、傷つけたいんですか?」
ヒカルの声は、震えていなかった。
ロジンを夜な夜な慰めた日々が、
“相手の心に触れる”力を育てていた。
犯人の手が、少しだけ下がる。
その一瞬。
「今だ!!」
刑事が飛び込み、犯人を取り押さえた。
茉莉が泣きながらヒカルに抱きついた。
「おねえさん…こわかった。」
ヒカルは優しく抱きしめた。
「もう大丈夫。
お母さんのところに帰ろうね」
■ヒカルの成長
事件後。
署の屋上で夜風に当たりながら、
主任がヒカルに声をかける。
「あの交渉はよかった。
新人で突入現場に放り込むのは賭けだったが…
見事だ。」
「私なんて、まだまだです」
「いや。
あれは“現場の空気を読める人間”の動きだ。
大したもんだよ」
ヒカルは照れくさそうに笑った。
■ロジンの待つ家へ
帰宅すると、ロジンが机に向かって日本語教材を作っていた。
「遅かったね、ヒカル。
事件?」
ヒカルはロジンの肩にそっと手を置いた。
「うん。でも無事に終わったよ。
怖かったけど、誰も失わなくてよかった」
ロジンは安心したように微笑んだ。
「ヒカルは…強くなったわね。」
「ママを守りたいから、強くなるんだよ」
ロジンの目が少し潤んだ。
二人の夜は、静かで温かかった。
■休日の午後
ヒカルは珍しく完全な“非番”の日。
駅前のショッピングモールを歩いていた。
「今日はゆっくりしよ…
買い物して、
ロジンの好きな
和菓子でも買って帰ろう。」
空気は穏やかで、
ヒカルの心も緩んでいた。
だが
それは突然破られる。
■モール内に銃声
乾いた破裂音。
人々が悲鳴を上げて走り出す。
次の瞬間、怒号が響く。
「動くな!!金品を全部出せ!!」
黒ずくめの男たち3人が、
拳銃を構えて
モールの宝飾店に押し入っていた。
(銃…!!本物だ。
まずい、こいつらはプロだ)
警察手帳も拳銃も持っていない。
完全に一般人と同じ立場。
逃げようと思った、そのとき。
「おい! そこの女!!」
強盗の一人がヒカルを見た。
「来い。人質になれ」
選ぶ余地などなかった。
■銃口を突きつけられるヒカル
ヒカルは強盗団に腕を掴まれ、
宝飾店の中へ引きずり込まれた。
「きゃああっ!」「助けて……!」
悲鳴を上げる他の客たち。
強盗たちは銃を乱暴に振り回す。
「抵抗すんなよ。
てめぇの頭、これで吹っ飛ぶからな」
(大丈夫。動揺しない)
ヒカルの呼吸は乱れない。
警察学校で叩き込まれた。
“人質になったときの対処法”が体に刻まれていた。
(全員の銃、動き、視線、距離
把握しろ。必ず隙は来る)
■強盗団の正体
リーダー格の男が言う。
「撤収だ。
裏口から車に乗り込むぞ。
この女を盾にする」
ヒカルは悟った。
(逃走用ルートを確保してる。
動きに無駄がなく、手慣れている。)
警察が到着する前に出るつもりだ。
■ヒカル、賭けに出る
裏口に近づく途中、男の一人がヒカルに銃を押しつけた。
「お前、妙に静かだな。
怖くねぇのか?」
ヒカルは微笑む。
「あなたたちの動き、少し雑ですね」
「あ?」
「最初に宝石を袋に詰めるとき、
一番右の男だけ利き手が逆。
銃の扱いも不慣れ。」
男が激昂し、銃口を押し込んだ。
「黙れ!!」
その瞬間─
ヒカルは靴の裏で、
床の小さな宝石を後ろへ蹴り上げた。
強盗たちの視線が一瞬だけ逸れた。
(今!!)
ヒカルは全身の力を使って、
銃を握る腕を思い切り下へ叩いた。
パンッ!
誤射で床が砕ける。
「な…に!!」
ヒカルは素早く床に滑り込み、
一人の男の膝裏を蹴り抜いた。
「うぐっ!!」
銃が手から離れ、
ヒカルは反射的にそれを拾い上げる。
(引き金…安全装置…解除!!)
そして、強盗2人に銃を向けた。
「動くな!!
あなたたちの逃走はここで終わり!!」
■完全な逆転
残る2人の男たちは驚愕して立ちすくむ。
「何だコイツ、素人じゃねえ!!」
「警察だ。
非番だけどな」
ヒカルの目は鋭く光る。
銃口をぶれさせず、
声も震えない。
「武器を捨てて伏せろ。
3秒以内に」
男たちは互いに顔を見合わせる。
ガチャン。
銃を落とし、腹ばいになった。
ヒカルは迅速に銃を拾い、
関節固定の姿勢で拘束する。
宝飾店の客たちが涙ぐみながら拍手した。
「すごい警察の人!!」
「ありがとう…ありがとう。」
■その直後、警察到着
警視庁の特殊部隊 SAT が突入準備をしていたが、
扉を開けると
「犯人3人、確保済みです。
武器も押収しました」
淡々と報告するヒカル。
SATの隊長は呆然。
「えっ?新人…だと?」
■ニュース速報
その日の夕方─
テレビ各局は速報を流した。
「非番の女性警察官、銃器強盗団を単独で制圧」
「人質全員無事、犯人3名逮捕」
ロジンは自宅で教材を作っていたが、テレビ画面を見て固まった。
画面には─
銃を構え、犯人に指示をしているヒカルの映像。
「ヒ、ヒカル!?」
急いでスマホを手に取る。
すると着信があった。
「ママ。
ごめん、心配したでしょ?」
声は少しだけ疲れていた。
「ヒカル!!無事なの!?
怪我は!?怖かった!?どうしてこんな!」
「大丈夫。
ママに心配かけられないしね」
ロジンは涙が溢れた。
「立派になったね、本当に」
「うん。
守りたい人がいるから、強くなれるんだよ」
■夜、帰宅
ヒカルが帰宅すると、
ロジンはその胸に飛び込んだ。
「ヒカル…よかった……本当に…。」
ヒカルはロジンの背中を優しく撫でた。
「ただいま、ママ。
今日もあなたのために、私は生き抜いたよ!!」
二人の夜は、
涙と安堵に包まれて静かに更けていった。