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ふむ、今回はどうやらリクエストのようだねぇ……これで”あの子達”の、続きの世界が見たい、と…ふむふむ………というか、不調だからと言って全部僕に押し付けるのはやめて頂きたい物だね全く…
…まぁ、いいだろう。さてさて…主が預かってきたカプセル…中身はどんなお題なのかな…♪
5回目──書き出しは『「また明日」ってあと何回言えるかな』で、煽り文は『ずっと一緒にいられたら。』です。
『……「また明日」ってあと何回言えるかな』
そう、ぽつりとこぼす。白羽 蒼(しろはね あお)が小さな声でこぼした言葉は、暗い、静まり返った部屋に溶けて消えて。
目線をちらりと、隣に向ける。そこには小さく寝息を経てながら眠る愛猫、翠(みどり)の姿が映って。
蒼『……ね、翠……翠、来月で20歳だもんねぇ……早いなぁ…』
軽く、起こさないように。蒼は翠の頭を撫でる。
蒼『んふふ……ねぇ翠、俺ねぇ…ちゃーんと、はっきり覚えてるんだよ?翠と会った時のこと…』
ふわり、笑って目を軽く閉じて。いつだって、昨日の事のように鮮明に思い出されるあの時の事を思い出し。
あの日は…夏の、とてもとても暑い日だった。
蒼『あちちぃ…おそと、あちちーねぇ…』
母『そうねぇ…』
幼い蒼が、母と一緒に買い物に出かけた時だった。
にぃ、にぃ。必死に鳴く声が、蒼の耳に届いて。
蒼『…?ぉかーしゃ、にゃんにゃー!』
母『えー?居ないわよ?』
蒼『んーん!にゃんにゃ!』
何度訴えても信じてくれない母に痺れを切らし、ぐいぐいと蒼は母の手を引いて、声の主の元まで駆け。
蒼『にゃんにゃ!!』
母『…あら、ほんと…!!大変だわ!!』
あの時、あの子はまだ目も開いていない仔猫で。ただ生きたい、とでも言うように大声で鳴いていて。
それを見つけた母は、とても慌てた様子であの子を抱えて動物病院に連れていった。
医者『軽い脱水症状が見られますね…あと少し遅かったら、死んでいたかも知れません』
母『よ、よかった…』
医者の言葉に、間に合ったのだと心底安堵したように母は息をはき。蒼は難しい話はまだよく分からないため、くったりと眠るあの子の姿を『にゃん、おねむー!』と、眺めていた。
医者『この様子であれば…2日後には退院出来ますが、その後はどうされるんです?』
母『どう、しましょうか……』
医者『…あと2日ありますので…お家で、ご家族皆さんで話し合って決めてはいかがでしょう』
母はそう提案する医者に頷き。一度、家に話を持ち越すことにして、動物病院を後にした。
母『……ねぇ、蒼?』
遠慮がちに母が声を発すると、蒼は元気な声で
蒼『なーに!おかーしゃ!』
と、返す。
母『蒼、蒼はさ、あのにゃんこさん…どうしたい?』
蒼『?』
母『わるーいのが治ったら、他の人のお家にどーぞするか、お家で一緒に暮らすか…どっちがいい?』
そう聞くと、蒼は迷いのない声で
蒼『にゃんにゃ!あお、おうちいっしょがいー!!』
にへら、とはにかんで。心底、あの子と一緒に暮らすことが楽しみだ、とでも言うように。
母『ん!そっかそっか…じゃあ色々準備しないとだ!!』
その返事を聞いて、母は笑って
母『よーっし!頑張るぞー!』
蒼『ぁいっ!』
えいえいおー!っと、腕を上にあげた母の真似をして。蒼も腕を上にあげ、元気よく返事をした。
そして2日後───
医者『どうでしょう、決断は…出来ましたか?』
少し首を傾げながら言う医者に
母『えぇ、もちろんです』
蒼『にゃんにゃ、おうちー!!』
二人で、一緒に。あの子を引き取る返事を口にした。
その返事を聞いた医者は『良かった』と少し嬉しそうに微笑んで。
医者『それでは連れてきますので』
と、扉を開けて、その向こうへと足を進めた。
医者『お待たせしました』
そう言いながら二人の前に連れられたあの子を見ると
蒼『ん!おかーしゃ!おめめ、あいてぅ!』
母『あらほんと…!綺麗な新緑色の目ねぇ…』
医者『そうなんですよ、つい昨日目を開けまして』
医者もくすっと『驚きましたよ』と笑いながら、あの子を猫用バッグに優しく入れて。
医者『それでは……猫ちゃんに、幸せを沢山、たっくさん。与えてあげてくださいね』
そう言って笑う医者に
母『もちろんですよ!』
蒼『ぁい!』
またも二人で、元気よく返すのだった。
ぱち、ぱち。目を瞬かせるあの子は、蒼がカバンを覗き込むと、好奇心に溢れたようにとてとてと。こちらに歩き出して
蒼『んぅ、みど、みどぃー!おいでぇっ』
それを見た蒼は、何度も『みどぃー!』と繰り返し、あの子を呼ぶ。
母『あら、みどり…そうね、それじゃあ名前は翠にしましょうか!』
葉桜揺らめく木々の中、新緑色の瞳のあの子は”翠”と命名された。
そこから、翠との生活が始まったのだ。
蒼『……ん…寝てた……?』
まだぽやぽやとする頭をふるふるとゆるく振り。隣を見ると、翠はまだ寝ているようだった。
蒼『……ミヌエット…と言うか、猫の寿命にしては長生き、だもんね…翠』
もふすん、と。翠のふかふかな毛に顔をうずめて。
翠『……?んな、なぅー……』
翠が起きたのか、困惑したように自身の尻尾を大きく揺らして。
蒼『……おはよ、翠。ごめんごめん…』
ぱっと、翠から顔を上げて。その目にはうっすらと涙が浮かび。
翠『うるる…んなぉ…?』
それに気付いたのか、ぽてぽてと効果音が着いてきそうな足取りで蒼の上に来たかと思うと、ざりざりと。猫特有のざらりとした舌で蒼の顔を舐めて。
蒼『ちょ、ちょ…なぁに、翠ー?なんもないよ〜?』
取り繕うように。にっ、と笑って見せる。
翠『……な”ーぅ』
すると、少し怒ったような声を出しながら、耳を倒し。尻尾はぶんぶんと揺れて。嘘をつくな、とでも言うように蒼を見据えて。
蒼『……凄いね、ほんと。翠には全部お見通しかぁ…』
ぱちくりと目を驚いたように瞬かせた後、諦めたようにふぅ、と息をはき。
翠を少し強く抱き締め、今にも泣き出しそうな声で
蒼『…ずっと、一緒にいられたら』
考えられないし、考えたくない
翠が居ない暮らしなんて、蒼にはこれっぽっちも思い浮かばなくて
蒼『やだ、やだよ、翠…俺、やだからね…』
ぐすぐすと、泣きながら。小さな子供のような事を言って。そんな事は叶わない、仕方の無いことだと、分かっていたけれど。
それでも、それでも───
ぐるぐると、そんな思いだけが頭の中に回っていると
翠『なぅー、ぉあーう』
ざり、と。翠の舌の感触がして。
ここにずっと居るよ、とでも言いたげに、持ち前の大きな声で鳴いて。
蒼『……だね、うん…ごめん、翠はここに居るよね…ごめん、ごめんね…』
翠の頭をゆるく撫でて、あぁ、そうだった、と。
『先の事は分からない。だから、今を精一杯楽しみなさい!』
何時だったか、母が言った言葉を思い出す。
蒼『今は、精一杯楽しまないと、だね』
ふふっ、と笑って、涙を拭って。
蒼『ありがと翠。元気でたよ、俺』
にっ、とはにかんで見せれば、翠は『なぅっ!』と、それでよし!とでも言いたげに大きく鳴いて。
蒼『…じゃ、朝ごはんの用意しよっか!』
翠『なぅー!』
いつ、お別れが来るのか、なんて分からない
どう足掻いたって、なにも、なんにも、未来は分からないのだから
それならば、今を精一杯生きよう
いつお別れが来ても、悔いが残らないように
1秒1秒を、大切な君と歩み続けよう
───君と共に、今を歩む
END────