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宋日
登場人物設定
宋:唐末の混乱を鎮め、「中華」として君臨する平和国家。強大な北方民族と対峙することに頭を抱える一方で経済力は東アジア1、最近は海上貿易に力を入れている。
一人称▶︎俺 二人称▶︎君
日本(平安朝):794年に平安京に都を移し成立した政体。唐などの周りの国家から受けた影響を自国内で発展させることで独自の文化を有する。海に隔たれた弊害か、周囲の状況を読み取ることが苦手で誤解してしまうことも。
一人称▶︎私 二人称▶︎君
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海とは怖いものである。複数の船で向かう遣唐使船からも分かるように、海を渡るにはあまりにも危険が潜んでいた。
唐の治世はもう終わる、そう判断しついに大陸との直接的交流を停止させた。そうは言っても書は往来したし、文物も海を超えて国内に行き渡ったのは確かだ。
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私にはあまり理解できるものでは無かったが、社会というものはまるで1つの川の流れのように、刻一刻と変化していた。
どうやら大陸の方では混乱が治まったとの知らせを聞いて、大陸とのやり取りを再開させた。正直抗争に巻き込まれるのが嫌だったので朝廷同士では関わる事は無かったが。だが時たま連絡は来る。「宋」と言うらしい。初めは高麗や他と手を組んで攻め込まれたら…と思っていたが敵意はないらしい。むしろかなり友好的な性格と聞いた。
私は彼に興味を持った。どんな国なのだろう、国家運営の方針は?
─まだ顔も合わせたことのない王朝に興味を持つのは久々だった。
近年禅の流行から入宋者が増加した。彼らに手紙(上の方からあくまで個人間のやり取りなら、と許してもらった。そのため手紙という形式でやり取りをする)を託し、あちらも民間の商人に任せ、細々とはなるが連絡を取り合うことにした。
渡航はそんなに頻繁に行われるものではない。数ヶ月から一年単位で連絡が来るのが普通だった。私自身そこまで他とやり取りをするタイプではないのでちょうど良かった。質素な紙に書き連ねられる綺麗な字は心を躍らせた。
宋から送られてくる文章には淡々と近況報告が書かれており、最後の方には、
「日本は資源が豊富と聞いている。きっと良い暮らしをしているのだろう。」
だの
「そちらは万世一系と話を聞いた。何か長続きする秘訣、みたいなものはあるのか?色々聞きたい。」
ということが書いてあった。
…宋という国は意外と私の事を見ていると感じた。様子を見るに、北の勢力の圧迫から、周囲の状況に敏感らしい。確かに私も外部から襲来を受けたことがあるので気持ちも分からないことはない。日々の忙しい様子は文面で察する。ただ、充実していることは私でも分かった。
「貴方の文化はこちらに強い影響をもたらしています。是非とも教えて欲しいです。私たちも最近は文化面に力を入れているので様々な物語があります。どれも面白いので読んでみて欲しいです。」
彼は私の拙い漢文でも分かりやすく答えてくれるし、贈り物もしてくれた。流石文化国家といえる見事な品だ。特に陶磁器の技術は目を見張るものでとても私には再現不可能だった。
ふと思いつきで手紙の最後にこそっと
「いつか、貴方に会ってみたいです。」
と付け加えてみた。どんな反応をするだろうか。
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…返事は来なかった。元々来るとは思っていなかったが。だから特に悲しいという気持ちはなかった。彼は筆まめな方だ、多分何かあったのだろう。
疲れてしまった。簾を降ろして蝋燭に火をつけた。ゆらゆらと揺れる火。
一度はもう一通手紙を送ってしまおうとも思った。
…面倒くさい人だと思われたくはない。
私は持っていたその手紙を燃やした。
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貿易港に来た。相変わらず異国情緒漂う空気感は慣れない。いつもは都で篭もりがちなので、ぐっと身体を伸ばせば、目の前を通る商人に声をかけられた。
「聞いたかい、今宋国は大変なことになってるらしいよ」
「大変?」
あんたは何も知らないのか、そう言われ海岸に目を移す。霧で何も見えない、聴こえるのはただ漣の音だけだった。
「北の国と戦になっているらしいんだよ。滅びるとまではいかないけど、みんな北に連れ去られたって。逃げてきた輩が言ってたから間違いないね」
「そんなことが…」
私には何も出来ない、武力など持っているはずもなく、ただ無事を祈ることしか出来ない。
あとから聞いた話だと高麗の方も被害が出ているらしく、これに関しては海の存在に感謝した。私は戦いは好きではない。…彼もそう言っていた。
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帰ってからも正直、気が気ではなかった。
あれだけ影響力のあった唐でさえ滅ぶ、きっとあちら側は私たちには想像もできない程の苦難が付きまとっているはずだ。交戦中となるとやはり色々な情報が飛び交うものだ。あまり耳に入れたくなかったのでしばらくそういった場から去ることにした。
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それから数十年の月日が経った。
都はは相変わらず賑わい人々は未だ活気ある様子だ。遠くに聞こえる声を薄ら聞きつつ
「今日は何しようか」飼っていた猫を撫でながら独り言をこぼす。
急に鳴いたかと思えば猫が簾を揺らした。
逃げた!
咄嗟に追いかけるも逃げ足は早い。どうにかもう少しで捕えられそうだ、と思った矢先に従者二人の話声が聞こえた。
耳を寄せる。
「これは渡しても良い物なのでしょうか?」
「怪しい物でも入っていたらどうするんですか」
何かを持っている。なんだろう。
「そこで何を話しているの。」
暴れる猫を抱き抱えながら従者たちに問うと、驚いた表情でこちらを見た。
「宋国から連絡が来たようで、いつもと形式が異なるので真偽を判断し」「貸して!」
言葉を途中で遮り猫を押し付け、書状を手に取る。
筆跡は間違いなく彼のもので違いない。ただ、前と違うのはやや形式ばった文体で堅苦しい印象があることだ。
「突然連絡を絶ってしまった。国難に遭い、前の都では居られなくなってしまったからな。しばらくは南の方で政治を行わざるを得ない状況だが、俺は平気だから心配しないでくれ。それより、交易を行う流れになったのは本当か?日本が積極的に交易すると言うとは思わなかったので驚いた。これからも宜しく頼む。」
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生きていた!
まさか死ぬとは思えなかったが、どうも不安だったのだ。
安堵にひとつ、ふたつと深呼吸をすると、従者が「あの〜…」と様子を伺うので「ごめん、返すね。真偽を確認してお返事考えないと」と猫を返してもらう代わりに書状を返却する。
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さて、どう返事を返そうか。高鳴る胸を押さえ自室へ戻った。
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【あとがき】
初投稿です。
中国王朝という、この界隈ではマイナーな部類にあると思いますが、流行ってくれることを祈りつつ書きました。拙い作品ですがご容赦ください。
ところで「崖山の戦い」をご存知でしょうか。宋王朝が元王朝に滅ぼされる最期の戦いなのですが、幼い皇帝が入水する事で収束します(つまり、そこで宋王朝は正式に滅びる訳ですが…)。私はそこで壇ノ浦の戦いを想起しました。この二国は始まりは違えども終わり方はとてもよく似ているんですよね。
何が言いたいのかというと、意外にも宋王朝と平安朝にはどこかで繋がりがあるように思います。
【注意】
・私は地雷が多いためリクエスト等は対応していません。
・一応カンヒュの括りで書かせて貰いましたが、国擬人化などで置き換えて頂いても構いません。