僕は今いじめを見てる。
いじめられてるのはクラスメイトの笹田幸人くん。
幸人くんはいじめられてる間、抵抗し続ける。
でもいじめっ子はやめない。そりゃそうだ。
『おーい!見てねえで、宮田もやれよ!』
僕の名前は宮田悠太。
いじめっ子は僕を呼んでるみたいだ。
「なんで?」
『なんでって、楽しいからだろ!』
「面倒事に僕を巻き込まないでよ。」
「っ…。」
幸人くんは何か言いたげだ。
「なに?」
「た…、たすけて……。」
『あっはははは!!!助けてだって!!!!どーするよ宮田!』
「……だから、嫌だよ。僕を巻き込まないで。」
『はははっ、ふられてやんのー』
「じゃあね。」
「まっ、まって…!!」
「なに。」
「おねがっ…ぃ、します……。」
『まだ言ってんのかよお前!!』
「う゛っ…、!」
あ、蹴られた。可哀想。
でも、僕関係ないし。
「幸人くん、頑張って。」
「っ…、へ…?」
『おーおー、そーゆーことだよ。ゆーきーとーくん。』
「まっ、てよ…!!なんでっ、!?」
「だから、めんどうなんだってば。」
「……。」
あ、泣き出しちゃった。そろそろ逃げよう。
「じゃあね、山田。」
いじめっ子に挨拶をしてその場を離れた。
「あー…、めんどくさ。」
いじめは止めると標的が僕になり、関与すると色々めんどい。
高校生活を平穏に暮らしたい僕はあまり”そういうの”には関わりたくない。
「たすけて。」
「お願いします。」
「はぁ…、そんなこと言われたって…。」
そんなこと言われたって、僕はそこまで勇敢じゃない。
それに、もうそういうのはこりごりだ。
「明日、どーしよ…。」
正直、見てる側も多少は罪悪感がある。
でも、助けようとは思わない。大体の人がそうだ。
「やっぱ、めんどくさ。」
世の中はめんどくさいことばっかだ。
特に人間関係は1番めんどくさい。お親、友達、先生…と、幅広い上に関係が崩れやすい。今まで、全部全部崩れてきた。親にも、友達にも、先生にも裏切られた。
だから僕は友達も恋人も要らない。親や先生だって信用しない。
それが一番良い。
淡い意識の中、僕はそっと目を閉じた。
『悠太!!なんで貴方はそんなに嫌な目をしてるの!?』
違うんだ、ママ。
『本当にこの子は俺の子なのか!?なぁ、おい!』
『本当よ!本当にあなたの子なの!!』
ごめんなさい。パパ、ママ。
『貴方なんか産まなきゃよかった!』
『お前なんて生まれて来なければ良かった。』
許して、お願い。
『ウザイのよ!!もう私に話しかけないでよ!!』
痛いよ。ママ。打たないで。
『ちっ、はぁ…。』
無視しないでよ、パパ。
『もう宮田とは一緒に遊べない…。』
どうして?
『ママが、お前は不倫の子だって。』
違うよ。待って、置いてかないで。一緒にあそんで。
『……。』
先生、助けてよ。
ねえ、どうして?
『お前なんか死ねばいいんだ!!』
痛い、痛いよママ。
『死ね。』
やめて、パパ。それは料理に使うやつだよ。
僕を刺さないで。
怖い。たすけて。おねがい。
神様おねがいします。たすけてください。
「たすけて」
「おねがいします」
「っ…!!!」
嫌な夢を見た。
「……はぁ。」
ため息をついて、ベッドをおりる。
今日は1限目から体育があったはずだ。
「…サボろうかな。」
体育なんて、テキトーに足を捻ったとか、気分が悪いとか言っておけば大抵は休める。
『よぉ、宮田!』
「…あぁ、山田。おはよう。」
『昨日ちょー楽しかったのに、帰りやがってよぉ!』
「ごめん。」
『いーって、いーって!おかげで面白い笹田が見れたしなっ!』
「そっか。」
幸人くんはまだ来てないみたいだ。
ガラガラと扉の音がする。
『お、笹田じゃーん!』
あ、来た。
『おはよーさん。』
「……ぉ、おはようございます…。」
幸人くんも懲りないよな、毎日学校来るなんて。
「幸人くんって、ドMなの?」
「…ぇっ?」
体育の時間、幸人くんも見学だったからなんとなく聞いてみた。
「だって毎日学校来るじゃん。いじめられてるのに。」
「そ、れは…。」
「……親に言ってないの?」
「…はい。」
「ふーん。信用出来ない人間なの?」
「…ちがっ、!」
「…?じゃあなに?」
「し、心配…かけたくなくて…。」
「心配してくれる人がいるんだ。」
「ぅ、うんっ…。」
「……羨ましいな。」
「えっ…?」
「なんでも。」
心配してくれる人がいるなら話せばいいじゃないか。
なんで話さないんだよ。
「ぇ、えっと…宮田さんは…ど、どうして僕を助けてくれたんですか?」
「は?」
「助けた覚えないんだけど。」
「だ、だって…昨日あの後山田さんが『面白いもん見れたから帰るわ。』って……。」
「……へー。けど、助けたつもりないから。」
「で、でも!ありがとう。宮田さん…。」
「感謝とか別にいいから。」
助けたつもりは本当になかった。
でもまぁ、あれで助かったんならいいか。
「……親に話してみるのもいいと思うけど。」
「え…?で、でも…。」
「心配してくれる親がいるのはいいことだよ。」
「……。」
「僕は両親とも僕のこと殺しかけてムショ行っちゃったし。幸人くんが羨ましいよ。」
「へっ…!?だ、大丈夫?傷とか痛まない?」
「…ぷっ、あははっ!大丈夫だよ。どーも。」
「…笑った?」
「は?誰でも笑うでしょ。」
「宮田さんの笑った顔は初めて見ました…。」
「あっそ。」
「僕、親に話してみます。」
「おー、いいんじゃね。」
幸人くんはMじゃなかったみたいだ。
明日から幸人くん休むのかなー。
「次の標的は僕……かもね。」
そしたら、どうしようかな。