テラーノベル
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ああ、また、この夢か。
私の周りをぐるりと囲うように、炎が轟々と哭いている。熱さは感じないはずなのに、何故か息が苦しくなる。
「――――……、……良、沙良!!」
男の声は、非常ベルのサイレンに混ざって消えていく。
「どうして、どうして、お前だけが――!」
大切なものは、なかなかどうして掴めない。
◇
意識が空に落ちるような何とも言えない感覚とともに、私は正面の空を掴むようにして飛び起きた。まだ夢と現実の境界線が曖昧な私の体が、灰の舞わない新鮮な空気を欲して肩で呼吸をしている。ぜえぜえという息と心臓の音が鼓膜の近くで大合唱をしているし、扇風機をつけたまま寝ていたのに体中が汗でぐっしょりだ。
夢の中で声のする方に伸ばしていた私の右手には、現実ではもちろん、その掌中には何もない。
スマホで時間を確認すると、もうそろ7時になろうかという頃合いだった。こんな早起きの仕方はあまり望んでいないのだけれど、起きてしまったのだからしょうがない。二度寝しようものなら、またあの悪夢が再放送されるだけだ。
自分で自分をなだめながらベッドから体を起こす。まずはシャワーを浴びなければ。もう母は寝ているだろうから、慎重に行かないと。
階段と廊下が空気を読んで黙ってくれることを祈りつつ、私は部屋を出て風呂場に向かうのだった。
タオルを念入りに髪と髪の間に滑らせる。ドライヤーは音で気づかれてしまうから自然乾燥に頼るしかないのだが、太もも近くまである髪を放っておくと大爆発待ったなしなので(経験談)、この工程はいつも慎重にこなす。
ある程度頭が軽くなってきたら、パジャマからいつもの大きめのパーカーに袖を通し、スマホとイヤホンをポッケに仕舞う。よし、準備はばっちりだ。
まだほんのり熱がこもったままの手で、玄関のドアを開ける。
瞬間。街灯、車、熱風、人。今日も夜がやってきた。もう一度スマホの画面を確認すると、時間は”午後”7時半を過ぎていた。
今夜はどこに行こうか。