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ユーカ
201
工場内――。
冷たい鉄骨がむき出しになった空間に、雪混じりの風が吹き込む。
唯我は逃げようとしていた男を地面へ押さえつけ、鋭い眼差しを向けていた。
「――お前ら、さっきは逃がしてやったはずだ。まだ何か企んでいるのか?」
男は顔を青ざめさせ、必死に首を横に振る。
「ち、違います! 俺たちは命令されていただけなんです!」
「命令?」
唯我の声がさらに低くなる。
男は震える唇で続けた。
「ゼ、ゼノスって男です……! 俺たちはただ従っていただけで……!」
その名前を聞いた瞬間だった。
唯我の瞳が鋭く見開かれる。
「……ゼノス」
空気が変わる。
工場内の温度がさらに下がったような錯覚さえ覚える。
美鈴もその異変を感じ取り、表情を引き締めた。
「唯我……?」
唯我は男の胸ぐらを掴み上げる。
「その男はどこにいる」
「し、知らない! 本当だ! 命令は部下を通して伝えられてたんだ!」
男の顔を見つめる。
嘘はついていない。
そう判断すると、唯我は男を突き飛ばした。
「失せろ」
二人の男は転がるように工場から逃げ出していく。
やがて静寂が戻った。
雪が舞い込み、鉄骨に当たる音だけが響く。
美鈴は不安そうに唯我を見つめた。
「……そのゼノスって人、知ってるの?」
唯我は少しの間黙り込む。
そして静かに答えた。
「俺たちが追っている敵だ」
「敵……?」
「それ以上は聞くな」
冷たい返答。
だが美鈴は怒らなかった。
むしろ、その声の奥にある緊張を感じ取っていた。
「……そう」
短く答えた後、美鈴は少しだけ笑う。
「でも、無茶だけはしないで」
唯我は視線を逸らした。
「お前に言われたくない」
「ふふっ」
昔と変わらないやり取り。
ほんの少しだけ、二人の間に流れる空気が柔らかくなる。
だが、その時だった。
――ザザッ。
工場の奥から、不気味な音が響く。
唯我は即座に龍焉刀へ手をかけた。
美鈴も剣を構える。
次の瞬間。
鉄骨の上から黒い影が静かに降り立った。
その姿を見た唯我の表情が険しくなる。
「……お前は」
影の男は薄く笑った。
「久しぶりだな、唯我」
雪混じりの風が吹き抜ける。
男の瞳だけが異様な光を放っていた。
「どこまで強くなったのか――試させてもらおう」
その言葉とともに、男の足元から黒い影が広がっていく。
工場全体を飲み込むように。
再会の余韻は、一瞬で戦いの気配へと塗り替えられていた――。
コメント
1件
うわ、ゼノスって名前がついに直接出てきた……! 第36話でここまで一気に敵の核心に迫る流れ、緊張感がすごいですね。特に「それ以上は聞くな」って唯我が言うときの声の冷たさと、美鈴がそれをちゃんと受け止めて笑うところの対比が好きです。再会シーンの台詞も「久しぶりだな」だけで既に背筋が凍る。工場の雪と鉄骨の描写が映像的に浮かんできて、一瞬で世界に入り込めました。次の展開が気になりすぎます……!