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「……けほっ……」
熱でぼうっとした視界の中、元貴はソファにぐったりと沈んでいた。
パーカーの袖から覗く手首は汗ばんでいて、顔はほんのり赤い。
そんな彼の元に、ドアの開く音とともに低めの声が響く。
「鍵、開いてたぞ。無防備すぎんだろ、元貴」
「……滉斗……」
「連絡も既読つかないし、これはさすがに様子見に来るだろ」
玄関に立つ若井滉斗。ラフな黒のロンTにジーンズ姿。
でもエコバッグの中には、手作りのおかゆセットとポカリ、そして氷枕。
「寝てろ。全部俺がやるから」
「……ありがと」
ベッドでもなく、ソファで丸まる元貴に、滉斗はため息まじりに近づき、そっと髪をかきあげ、額に手をあてた。
「熱、けっこうあるな。……ほんと、無理しすぎ」
「仕方ないだろ。締め切り前だったし……」
「バカ。お前が倒れたら、全部意味ないんだよ」
一言一言が、じんわりと胸に沁みる。
滉斗の声には、優しさよりも“怒り”が混ざってる。心配してるからこその怒りだ。
キッチンへ向かう滉斗の背中を、元貴は熱っぽい目で見送る。
「……あいつ、かっこいいな……」
⸻
「はい、できた。超絶うまいおかゆ」
滉斗が運んできた湯気の立つおかゆ。
スプーンですくって、ふうふうと息を吹きかけて──
「……はい、元貴。あーん」
「お前さ、男に“あーん”求めんのやめろよ……」
「じゃあ、口つける?」
「……もっと悪いわ!」
そう言いつつ、元貴は口を開ける。
素直じゃないけど、滉斗のしてくれることは、全部うれしい。
「……うまい」
「そりゃそーだろ。俺が作ったんだぞ?」
胸を張る滉斗に、笑いながら「はいはい」と答える元貴。
でもその笑顔は、少し潤んでいた。
「……お前、来てくれてマジで助かった」
「……ほんとそれだけ?それ以外は?」
「……え?」
滉斗が元貴の顔をのぞき込む。
近い。めっちゃ近い。
「寂しかったとか、俺に会いたかったとか、ねぇの?」
「……」
元貴は、少し照れたように目を逸らしてから、ぽつりとつぶやいた。
「……ずっと会いたかった。……俺、たまに子供っぽくなるじゃん。お前には、そういうとこ見せられるから……」
その言葉を聞いて、滉斗はぐっと喉を鳴らした。
「お前、今の……反則だろ」
そして、ぐいっと元貴を抱き寄せる。
「……我慢できるか、バカ」
滉斗の腕の中に包まれて、元貴はうれしそうに笑う。
「……じゃあ、ちゃんと甘えさせてよ」
そのまま、滉斗の首に腕をまわし、自分から唇を重ねた。
甘くて、じれったくて、深いキス。
「……お前、風邪ひいてんのに……っ」
「お前が誘ったんだろ……」
「知らねぇよ、もう……責任取れよ、元貴」
「……とる。全部、お前でいいもん」
⸻
──数日後。
「……っ、あ゛〜〜〜!鼻つまる〜〜〜!!」
「ほら、言ったじゃん。うつるって」
「でもお前が『全部お前でいいもん』とか言ったせいだぞ!?死ぬほど甘かったんだからな、あのキス!」
「じゃあ、もう一発甘いのいる?」
「いらんっ!いらんっ!!でも欲しい……!」
「素直でよろしい。はい、あーん(ゼリー差し出し)」
「チクショー……惚れた俺が悪い……」
END💕