テラーノベル
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ゴオオオ、と激しい風が、遮るもののない屋上に吹き荒れていた。
フェンスを背にして、俺たちは並んで座っていた。オレンジ色の夕光が、コンクリートの床を赤黒く染めていく。
いつもなら、隣にいる湊はゆったりとした大人の余裕を崩さない。俺があぐらをかいて不貞腐れていても、「るいちゃん、そんな顔すんなって」と、いつもの少し意地悪で甘い声でからかってくるはずだった。
なのに、今日の湊は違っていた。
おもむろに、湊がスッと立ち上がる。下から見上げる彼の背中は、どこかひどく強張っているように見えた。風に波打つシャツの隙間から、夕日が鋭く差し込んでくる。
湊がゆっくりと振り返った。
その顔には、追いつめられた必死さなんて微塵も浮かんでいなかった。いつも通りおだやかで、何を考えているのか分からない、底の読めない綺麗な笑顔。
湊は、まるで明日どこに遊びに行くかを決めるような気軽さで、さらっと言った。
「……ねぇ、俺と一緒に死んでくれない?」
ショックはなかった。心臓が跳ねることもなかった。
ただ、一瞬の間をおいて、俺の口元が自然と片方だけ引き上がる。
「……ふっ笑」
乾いた、およそ悲壮感なんてない笑い声が自分の喉から漏れた。
あーあ……。最後くらい、いつものみたいに「るいちゃん」って、笑ってからかってくれよ……。そうすれば、俺もいつものツンとした態度で「うるせぇ」って返せたのに。
俺はあぐらをかいたまま、じっと湊を見上げた。
口元は確かに「ふっ笑」の形のまま、おだやかに微笑んでいる。けれど、俺の目にはもう、何の光も宿っていなかった。明るい感情も、暗い絶望も、世界のすべてを諦めきった、ただただ凪いだ虚無。
「……いーよ、死のっか」
俺のそのあまりにもあっさりと全てを悟った『温度のない微笑み』を見た瞬間。湊の顔から、大人の余裕がピキッと音を立てて崩れ去った。
俺の狂気を、俺の限界を理解してしまった湊の顔が、今にも泣き出しそうな、締め付けられるような絶望に歪む。オレンジ色の夕光のなかで、俺たちの影だけが、どこまでも冷たく伸びていた。