「高宮先輩」
「へい」
「……”男女2人の出張”に、
ハプニングは付きものですよね」
「いや知らないよ、そんなセオリー。
“旅に”、なら聞くけどね」
「よくあるケース1位は、
“手違いで、宿泊先のホテルが1部屋しか取れてない”、やないですか」
「うわー。最悪だね、ソレ。
[上には上がある]ってことかぁ」
「…………」
「ちなみにさ。
我々が直面してるこのハプニングは、
何位くらいなの?」
「いや、ランク外ですよ。
“手違いで、部屋のグレードが異なる”、なんて。
ハプニングとすら呼べませんわ」
「えー、そうかなぁ。
片方は”エコノミー”で、
もう片方は”スタンダード”って……
結構大きな差じゃない?」
「まじでどうでもイイ」
「しかもさー。
エコノミーが”シングル”で、
スタンダードの方が”ダブル”なんだってー。
追い討ちだよね〜」
「はぁ……。
なんなん、この地味なミス。
…………セオリー通りで良かったのに」
「さ、神崎くん。
右か左、どっちにする?」
「……何、どゆこと」
「ゲームだよ!
後ろ手のカードキー、神崎くんが選んで?」
「いやいや。
俺、エコノミーでいいっすよ」
「ダメダメ。平等にいかなきゃ。
ほら、どっちにする?」
「えー……。
じゃあ……右手の法則」
「え、フレミング?どっちもあるのに。
まぁ、えーっと……右はねぇ………あ、315号室。
おめでとう、神崎くん。
スタンダードの方だね」
「はぁ……どうも……」
「あれ。嬉しくなさそう」
「そうですね。
こんなに虚無感のあるゲーム、初めやわ」
「あ!私、今日はトランプ持ってきたよ!
神経衰弱できるよ!!」
「え、先輩。
先月俺が出張の話したとき、
『遊びに行くんじゃないんだよ』とか言うてませんでした?」
「……ウン。言った。
でもなんか、パッキングしてるときにさぁ……。
神崎くんとの出張、修学旅行みたいだなって……
なんか、1人で勝手にワクワクしちゃって」
「え」
「……でも、そうだよね。
仕事で来てるのに、そんな気分じゃダメだよね……。
ごめんね?忘れて」
「いやいやいや。ごめん。待って。
やろう、トランプ。どれでも付き合いますよ。
神経衰弱でも、ページワンでも、ババ抜きでも」
「え。2人でババ抜きって、
流石につまらなさすぎない?」
「いいの。どれでも面白くするから。
…………そんなことより、肝心なのはさぁ」
「うん?」
「そのトランプ……
どこでするつもりなんすか」
「えーー!そりゃあ、もちろん」
「…………もちろん?」
「神崎くんの部屋の方でしょ。
スタンダードを引き当てた宿命だと思ってよ」
「…………どういう感情すればいいん、俺」
「あ、部屋に人招くの嫌なタイプ?」
「そういうのはナイけど」
「せめて、私がコンビニ行ってお菓子とか買って来るからさぁ。
あ。ガッカリするかもだけど、ジュースで我慢してね?
明日も仕事だから」
「……待って、俺が行く。
緊急で、念のために買わなあかん物ができた」
「え、何それ。私買ってくるよ?」
「無理無理無理。言えるわけないから」
「………………あぁ。
もー……支障出ないようにしなきゃ、ダメだよ?」
「え…………先輩。
…………わかってんの?俺が買おうとしてる物」
「わかってるよ」
「……!!!」
「やっぱり…………飲みたいんでしょ?お酒」
「…………………」
「仕方ないなぁ。
なら、買い出しも任せちゃうよ?
私じゃあ神崎くんの好み、わかんないし」
「……………………………………」
「じゃ、後ほど。
準備できたら行くから、メッセージ入れてね〜」
「……………ほんま信じられん。
あの人、また忘れてんちゃうの?俺が告白したこと……。
はぁ……もう。
誰でもええから、何とかしてくれよ……」
—————>>>—————
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!