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(一体……シュヴァリエは、どこに居るのかしら?)
沙織はこっそりと城の中を見て回ったが、シュヴァリエを見つけることは出来なかった。
何食わぬ顔でイザベラの部屋に戻ると――。
品の良い、タイトドレス姿のイザベラが待っていた。武装している時とは、まるで別人。美しかった。
「イザベラ、そのドレス……とっても、良く似合っているわ!」
「ありがとう、サオリ。でもねぇ……動き難いのよ、これ」と肩を竦める。
イザベラは王に会いに行くのだからと、侍女達に無理矢理着替えさせられたらしい。
さっき、たまたまヨーゼフと会ったことを伝えると、イザベラは顔を顰めた。
「ああ、ヨーゼフ祭司ねぇ。預言者として陛下は気に入っているから、大きな顔してるけど……私は大嫌い。なんか、下心ありそうで聖職者らしくない」
「ええ、私もそう感じたわ……。預言者って?」
(預言……? 予言とは何か違うのかしら?)
「うーん……よく分からないけど。何でも霊感があって、神からの言葉を聞いて伝える人――みたいな」
「神からの言葉? 」
(つまり、御告げってこと? だとしても……)
あんな聖職者らしからぬ眼をした人間が、本当に神の言葉なんて聞けるのだろうかと、疑問が残る。
(あの顔……神様より悪魔の方がよっぽど似合いそうだわ。ん? いや、まさかねぇ……)
ベリアル――そんな、名前が沙織の頭を掠める。
有り得ないと思いつつ、ヨーゼフの足下の影の変な動きが引っかかった。
「ねぇ、イザベラ。王に会いに行く前に、もう一度礼拝堂を見てきてもいいかしら?」
「うん、わかった。サオリの好きにすると良いわ」
「ありがとう!」
そう伝えると、沙織は急いで部屋を飛び出した。
侍女姿のまま一瞬で姿を消した沙織に、イザベラは瞠目し、ヒューッと口笛を吹く。
「何、今の!? やっぱり、サオリって面白い!」
◇◇◇
沙織は予め、目星をつけておいた場所へ向かう。
礼拝堂の周りに生えている大木に登り、太い枝の上に移動した。葉に隠れるように、天窓から礼拝堂の中の様子を窺う。
一見、何の変哲もない礼拝堂。
ヨーゼフの姿は見えない。まだ、城の方に居るのかもしれないと、少し待つことにした。
中では白の衣服を着た者が、行ったり来たりと何かしているのが見える。
(ん? 探し物をしているみたいだわ)
視力を強化して、更に食い入るように見る。どうやら、床や壁を調べている様だった。
(あの男の人、どこかで見たような)
身を乗り出した瞬間、口を塞がれた――。
「ぅぐっ………!?」
(しまった! 油断したっ!)
『……此処で、何をしている?』
殺気を含んだ、冷ややかな声が背後から聞こえた。
――ドクンッ!!
ずっと……聞きたかったその声に、心臓が大きく鳴った。
(……シュヴァリエ!)
苦しさも、自分に向いている殺気さえも気にならない。自然と涙が溢れて、口を塞いでいる手に流れて行く。その逞しい手に、震える自分の手をそっと重ねた。
その触れられた手の感触に、背後の人間は――ビクッと微かに動く。
「……!? ……サ……オリ様?」
ドクンと、もう一度心臓が鳴る。
口元の手が緩むと、振り向き……シュヴァリエの胸に飛び込んだ。沙織の動きに枝が揺れる。
「シュヴァリエ、やっと、会えた……」
小さな声で呟くと。もう離さないとばかりに、シュヴァリエの背中に回した手に力を入れた。
「……サオリ様、どうして此処へ?」
シュヴァリエの戸惑いの声が、耳元で聞こえる。
「……シュヴァリエを探しに」
「私は……帝国の人間です」
「知ってる」
「それならば! どうして来たのですかっ……貴女も狙われているのにっ」
「それも、知ってる。……でもっ!」
シュヴァリエから身体を離して、正面から見つめる。
「私は……シュヴァリエが好き。ずっと一緒にいたいの!」
そう。シュヴァリエが好き――沙織の中で、何がストンと落ちた。
「…………!!」
目を見開き、信じられといった表情でシュヴァリエは沙織を見下ろす。今にも泣き出しそうに……顔を歪めた。
――次の瞬間、沙織はシュヴァリエの腕の中だった。
狭い枝の上、木の幹に寄りかかるシュヴァリエ腕に包まれる。聞こえるのは葉擦れの音と、二人の鼓動と息遣い。
「サオリ様……愛しています」
震える声でシュヴァリエは言った。
◇◇◇
――どの位、そうしていただろうか。
「……うぉっほん!!」
と、木の真下から咳払いが聞こえた。
ハッとして下を見ると――。
さっきまで、礼拝堂をうろちょろ探っていた白い服装の人物が、こちらを見上げていた。
(あっ!)
その人物は、変装したサミュエルだった。
シュヴァリエは沙織を抱き抱えると、木から飛び降り、素早く人の目につかない場所へと移動した。
慌てて追いかけて来たサミュエルは、侍女の格好をした沙織を見て唖然としている。
「なっ……何故、貴女が此処に居るのです!?」
未だ、沙織が光の乙女と知らないサミュエルは、ぷりぷりしながら問い質そうとした。
まだ、魔力で負けたのを根に持っているようだ。
シュヴァリエが、スッと沙織の前に立った。
「サミュエル、失礼な態度は許さない。サオリ様こそが、光の乙女だ」
「……え? ぅ……ぇえええ!!?」
サミュエルは、驚愕の事実を知り項垂れた。
「光の乙女って、もっと清楚なイメージが……道理で、敵わない筈だ」
(今……思いっきり、失礼なことを言われた気がするわ)
もの凄くガッカリしているサミュエルに、沙織は何だか腑に落ちないものを感じた。