テラーノベル
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夏の穂||フォロバ|低浮
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第1話
重なる影、遠いホイッスル
いつだって、僕の世界の中心にはカイザーがいた。
ドイツの厳しい冬の風が吹きつけるクラブの練習場。誰もいなくなった夜のピッチで、僕らはいつも二人だけの時間を過ごしていた。息が白く弾ける中で、カイザーが放つ完璧なシュート。その軌道を誰よりも近くで見つめ、彼に冷えたタオルとドリンクを渡すのが、僕の至上の幸福だった。
「ネス。お前は一生、俺の影でいろ。俺の栄光を一番近くで引き立てる、極上の額縁だ 」
「はい、カイザー。あなたの望むままに。僕はどこまでも、あなたに尽くします」
そう言って不敵に笑うカイザーの青い瞳に映る自分が好きだった。練習が終わった後、誰もいない部室で重ねる唇は、凍える体を芯から溶かしていく。付き合っている、という言葉を使うのは気恥ずかしかったけれど、僕たちの絆は誰にも引き裂けない絶対的なものだと信じていた。二人の時間は永遠に続く、そう思っていたんだ。
けれど、世界は僕たちが思うよりもずっと早く、そして残酷に動いていた。
ある日の練習後、監督の部屋から出てきたカイザーの表情は、いつもと違っていた。どこか遠く、僕の届かない未来を見つめているような、そんな鋭い目をしていた。
「……ネス。イングランドのトップクラブからオファーが来た。移籍する」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が冷たい氷に触れたように凍りついた。世界屈指のストライカーとして、さらに高いステージへ羽織る。それは彼にとって当然のステップアップで、僕が喜ぶべきことのはずだった。けれど、僕の口から出たのは、祝福の言葉ではなかった。
「……僕も、連れて行ってくれますか?」
カイザーは一瞬だけ、痛みを堪えるような目をして、すぐにいつもの冷徹な仮面を被った。
「ダメだ。お前はここに残れ。今回の移籍は、俺一人の力で世界の頂点へ立つためのものだ。……お前のパスに甘えるわけにはいかない」
それは、ストライカーとしての彼の覚悟だった。同時に、僕たちの「二人だけの時間」の終わりを告げる、あまりにも切ない宣告だった。
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