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#ボーイズラブ
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激しいぶつかり合いの果てに訪れたのは、耳が痛くなるほどの静寂だった。
旧校舎の資材置き場
高い位置にある窓から差し込む西日が、埃の舞う部屋をオレンジ色に染めている。
俺たちは、汗で張り付いた体温を分かち合ったまま
床に敷いた安っぽいマットの上で重なっていた。
俺の背中に、阿久津のたくましい胸板が押し付けられている。
ドクドクと、早鐘を打つような鼓動。
それは俺の心臓の音なのか、あいつの音なのか判別がつかない。
阿久津の荒い吐息が、汗ばんだ俺の首筋を絶え間なく揺らしていた。
(……あぁ。マジで、死ぬかと思った……いや、男としては死んだか)
全身の力が抜けて、指先一つ動かすのも億劫だ。
あんなに狂ったように俺を貪っていた阿久津も、今は俺の肩に顔を埋めたままピクリとも動かない。
こいつ、俺と同じくらい、いや、俺以上に余裕がなかったんだな。
普段はあんなに偉そうで、モデル面してスカしてやがるくせに
俺を抱いている時のあいつは、必死で
余裕がなくて、まるで溺れる奴が縋り付いてくるみたいだった。
和解の言葉なんて、俺たちには似合わない。
「好き」だの「愛してる」だの
そんな甘っちょろい言葉を吐き出した瞬間に、俺たちの関係は崩れてしまう気がした。
でも、今この肌から伝わってくる暴力的なまでの熱、逃げ場のない腕の強さ。
それだけで、言葉よりもずっと雄弁に
阿久津の抱えているクソデカい感情を理解できてしまった。
それがまた、無性に腹立たしくて、少しだけ……心地よかった。
……だが。
この感傷的な沈黙が、俺たちには最高に「似合わない」ことも分かっている。
静寂が訪れてから、三秒。
俺はわざとらしく、鼻を鳴らして沈黙を切り裂いた。
「……っつーか、阿久津。お前さぁ……」
「…んだよ」
阿久津の声は、事後特有の低さで掠れていた。
「今の……マジで下手くそだったな。お前、自慢の筋肉ばっか鍛えて、肝心のテクニックは置いてきたのかよ。も、もうちょっとマシな手つき覚えろよ、このクソ童貞」
俺が息を整えながら、精一杯の強気で煽ってやる。
すると、案の定、俺の肩に乗っていた阿久津の体がピクリと跳ねた。
「……は? お前、もういっぺん言ってみろや」
ガバッと起き上がった阿久津は
さっきまでの余韻をかなぐり捨てて、顔を真っ赤にして俺を睨みつけてきた。
「下手っっくそっつったんだよ! 聞こえなかったか、耳に筋肉詰まったかよ!」
「うそつけ!悦んでただろーが!」
「なにを根拠に?!」
「顔に書いてんだよ!大体お前がマグロすぎて手応えねーからだろ?!声ぐらい上げろや!これだから」
「急に男にヤられてあんあん言えるわけねぇだろが!お前AVの見すぎなんじゃねえの?」
「それを言うならお前の方だろーが、それぐらい準備しとけや」
「男とヤるなんて体験普通はねーんだよ!」
「だったら次回までに練習しとけ」
「誰がするかよ!!次なんかあってたまるか!」
狭いマットの上で、くだらない言い争いが始まった。
埃っぽい空気の中に、汗の匂いと二人分の熱が籠っている。
さっきまでの獣みたいな息遣いも、濡れた肌の感触も、まだ生々しく残っているのに
俺たちはそれを吹き飛ばすような勢いで罵り合う。
互いの口の悪さは相変わらずで
それが、なんだかひどく懐かしく感じた。
多分、これが俺たちの一番自然な形だ。
情熱的に抱き合った後でも、優しく髪を撫でたりはしない。
終わった途端に喧嘩腰になるのが、俺たちらしいやり方なのだ。
「うっせーよチンカスが、こっちは気遣ってやってたんだよ」
「気遣い!? あれで!?絶対あちこちアザになってんだけど!責任取れよ無能!」
「はっ、上等だよ、次は腰抜かして泣かせてやらぁ!!お前がその減らず口叩けねーくらい、徹底的に分からせてやるからな、さっさとケツ出せや」
「ヤれるもんならヤってみろよ脳筋が!今度は俺が主導権握ってやるよ」
結局、俺たちはそのまま、マットの上で再び掴み合いの喧嘩を始めた。
和解も、甘いムードも、俺たちには皆無。
殴り合うような激しさでしか、俺たちはこの溢れ出した「情愛」を処理する方法を知らなかった。
資材置き場のドアの向こうからは
まだ文化祭の浮かれた喧騒が聞こえてくる。
その一角で
俺たちは互いの存在を確かめるように、再びドロドロの欲望へと突き進んでいった。