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穏やかな表情をした瑞稀くんを研究室から見送り、夕日が差し込む窓際に移動した。下を見るとビルを出た瑞稀くんの傍に雅光さんが走ってやって来るなり、ぎゅっと抱きつく。きっと、僕とふたりきりでいたことを心配したに違いない。
「雅光さんの腕から恋人の彼を奪い、細長い首筋に牙を突き立てた吸血鬼の僕だから、信用されなくて当然なんだよな……」
そのときのことを思い出しただけで吸血鬼に変貌するなり、瑞稀くんの血を欲してしまった。迷うことなく、先ほど採取した血液が入っている試験管を手に取り、ゴム栓を抜いて一口だけ飲み込む。
本当は全部飲み干したかったが、それだと研究することができなくなる。一口だけでも味はわかるし、前回との違いをみずからの舌で堪能させてもらった。
「ああ、ぁあっ……なんて美味なんだ。しかも味が変わってる。甘さの中にまろやかな風味が加わって、舌の上で一瞬でなくなってしまった!」
わけもなく体が震え、試験管を握る手が熱く疼いた。
ふたたび飲まないようにするために、急いで試験管にゴム栓をし、夕日にそれを照らした。赤黒い血に夕日の光が当たるだけで、神聖なエリクサーに見える。
(雅光さんはズルいな。恋人という特権を使って、瑞稀くんの血を飲み放題。一方の僕は研究者として、注射器から彼の血を採取してる)
「そうか、雅光さんから彼を奪って僕のモノにすれば、血が使いたい放題になる!」
まずは瑞稀くんの恐怖を溶かし、僕に心を開かせてやる。数回ここに通ううちに僕が無害だとわかれば、優しい君のことだ、心を開いてくれるだろう。君が熱い体を俺に預けたとき、君の首筋に牙を立てるんだ。
「ときが来たら、瑞稀くんを僕のモノにしてあげる」
持っている試験管のガラスにキスをして窓の外を見下ろすと、すでにふたりの姿は消え去っていた。太陽は影に隠れて、夜空に星が瞬きはじめる。まるで僕の心の内を示すようなその寂しさに、苦笑いを浮かべたのだった。