・大学生パロ
・虐待表現 有
『三日月のほとり』
喧嘩ばかりの嫌いな彼奴から電話がかかってきたのは、
やっとの事で課題が終わり、さあ寝入ろうという頃。
深夜一時だった。
「 …… 」
「中島敦」と表示された通話画面。
深夜の部屋に響く無感情な通知音は、何故か胸をざわつかせた。
しかし、こんな時間に何なんだ、という文句が勝ちそうで、暫しスマホを持ったまま棒立ちになる。
……暫くして、着信音は消えた。
もういいか、と布団に入ろうとしたが、矢張り気になっている自分も居て。
「 ……何だ 」
かけ直せば、ワンコールもせずに出た彼。
喋る気配が無い為、仕方なく此方から問いかける。
『 ……芥川、 』
酷く掠れた声だった。
何かが可笑しいと感じた僕は、スマホを握り直す。
「 ……如何した 」
もう一度問う。
外に居るのだろうか、時折風の音が騒音となって耳に流れ込んでくる。
『 あ、あのさ…… 』
『 きゅ、救急箱……貸して、くれないかな……? 』
「 ……は? 」
救急箱?深夜一時に?
あまりに予想外な頼みに反射的に声が出る。
「 急に何だ。抑も、今何時か判って云っているのか 」
『 その……今、家がさ、入れなくて…… 』
『 御免……本当に御免ね。頼れるのが、芥川だけで…… 』
ごめん、と何度も云われた謝罪の言葉は、どこか震えている気がして。
……何が何だか判らないが、此の儘放っておくのは駄目だと、本能が警笛を鳴らす。
「 ……用事はそれだけか 」
『 え?あ、嗚呼……うん 』
「 なら、僕の家に来い。場所は判るな? 」
『 あ、うん……有難う 』
ピッ……
「 …… 」
つう、と一滴冷や汗が伝う。
……この不快感が、どうか気の所為であってくれと、
そう焦る自分が居たのは、きっと何かの間違いだ。
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数十分後。
無機質なインターホンが鳴った。
『 あ、芥川……急にごめんね 』
ドアを開けて数秒、一番に目に入ったのは、 酷い傷と血。
足元に目をやれば裸足のまま。
「 …… 」
『 あ、あはは……酷い傷だよな。一寸怪我しちゃってさ 』
血の気が失せ、青白い顔をしても尚、此奴は笑っていた。
痛くも痒くもない__そんな顔で。
「 ……心底気持ちが悪い 」
『 ?何か云った? 』
「 ……何も云っておらぬ 」
「 早く入れ。救急箱が欲しいのだろう 」
『 あ、うん…… 』
零れた本音は、敦の傷に対してなのか、それとも……
なんて考えが湧くのにも嫌気が刺して、背を向けると同時に直ぐに捨てた。
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ソファに座らせると、救急箱と毛布、そして温かい飲み物を渡した。
暫く瞬きをして驚いていたが、やがて「有難う」とぽつりと呟き、マグを受け取った。
『 ……本当にごめんな。僕の事を家にも上げたくなかったのは判ってるけど…… 』
「 愚者め。僕とて鬼ではない。火急の用事なのだろう 」
『 うん……ごめんね 』
何度も何度も謝る度、瞳から光が消えていく。
其れに何故か心底嫌気が刺したが、嫌いな相手に「謝るな」と云うのも違う気がして、 顔を逸らした。
「 ……まだ、寒いか 」
『 え?あ、い、否…… 』
「 なら手当をする。顔を此方に向けろ 」
『 え、あ、い、いいよ……!自分でできるし…… 』
「 其の凍傷を負った指で、か? 」
『 …… 』
『 ……御免 』
「 …… 」
敦の顔の傷は、想像以上に酷いものだった。
切り傷に打撲痕、痣……そして目には、濃い隈がくっきりと浮かんでいた。
消毒液を当てる度、小さく悲鳴を漏らす。
『 っ……御免、続けて大丈夫だから…… 』
「 云われなくともそうする心算だ 」
『 うん…… 』
責められたように下を向いた敦に、酷く煩わしさを感じた。
何故……此奴はこう何度も謝る。
身体中にまとわりつく其の傷は、きっと怪我ではない。
他の誰かに無理矢理着せられたものだ。
なのに何故、此奴は何度も謝るのだ。
そういう所が、心底腹立たしい。
そう……何故か苛立つ自分が居る事にも煩わしさを感じて、見てみぬ振りをした。
有り得ない、絶対に。
僕が____
『 ……なぁ、芥川 』
物思いに耽っていた脳を起こすように、ずっと黙り込んでいた敦が言葉を発した。
「 何だ 」
『 ……訊かないのか? 』
「 何をだ 」
『 否……その、傷の事 』
「 貴様が怪我をしたと云ったんだろう。違うのか 」
『 い、否!そ、そんなんじゃ…… 』
『 ………… 』
『 ……御免 』
またもや、謝罪の言葉。
そろそろ怒るべきか、なんて思ったが、
らしくない事をする気は起きなかった。
「 ……終わったぞ 」
『 深夜にごめんな。有難う 』
『 それじゃあ僕は帰るから…… 』
「かえる」と呟いた時、微かに躰が震えたのを、僕は見逃さなかった。
「 ……待て 」
『 ん……? 』
我ながら、らしくもない事をしたと思う。
嫌いな相手に、こうも何かが掻き立てられるなんて。
「 今日は泊まっていけ 」
『 え……? 』
「 貴様、家には帰れないと云っただろう 」
『 ……それは……そうだけど…… 』
『 ……お前、今日可笑しいな 』
「 何だ。其の儘無理矢理家に帰した方が善かったか 」
『 い、否…… 』
『 ……泊まらせて頂きます 』
「 嗚呼 」
嫌いな相手。会えば必ず喧嘩をする相手。眉を顰める相手。
けれども、こうして共に過ごす事は悪くないと思ったのは、
きっと、絶対に、気の所為だ。
コメント
10件
見た瞬間、脳内で舞を踊ってしまいました () 芥敦は大好きです!!! しかも芥川さんが敦さんに何らかの感情を持っているというのもまた堪らなく好きです!!!
おぉ〜!公開おめでとう!🎉 芥川が敦くんに対してまぁ重な感情を持ってるのいいな☺️
文スト1巻しか見たことないんですけど、芥川くんと敦くんの絡みにブチ抜かれました 激重環境にいる子バカ好きすぎて滅っすわ🤞🏻✴️