ふむふむ、今回は少し…これまでとは違う方向性のお話になるような気がするねぇ…♪
3回目──書き出しは『一生言わないつもりでいた。だってこんなのおかしいでしょ。』で、煽り文は『ふたりぼっちの世界なら』です。
一生言わないつもりでいた。
『だってこんなのおかしいでしょ…?』
そう言って。黒璃 深月(こくり みつき)は、震える瞳で目の前の人物…蛇柳 鵺(へびや ぬえ)を見る。
鵺『…ふーん、ねぇねぇ、今なんて〜?』
聞こえていたはずなのに。鵺はにぱ、と笑ってわざとらしく深月に聞き返し。
深月『ッ、だ、から…もう、家へ帰りたい…こんなの、おかし…ッ』
そんな深月の言葉は、鵺の口を塞ぐ手によって遮られる。
鵺『まだ諦めてなかったんだ、それ』
はーぁ、と鵺は残念がるようにため息をつくと───
ドスッ、と。そんな鈍い音と共に、深月の腹部に痛みが走る。
深月『い”ッ、ぁ”…』
唐突な痛みに、思わず顔を歪めうずくまるが、鵺は気にせず乱雑に深月の髪を掴んで引っ張り、目を合わせて。
鵺『俺、言ったよね?キミは俺の所有物、家はここ。そんな簡単な事も覚えらんないのー?』
普段は糸目な鵺の目が少し見開かれ。紅玉色の、蛇の様な瞳が深月を真っ直ぐに捉えて。口は笑っているが目が笑っていない。
深月は腹部の痛みを堪えるように浅く息をしながら、すぐさま感じ取る。これは、かなり怒っている。謝らなければ、許してもらわなければ、何をされるか分からない。
深月『ひッ…ごめ、なさッ……おぼ、ぇて、るッ……!!』
鵺『……くはっ、だよね〜?キミ、賢いもんねぇ』
にこり。目を閉じて、普段の糸目で笑って。そんな鵺に、深月はほっと胸をなでおろした。が
鵺『じゃ、なんでさっきあんなこと言ったのかなぁ?』
ひゅっ、と深月は息を飲む。嫌な汗が、背中を伝う。
深月『そ、れは…』
鵺『それはー?』
君が怖い、君から受ける痛い事が怖い。そんな事を正直に言えば、先程の二の舞になることが鮮明に頭に浮かんで。でも、それ以外の理由なんて思いつかなくて
深月『ぅ、あ……』
鵺『……俺さー?はっきりしないの嫌いなんだよね』
するり。空いている左手で深月の首を撫でたかと思うと、強く首を絞めて。
深月『ッ”………!?』
突然、息が吸えなくなり。深月の瑠璃色の瞳が見開かれ、涙がにじみ。
鵺『いつも言ってるじゃーん、言いたいことははっきり言おーねって』
そう言いながら、楽しげに。鵺は深月の首を絞め続け
深月『カヒュッ…め、なさ…ッ……、…ッ……!!』
必死に、空気を求めるように鵺の左手に縋るように触れて。目の端から、ぼろぼろと涙が溢れ。
鵺『くふっ、ちゃんとお話…できるー?』
にぱにぱと笑いながら鵺が問いかけると、深月は必死にはくはくと口を動かし。
鵺『くふふふっ、ならいーよ』
ぱっ、と首にかけた手と、髪を掴んでいた手を離して。
いきなり入ってきた空気が肺を穿ち、へたりこみながら深月が咳き込んでいると、鵺が顔をのぞきこみ。
鵺『で?さっきなんであんなこと言ったの?』
と、言いながら。先程までとは打って変わって優しく頭を撫でて問いかけ。
深月は回らない頭で必死に考え、声を絞り出す。
深月『か、ぁさん…が、しんぱい、して…る、かも…だから、』
そう言うと、鵺はきょとんとした後に、さも可笑しそうに声をもらして。
鵺『……ふっ、くく…w心配?してないしてない、安心してよ』
けらりと笑って、立ち上がり。
鵺『そんなに思うなら自分で見に行ってみる?行っておいでよ』
と、くすくすと笑いながら、深月に付けていた首輪を解いて、部屋の扉を開き。
深月『ぇ、……?』
あっさりと外された首輪と、目の前であけられた扉を見て困惑したのもつかの間、これで帰れる、とおぼつかない足取りで逃げるように外へと深月は走った。
深月『は、ッ…はぁっ……!』
深月は、走って走って、見慣れた景色を確認しながら、自分の家まで走る。
帰れる、やっとあの人から逃げられた、と嬉しさに心を踊らせながら、自身の家の玄関へと立つ。
ガチャリ。玄関の鍵は空いていて。
深月『かあさん、母さん…!!ただいまっ…おれだよ、深月…!!』
家の中に入り、安堵の声を織り交ぜながら母の名前を呼ぶと
母『ッ…誰!?悪趣味なイタズラは辞めてちょうだい!!!!』
母の、叫ぶような声が帰ってきて。
深月『…ぇ…?ちょ、かあさ…』
母『まだやるの…!?警察を呼ぶわよ!!出ていって…!!!!』
深月『……?ッ…なんで……』
ひとまず、警察を呼ばれては事が大きくなるような気がして、深月は外へと出る。混乱した頭を整理しようと、近くの通い慣れた公園へと向かうと
子供『ぅわ…!!みつきにーちゃんの幽霊だー!!!!』
と、いつも遊んでいた子供達が深月の姿を捉えると同時に、そんな事を言いながら逃げていく。
深月『は……?ちょ、まってよ、なんで…』
混乱しながら、少し子供達を追いかけると
子供『くっ、くるな、ゆーれー!!』
深月『ぃ”ッ…』
石を、投げられた。まともに石が当たった深月は、その場にうずくまって痛みに耐える。
その間に、子供達は逃げて行ってしまった。
なんで、どうして、と頭を混乱させながら道を歩いていると、少し先から聞きなれた声が耳に入った。
『りゅーか先輩〜っ!今日はデートですね、デート!』
『ちょっ……夜鷹、そんな大きな声で言わなくてもいいでしょ…』
深月(あれ、は……夜鷹と、天体サークル部長の宵星 龍華先輩……?)
もう、なんでもよかった。誰でもいい、助けて欲しい。自分は─黒璃 深月は、生きている、と思いたくて。
深月『ッ…よたか…!!りゅうか、せんぱい…ッ…!!』
気付けば思わず、声をかけていて
夜鷹『…ぇ……深月…?』
龍華『黒璃くん…?』
くるり、後ろを振り返った2人は、驚いた様に目を見開いて。
深月『た、すけて…ッ……おれ、なんで…みんなに、ッ……』
深月が支離滅裂に言葉を並べると、夜鷹が慌てたように駆け寄って来て。
夜鷹『え、っと……黒璃 深月、で…合ってる、よね?』
深月『ッ、』
こくこくと、首を縦に振り。その様子を見た夜鷹は困惑したように龍華を振り返って。
夜鷹『…龍華先輩……』
龍華『……どういうことかな、これは…』
深月には、その言葉の意味が分からなくて。
深月『ど、ういう……』
そう、声を絞り出すと、二人は顔を見合せて、夜鷹が深月に遠慮がちにこういった。
夜鷹『……黒璃 深月。深月…キミ……数週間前に、死んだって聞いたんだけど……』
深月『……ぇ…』
耳を疑った。そんなはずは無い。現に自分はこうやって生きているのに。
なんで、とさらに聞こうとしたその時。
『はーい、お散歩の時間はおしまい。帰るよ、深月』
背後から、声が聞こえて。
深月『ぁ……』
そろり、後ろを振り返ると、鵺の姿が瞳に映り。
龍華『……誰?』
夜鷹の後ろに立っている龍華が鵺に問うと
鵺『あはっ、その子の保護者でっす!お迎えに上がりました〜』
と、鵺はおどけて言って。
すると、夜鷹は少し警戒したような笑みを浮かべ
夜鷹『いやぁ、死んだと思った友達が生き返ってるなんて嬉しいなぁ。どうして生き返ってるんでしょう』
そう言いながら、鵺を見据えて。
鵺『ふむ?お友達が最近亡くなったと…悲しーねぇ…でも、その子とお友達を重ねちゃだめでしょ?可哀想だよ?お友達』
にこり、そう笑って言うと深月の腕を引っ張って自身の腕の中へと攫い。
夜鷹『…そ、う…ですかね』
龍華『……』
鵺『この子は黒璃 深月、もしかしてお友達も同じ名前だった?それなら重ねても仕方ないよねぇ…でも、この子は別人だよ?』
くすっ、と笑って。まるで真実を語るかのように、饒舌に。
鵺『…ふふ、じゃあそろそろ帰るねぇ。お友達の思い出、大切にしてね〜』
にぱりと笑って。二人の顔を見てから、来た道を悠々と深月と共に戻って行く。
先程逃げ出した部屋に、深月はどさりと乱雑に投げ込まれる。
しかし痛みよりも何よりも、呆然とする思いの方が強くて。
鵺『ねぇ、分かった?キミはもう外の世界じゃ死んでるの、だから戻っても意味ないんだよ♪』
くすくすと。深月の前にしゃがんで、顔を覗き込んで。
深月『…お、れ…しん、で…?』
だんだん、だんだんと。深月自身も、自分が生きているのか分からなくなり。はっ、はっ…と、浅く息をして。
鵺『…くふふ、いーや?キミは死んでないよ?ま、それは俺だけが分かる事だけど…♪』
優しく、浅く息を繰り返す深月を抱きしめて、頭を軽く撫で。
深月『きみ……だけ、?』
その言葉を聞いて、少し縋るような声を上げて。
鵺『そう、俺だけ。俺だけが、キミが生きている事を知ってるよ』
にこり。まるで暗示をかけるように妖しく微笑んで。
深月『ッ、あ…』
鵺『でも、まぁ…キミは逃げたいんだもんね?くふっ、なら仕方ない…ほら、行きなよ』
鵺『くふふ、首輪も、部屋の鍵もかかってないよ?』
突然、突き放すような言葉を口にして。深月からぱっと離れて、にこにこと。
深月『ひゅっ…ゃ”ッ…やだっ、みすてないで、ッ…!!』
慌てたようにふるふると首を横に振り、深月は鵺に縋り付き。
鵺『くは、いいのぉ?俺、また痛い事するよ?』
鵺はにこにことした笑顔を崩すことなく、薄く開いた紅玉色の目で深月の瑠璃色の瞳を見つめて。
深月『いぃ、ッ…いいから、!!すて、ないで……ッ』
かたかたと、深月の体は小さく震えて。
その言葉を聞いた鵺は満足そうに、ふっと笑い。愛おしそうに深月の頬を撫でて。
鵺『くははっ、いいよ、捨てないであげる。それに、キミだけを見てあげるし、愛してあげるよ』
鵺『ふたりぼっちの世界なら』
鵺『……ね?』
そう言って、鵺は深月を抱きしめて。
深月『ぉれ、を…みて、あぃ……して…くれ、る……?』
鵺『うん、勿論だよ』
深月『……そ、っか……ぁは……よか、った……』
深月は、自身の瑠璃色の瞳に陰りを落とし。歪な笑顔を浮かべ、鵺を抱き締め返して。
鵺『くは……ずーっと、2人でいよーね…♡』
深月の耳元で、そう囁き
鵺は狂ったように微笑むのだった
───ふたりぼっち
END───
コメント
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さーてとなんとなく鵺を掘りたくなったから掘っていいよね?()
メッ…メリバ…いや、バッドエンドかな…? 糸目…糸目ぇぇッッ(糸目好き) 可愛いぃぃぃぃッッッッッ