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「ここが本拠地だ」
「すまんな。茶菓子でも出して出迎えてやりてぇとこだが…今は出せるもんがねぇんだ」
反乱軍の本拠地の状態は過酷で、怪我をしている兵士がそこら中に倒れていて、死んでいるのか生きているのかも分からない。辛うじて動ける兵士達も数人しか居ない。
「自分が居ない間こんな事に…」
「シルク以外は兵士の治療に向かってくれ」
「はい、分かりました!行きましょう。ノアさん」
「は、はい!」
「影尉殿、戦線の状況は」
「戦線は崩壊寸前。ここにいる主戦力の半分はほぼ動けない。これ以上攻めらせたらこの村にまで被害が出ちまう」
「影尉殿、地図は有りますか」
「あぁ、有るが…」
地図を渡されたシヴェルはシルクと影尉と地図を見ながら作戦会議をし始めた。
「戦線は黄泉ヶ原の近くだ」
「…シルク、お前がもしこの戦の最前線に居たらどう指示する」
シルクは黙り込んだ後、口を開いて喋り始めた。
「…近くに崖があります。敵を崖に追い込んで崖から落とすとなった時、もし残りの敵が私達の後ろに回り込んでいたとなると…オレ達も落とされる可能性が高いです」
その後も作戦の案は出たが、どれも却下となった。どれもこちらに被害が出る可能性が少しでもあったのだ。
「影尉さん…この川の深さはどのくらいですか」
「この川に沿っていけば敵の背後を取れます」
「一尺ぐらいだ。そこまで深いわけじゃないが、流れが強い。あと両側が森に挟まれてるなぁ。移動するとなると川に入って移動しなきゃいけねぇ」
「馬なら…馬は居ますか。馬でなら速く移動できると思います」
「前線を援護しに行く班と後ろから奇襲する班で二手に分かれましょう。」
シヴェルはノアとファルシオ以外を呼び出し、作戦を伝えた。影尉も同行するとのことだ。
「俺は援護に行く、お前らは敵の後方に回ってもらいたい」
それを聞いたシルク
「一人で…!?無茶です、敵は反乱軍の倍いるんですよ!」
「大丈夫だ。それに奇襲して敵の気を散らせる為なら人数は多いほうが効率が良いだろう。俺が全て相手をする」
作戦の話を聞きつけた迅が駆け寄って来た。
「あのっ!自分も援護に行かせてください!」
「おい迅!お前はまだ傷が治ってないだろうが!大人しくしとけ!」
「影尉さん!自分はもう大丈夫だ!それにまだこの人達に助けてもらった借りを返せてない!」
言う事を聞かない迅に呆れたのか、大きなため息をついたあと、大笑いし始めた。
「はっはっはっ!生意気になったもんだ!分かった、好きにしろ!」
そう言われた迅はシヴェルの前に立って口を開いた。
「お願いします。俺も前線に連れてって下さいあなた一人では危ないです」
シヴェルを真っ直ぐ見つめるその眼は光を宿していた。
「…分かった、案内。よろしく頼む」
迅は頼まれたのがよほど嬉しかったのか、目を輝かせて、大きく「はい!」と返事をした。
「俺達は先に行っている。準備が出来たらこちらに向かってくれ」
白いフードとマントを身に着け、馬に乗った後シヴェルは後ろに迅を乗せ、戦場に向かっていった。
「…迅、君には俺の後方で支援してもらう。俺が戦場に出向いたら戦場に居る仲間を全て俺の後方に回してくれ」
「俺が考えた中でこれが一番被害を抑えられる」
「…分かりました」
「あっ、あそこです!」
林の向こうは地獄と化していた。お互いが大量の血を流し、敵仲間関係なく、倒れた者は辛うじて戦える者達の足場になっていた。地面と倒れた死人の区別がつかなくなるほどそ必死になるのは、お互い守りたいものが有るからだろう。一方的に破滅を願う魔物とは違う。これは魔物と人の戦じゃない。人と人の戦だ。
「…行こう」
「はい」
シヴェルは馬を更に速く走らせた。
林を抜けると血の匂いが鼻の奥にへばりつい た。息を吸うだけでもめまいがする。シヴェルは馬から降りた。
「俺は敵の司令官だけを狙う。その周りの兵士は君達に任せる」
「分かりました。任せて下さい」
迅は戦っていた兵士達を後ろに下げた。その様子に戸惑う敵兵達の目の前、戦場にシヴェルは足を踏み入れた。
「…あとは任せろ」
そう静かに言い放ち、シヴェルは敵陣に向かって走り出した。
目の前の敵の刃を次々と躱し、敵陣を抜けたその先に敵の大将は一人で佇んでいた。その男はまるでシヴェルを待っていたかのようだった。
「お前がこの軍の司令官か?」
「あぁ、そうだ。貴殿、鍛え抜かれた俺の部下達の攻撃を受け流しながら俺に近づくとは、相当の実力者だな」
その男は右目の周りの皮膚は黒い痣の様になっていて、両目に目に琥珀を宿らせていた。鉄紺の髪と新雪の様に白い肌。シヴェルを貫くような視線はシヴェルの背筋を凍らせた。
「俺はお前と話をしに来たわけじゃない」
「そうだな。では…参る 」
男がそう言うと、男はシヴェルの背後に回り、薙刀の鋭い刃でシヴェルの首を狙っていた。シヴェルは薙刀の柄の部分を掴み、男を薙刀ごと投げ飛ばした。男はすぐ体勢を立て直し、シヴェルに襲いかかった。 男の攻撃を受け流し、隙の出来た横腹にシヴェルは蹴りを入れた。離れたところに蹴り飛ばされ立ち上がった後、口から出た血を吐いた途端、男の目つきが鋭くなり、 空中に無数の氷の針が出現した。男が薙刀を一振すると、それはシヴェルに襲いかかった。その槍を出来るだけ避けたが、一本だけシヴェルの右肩を貫いた。シヴェルは少し顔を歪め剣を鞘から抜いた。その氷を溶かしてしまいそうな炎の熱気が戦場に広がった。その剣は深紅の炎を身に纏っていた。 男と距離を縮めたシヴェルは、男と刃を交えた。戦場に刃と刃が衝突し合う音が響いている。
陣鐘の音が遠くから聞こえた。
「撤退か…」
「貴殿との戦い楽しかったぞ。では、また会える日まで」
そう言うと男は背中を向け、その場から去っていった。