デジャヴだ。
目が覚めると、そこは知らない部屋だった。
「……どこや、ここ」
真っ白な天井をみて呟く。
体を起こして状況を把握する 。
俺のいる部屋は6畳ほどの洋室。
家具は机、いす、ベッドのみ。
机の上にはパソコンらしきものがある。
どれも真っ白なので病室みたいで気味が悪い。
だが、床のカーペットの色だけは水色だった。
俺が所属している “ めておらいつ ” というグループの “ Lapis ” こと俺のメンバーカラーと一致している。
また、机の上には俺のではないスマートフォンがおいてあった。
人のスマホを覗く趣味などはないが、今はそんなこと言っていられる状況ではない。
普通に考えてこの状況、
(…俺は拉致られている。)
スマホケースは『水色』。
スマホを手に取り、電源らしきボタンを押す。
シャットダウンはされていなくて、ロック画面がパッと表示される。
スマホにロック機能はなく、初期背景をスワイプする。
初期設定のホーム画面には見慣れたLINEのアイコンと見たことのないアプリのアイコンだけがあった。
とりあえずLINEをひらく。
そして自分のプロフィールをひらく。
そこには『Lapis』という名前、初期イラストのアイコン、背景はメンバーカラーの水色に設定してあったプロフィールがあった。
「…俺はLapisとしてここにいるってことやな」
そう、確かめるように呟き、 金属製のドアノブに手をかける。
キィッ…と音がして扉が開く。
もしも俺が今Lapisとしてここに来たなら、メンバーがいる可能性がある。
そんな淡い期待を胸に、一歩を踏み出す。
扉の先は暗めの赤色の高そうなカーペットが敷いてある廊下だった。
どうやら俺は角部屋らしく、扉を出て右側は壁だった。
壁には絵画が飾られていた。
すると俺の正面にあった扉が控えめに、ギギぃッ…となる。
扉から出てきたのは見覚えのある赤髪だった。
「…え、らぴちゃん!」
「ロゼやん!はあー…よかったあ…!」
そこにはメンバーのロゼがいた。
とりあえず知っている人がいてホッとする。
「俺、昨日、ちゃんと家のベッドで寝たのに、気づいたら……
……なぁ、…ここ、どこ?」
「…分からん。俺も気づいたらここにいて。」
どうやらロゼと状況は一緒らしい。
「……とりあえず、他のメンバーもいるやろ。ロゼもいたんやし。」
「…そうだね。部屋も…1、2、3………6。俺らの合わせて6つだね」
今いる廊下と隣接している部屋は6つ。
メンバーの数と一致している。
「…あ、グループにLINEしてみようかな」
ロゼはそういうなり、スマホを取り出す。
「グループとかあるん!?」
「?、うん!つくったよー 」
「えぇ、見てない見てない、」
「まじかwとりあえずメッセージ送るよ?」
「おん!ありがと!」
すると俺がそのグルチャの画面をひいたのと同じタイミングでメッセージが送信される。
『 もし今部屋にいる人いたら出てきて!
廊下で待ってます 』
俺はロゼのメッセージにリアクションをする。
一旦メッセージ画面を閉じてホーム画面をみる。
すると友達が 12人 となっていた。
「…?」
違和感を持ち、一覧にとぶと、見慣れた名前が並んでいた。
『
↓五十音順
あっきぃ
あっと
けちゃ
ちぐさくん
ぷりっつ
まぜ太
みかさくん
ゲームマスター
メルト・ダ・テンシ
ロゼ
明雷らいと
心音
』
「…こ、れって、。」
「……!、…あぁ、それね。アンプさんたちも巻き込まれてんだよね。」
「…めておらだけやないんか。」
「全員のグルチャも作っちゃおうかな? 」
「うん!作ったほうがええんやない?」
「おっけー。」
みんな、アイコンは初期イラスト。名前もSTPRでの登録名。
俺も含めて、誰一人リアルのアカウントではない。
通知がきて、新しくできた全員グループのメッセージ画面をひらく。
まぜ太くんからだった。
『 ロゼ、どこ?廊下出たけどいない 』
『 廊下が何個もあるのかもしれません。とりあえずアンプの人たちと合流できますか? 』
『 分かった 』
どうやら、まぜ太くんもこの状況を把握しているらしい。冷静で助かる。
…となると、疑問は1つ。
…一体誰がこんなことを?
スマホはそれ以上特に何もいじることはできず、LINEの隣にあった知らないアプリも開きたくないので、 廊下でみんなを待っていた。
すると、5分後には4人増えていた。
「…お!!Lapisとロゼ!! 」
リーダーの心音。
「…お、みんないた。」
いつもに増して落ち着きのあるメルト。
「お!!みんなおるやん!!よかったー!」
いつも通り元気いっぱいのらいと。
「!!!!!
うわぁぁ…もう死んだかと思ったぁ!!
よかったぁー!!!!!泣」
半泣きのみかさ。
「全員いたな!よかった…。」
「ね!一安心!」
みんなでここが何処なのかも忘れて、ワイワイと騒いでいると、ロゼが廊下の先を眺めて呟く。
「…あの部屋、なんだろ…」
視線の先には、豪華そうな大きな部屋が見えた。
「…ロゼ、行く??」
メルトがそう言い、ロゼと顔を見合わせる。
ロゼがコクンっと頷くと、メルトは「じゃあ、行こう」と積極的に歩き出した。
俺らは廊下で待っていることにした。
部屋に着いたロゼたちはメルトと何かを言い合ったあと、こちらに向かって何かを伝えようと、口をパクパクとさせた。
だが、何と言っているのか分からず、皆で首を傾げる。
「おーい!なんて言ったー? 」
心音が隣で叫ぶ。
その声は隣でうるさいと感じるほどの声量だったが、ロゼとメルトにはさっぱりらしく、首を傾げてみせた。
(ほんの15メートルなのに、 声が届かないんだ。)
自分の感覚と違う距離感に違和感を覚える。
ロゼもそのことに気が付いたのか、頭の上に両手で丸をつくった。メルトはこちらに手招きをする。
心音と目配せをして、まだ半泣きのみかさと慰めているらいとにも声をかけて、大きな部屋に繋がっている廊下を歩く。
「…わ、すご 」
「シャンデリア…!」
大きな部屋は高い天井に大きなシャンデリアが飾られていた。
「シャンデリア!!すげぇー!」
「あいつの~ぉことは~ぁ忘れてさぁっ~♪」
「心音うるさい」
「てかシャンデリアじゃなくて、シャングリアだよね」
「確かに…w」
「後輩として失格すぎる…」
「こんなやつがリーダーかよ」
「なんで皆してちょっと歌っただけで俺のことオーバーキルするの???」
「ww」
いつも通りの笑い声が響く。
「…でも、冗談抜きでさ」
しばらくして落ち着くと、ロゼがぽつりと呟くように言う。
「この部屋、どう考えても普通じゃないよな」
全員の視線が自然と部屋の隅々に向く。
まるで高級ホテルか、あるいは貴族の屋敷のような装飾。
床に敷かれたカーペットは深紅色。
壁には美しい風景画。
そして天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、光を反射して煌びやかに輝いている。
「ここだけ、時間止まってるみたいじゃない?」
「だね。現実味がないっていうか。」
「なんか…落ち着かないよな、ここ」
「分かる」
「てか、なんで俺ら、この空間にいるんだ?」
「うーん……それが分かったら苦労せんけどなあ」
俺はそう言いながら、部屋の中央にある円卓に視線を向ける。
そこには黒くて厚みのあるフォルダーが一冊、ぽつんと置かれていた。
「…あれ、さっきあったっけ?」
ロゼが眉をひそめてそれに近づく。
「…今出てきたんじゃね?」
「わーー!!もーやめてよぉ…」
みかさがロゼの後ろに隠れる。
「おおぉい、それ怖すぎんか?」
心音が少しだけ引き気味に言いながらも、興味が勝ったのか、ロゼの後に続いて円卓に近づく。
俺とみかさ、らいともゆっくりとそのフォルダーを囲むように立つ。
ロゼがそっと表紙を開いた。
中には数枚の紙が綴じられていた。
【ようこそ、“VIOLENCE”へ】
ここでは皆さんで人狼ゲームをおこなってもらいます。
——この館でのルールと注意事項は以下の通りです。
メンバー同士の連携を怠らないようにする。
“声”は一定距離を超えると届かなくなる。
スマートフォンに登録されているアプリは、いずれ起動する。
その際に役職を確認すること。
役職は以下のとおりである。
『人狼陣営』
人狼 : 3人 夜のターンに1人殺せる。
狂人 : 1人 人狼陣営だが占い結果は白とでる。
『市民陣営』
市民 : 5人 能力はない。人狼を見つけて昼の投票で吊る。
占い師 : 1人 夜のターンに1人占える。黒か白か分かる。
騎士 : 1人 夜のターンに2人守れる。自分は守れない。
霊媒師 : 1人 夜のターンに昼の投票で吊られたひとの黒白が分かる。
この館からは、どちらかの陣営の勝利が決まった際に生き残っていたもののみ、出ることができる。
人狼に指定された人間や
投票で最も多い票を獲得した人間は
ゲームから離脱し、死亡する 。
これは現実世界にも反映される。
初めから自分の存在がなくなる。
ただし、自殺はゲーム性が崩壊するため、してはならない。
以上を厳守したうえでの
ゲームをお楽しみください。
──ゲームマスター
最初に口をひらいたのは、らいとだった。
「……人狼、ゲーム?
………本当に死ぬん、?」
明らかに動揺していて、落ち着きがない。
「っ、それって、、
俺らで殺し合うってこと?」
「……」
そんなロゼの言葉に、みかさは黙り込む。
「……は、はぁ、?w
っ、バッカなんじゃねぇの、?笑」
心音が無理に笑う。
誤魔化すように、自分の動揺を必死に隠すように。
メルトがもう一度 紙に目を通して、呟く。
「…ここから出れる方法はこれしかないの?」
「……『この館からは、どちらかの陣営の勝利が決まった際に生き残っていたもののみ、出ることができる。』…か。」
…
沈黙がおきる。
長い沈黙の末、口をひらいたのは、心音だった。
「……なあ、これさ。…っ、全員が助かる道はないってこと?」
「…っ、」
「……っだったら、」
「…このゲーム の “ ハッピーエンド “ ってある?」
そんなの知りたくもないし、誰も答えたくなかった。
誰かが生きるために、誰かが死ぬ。
誰かが生きるために、誰かが死ぬ。
_これは最も苦しくて醜くて残酷な物語。
「……_ _~♪」
コツコツと軽快な足音が響く。
「……一生忘れない約束なんてない。」
「…本当の親友なんていない。」
「永遠の友情なんてない。」
「 …そんなの言葉だけにすぎない、
ただの惨めで滑稽なものだって知ったんだ。」
足音が止まる。
夜の月に照らされて、地面に 黒く影が映る。
「……___ねえ、人ってさ
自分の命が危機に脅かされたとき
どうなると思う?」
「自分以外の人間なんか
簡単に殺せちゃうんだよ」
「これから始まるこのゲームが、
きっと証明してくれる。」
「っはー!!…ほんっとう、楽しみ~♪」
コツコツと軽快な足音が響く。
NEXT _ 『 晴れない 』
コメント
5件
こういう話大好きですっっっ💞 続き楽しみにしてます!!🫶
生きてました😀🤚🏻