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放課後。
雪乃と鬱先生は風紀室に来ていた。
昨日の男子生徒への罰は追って渡されるらしい。
「よかったな鬱。生きてて」
「他人事みたいに言うな草凪」
心配してたんだぞ、と真顔で鬱先生を見る春翔。
そして雪乃を見る。
「よく守り切ったな」
雪乃は褒められたことが嬉しかったが表情に出さないように「当たり前でしょ」と憎まれ口を叩く。
「依頼人からも感謝の言葉を貰ってるし、これにて一件落着かな。よかったな鬱。護衛から解放されて」
晴れて自由だぞ、と言われ「あぁ」とだけ返す。
「何だ嬉しくないのか」
「いや、まぁ美女に守られる生活も悪くなかったかなって」
横目で鬱先生を睨む雪乃。
「嘘嘘冗談。雪乃ちゃんもありがとうな。任務全うしてくれて」
雪乃は静かに「はい」と返事をする。
「仕事ですから」
「…そやな」
笑いかける鬱先生。
しかし雪乃は上手く笑えない。
どうしてだろう。
「じゃあ解散。もう脅迫文とか送られんなよ鬱」
「おう。頑張るわ」
鬱先生は最後にお礼を言ってから風紀室を出ていく。
「どうしたチビ」
静かに佇む雪乃に、春翔が声をかける。
「…わからない。でも何だかザワザワする」
そう言って胸を抑える。
「…止まってても分かんねーままなんじゃねぇか」
春翔の方を見る。
「ここで一歩踏み出さなかったら、一生わかんねぇままだぞ」
その言葉に、雪乃は走り出す。
知りたい。
このざわつきの正体を。
風紀室を出て、周りを見渡す。
どっちに行ったか分からない。けど、走る。
いない、どこ?
走って走って、彼の姿を探す。
結局見つからず風紀室の方まで戻ってきてしまった。
息が切れて、膝に手を置く。
「…鬱先生」
「呼んだ?」
顔を上げると、そこに彼はいた。
「…初めて名前、呼んでくれたやん」
笑ってそう言う彼の顔は、廊下の窓から差し込む夕陽に照らされていた。
「…偶然聞いてたとか、ズルくないですか」
「はは。すまん」
「…何で戻ってきたんですか」
「ん?話したいことがあって、雪乃ちゃんに。
雪乃ちゃんも、俺のこと探しとったんやろ?」
「…いや、別に…」
「そんな必死に追いかけてきといて、誤魔化されへんやろ」
「………」
「いやー相思相愛やなぁ俺ら。いだっ!!」
鬱先生の脛に蹴りを入れる。
涙を浮かべて痛がる鬱先生。
「ご、ごめんて…それよりほら、ここじゃなんやから移動しよか」
2人は廊下を離れ、お昼休みにお弁当を食べた中庭のベンチへやって来た。
「話したいことって、何ですか?」
雪乃が少しの沈黙の後、口を開く。
「そうそう。ユキメノコのことなんやけど…」
そう言うと鬱先生の背後にユキメノコがすぅっと現れ、後ろから抱きしめる。
「随分と懐かれましたね」
「おん。…実は思い出したことがあって」
鬱先生は話し出す。
数日前、このユキメノコがポケモントレーナーに捨てられる瞬間を見てしまったことを。
「ユキメノコは捨てられる瞬間、怒ってそのトレーナーを氷漬けにしようとしとった。けど、俺がそれを止めたんや。
『そんな怖い顔しとったら、綺麗な顔が台無しや。君みたいな素敵な女性を捨てる見る目のない男なんかこっちから捨ててやれ』って」
何とも言い回しが鬱先生らしい。
「悲しそうにするユキメノコに、その時ちょうど持っとったサイコソーダを手渡して、俺はその場を去った。それからや。寒気がするようになったのは」
…まんまとユキメノコに好かれてしまったらしい。
「なるほど。じゃあ何でユキメノコは襲ってきたんでしょう」
昨夜といいお昼といい、何故ユキメノコは鬱先生を狙ったのか。
「さぁ、嫉妬したんちゃう?雪乃ちゃんとずっと一緒におったから」
そんな理由??
とユキメノコを見る。
「メノ」
鬱先生をギュッと抱きしめながら雪乃を睨むユキメノコ。
…ワンチャンそうかもしれない。
「なら私を狙うべきでしょ」
「うーん。ユキメノコ、何で俺を襲ったん?」
「メノ」
聞いてみても真実は分からず。
「『私以外の女と一緒にいるなんて許せない』的な?」
「あー、あるなぁ。そういう子もたまにおるもんなぁ」
まるで実体験があるかのように話す。
それに、そもそもこっちが勝手に『襲ってきてた』と勘違いしてただけで、ユキメノコからしたらただのスキンシップだった可能性もある。
「けど、ポケモンであろうと困ってる女性は放っておけないんですね」
「当たり前やろ」
だんだんこの人のことがわかってきた。