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「良かったです。では応接室へどうぞ、美山様」
「あの……その呼び方、なんとかならないですか? すごく堅苦しいし、私なんかに『様』はいらないです。もしくは下の名前でも……」
「いえ。私は雫さんなどとお呼びすることはできません。では、お言葉に甘えて美山さんと……」
雫っていう名前は覚えてくれたんだ。
ちょっと嬉しい。
「はい。それでお願いします。ありがとうございます」
私は、また微笑んだ。
応接室に入って、ソファに座るよう促され、前田さんはロイヤルミルクティーを出してくれた。
とても高価な物なんだろう、白を基調にして小さく可愛いお花の絵が入った素敵なティーカップだ。
それだけでリッチな気分が味わえた。
「どうぞ、この前と同じものですが」
「良い香りですね。またいただけるなんて嬉しいです。本当にありがとうございます」
「喜んでもらえてなによりです」
1口飲んだら、幸せが口の中に広がった。
「ホッとします。何度いただいてもすごく美味しいですね」
前田さんは、嬉しそうに微笑んでくれた。
「パン、良かったら召し上がって下さい」
「あ、いえ。美山さんの前では申し訳ないので後ほどいただきます。楽しみにしておきます」
さすがに、私がいたら食べにくい……かな。
それからしばらく、今度のイベントについてや、パン教室の段取りなど詳しい説明を受けた。
もちろん、だいたいのことは前もって聞いてはいたし、準備も進んでるけど……
改めて聞くと結構大変そうで、色々考えるとちょっと不安だけど、パン教室に来てくれる可愛い子ども達の顔を想像して、私はまた気合いを入れ直した。
「以上ですが、何かありましたら遠慮なく私に聞いて下さい。何でもお答えしますので」
28歳で、私より年上の頼れる優しいお兄さん――って感じの前田さん。
イベントに関しては、あんこさんに慧君、そして、この人がいてくれれば安心だと思えた。
「ところで、前田さんは秘書さんなのにイベントのことまで大変ですね」
ちょっと気になって質問した。
「いえいえ。今回は、自分で社長に志願しました。イベントスタッフに加えてほしいと」
「そうなんですか?」
前田さんの積極的な行動にちょっと驚いた。
「はい。実家の仕事柄、イベントには慣れてるというか。それに私は、秘書といっても第3秘書なので……」
「それでも両立は大変じゃないですか? 私なんて、ひとつのことで精一杯ですから」
「大変なんて、社長に比べたら全然ラクなものです。社長は、自ら精力的に動かれているので本当に忙しいんです。私達社員にもチャンスを与えてくれますし、自らも動く。社長の手腕には周りも驚いてます。仕事もできて、人を育てる力もあって……あんなに信頼されている人、なかなかいないと思いますよ。確かに、仕事に関してはシビアですが、そうでないと社長は務まりませんからね」