テラーノベル
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この物語ではイッテツの命が繰り返し使える残基ではなく、“1回きり”の9つの残基になっています。
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ー警報が鳴り響く大型商業施設の屋上の夜。
オリエンスの戦闘を人々に放送する為、テレビ局のドローンが旋回し、赤いランプが瞬いていた。
「オリエンス到着や!カメラ回っとるで」
マナの声が無線越しに弾けた。
屋上中央には、通常より一回り大きいコザカシーがいた。白い体、黒い頭部。米粒のような目が無機質に光り、牙が異様に多い。
その背後には——避難が間に合わなかった子どもが一人。
「リト、右から雷で牽制!ウェン、子ども回収優先!」
「「了解ッ!」」
雷鳴が走り、ウェンが大剣を引きずるように駆ける。
だが、コザカシーの牙が子どもの首元へ。
——間に合わない。
その瞬間、イッテツは迷わなかった。
首元のチョーカーのピンに触れる。
「テツ待て!!」
「アカンよ!」
「駄目だって!」
三人が叫んで止める。
——爆音。
視界が白に染まる。
数秒後。
煙がゆらりと立ち上る。
猫の形をした煙——残機猫がひとつ、夜空へ溶けていく。
次の瞬間。傷ひとつないイッテツが子どもを抱えて屋上の端に立っていた。
「大丈夫。もう平気だよ」
子どもは泣きながら頷く。
カメラがズームする。 生中継のテロップが流れる。
《オリエンス、またも自爆戦法》
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戦闘終了後、屋上には静寂だけが残った。
最初に口を開いたのはリトだった。
「……ふざけんなよ」
低い声で。
「お前、何回目だと思ってんだ」
「三回目、まだ六回ある」
淡々と答えるイッテツ。
その瞬間、リトの拳が壁を叩いた。
「“まだ”って言うな!!」
コンクリートが砕ける。
「お前の命はストックじゃねぇんだよ!!」
イッテツは首を傾げる。
「でも、僕が死ぬのが一番確実だった」
「効率の話してんじゃねぇ!」
マナの声が震える。
「……なんでや。なんでそんな簡単に、自分の命捨てられんねん……」
今にも泣きそうだった。
「怖いねんぞ。お前が爆発する瞬間」
ウェンは笑っていなかった。
いつもの軽い声もない。
「僕ね、ヒーローってさ…」
小さく言う。
「死なない人のことじゃないと思うんだ」
イッテツは三人を見る。
本気で分からない顔だった。
「だって、僕は戻ってきたよ?」
その一言で、空気が凍る。
リトがイッテツに掴みかかる。
「戻ってくるまでの時間がどれだけ怖いか分かってんのか」
「……怖い?」
「お前が二度と動かないかもしれねぇって思う時間だよ!」
イッテツの表情が、初めて揺れる。
「でも僕は——」
「僕は戻れる、やろ?」
マナが言葉を継ぐ。
「それがもうズレとんねん」
ウェンが震える声で言った。
「残機があっても、その一回は本物の“死”なんだよ」
「……」
「僕らは、その一回を失いたくない」
イッテツは、煙草を取り出しかけて、止めた。
残機猫が六匹、見えないはずなのに、背後で揺れている気がした。
「……僕は」
言葉が詰まる。
「軽いんだと思ってた」
静寂。
夜風が吹く。
遠くで救急車の音。
リトは拳を握ったまま、言う。
「軽くなんかねぇよ」
マナは涙を拭った。
「お前の命は九回分やなくて、一回が九回あるだけや」
ウェンはやっと少し笑う。
「大事な命、勝手に減らさないでよ」
イッテツは初めて苦しそうに笑った。
「……分からないんだ」
本音だった。
「どうやって、自分を大事にすればいいのか」
カメラはもう回っていない。
でもこの夜は、四人の間に確実な亀裂を残す。
——六匹の残機猫が、静かに夜空を見上げていた。
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