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なにかのチケットが、意味深に微笑む橋本の手から見せつけられる。宮本に注目させるためなのか、魚が泳ぐようにぴらぴら動かすせいで、なんのチケットかはわからないものの、印刷された文字が一瞬だけ目に留まった。


「ゴーカート?」


宮本がそれを口に出した途端に、橋本の口角が嬉しげにあがる。


「そっ! 恭介伝いに行ってみないかと誘われたんだ。和臣くんの職場の近くに、ゴーカート場がオープンするんだって」

「へぇ……」

「正式なオープン前に、近隣の会社や知り合いを呼んで、プレオープンして宣伝するらしい」


橋本は楽しそうに言いながら、壁に貼りつけてあるカレンダーに近づき、画鋲でプレオープン日のところにチケットをとめる。


「雅輝はこの日、仕事どうなんだ? 俺は休みだけど」

「……残念ながら仕事です。だけど、前倒しでやっつければ行けるはず!」


(ゴーカート場で陽さんとデート♡ 絶対に逃してなるものか!)


「さすがはスピード狂。合法的に思いっきりコーナーを攻めることのできる場所だし、そりゃ行きたくもなるよな」

「確かにそうですけど、それだけじゃないですよ」


カレンダーの前に佇む目じりを下げた橋本に、宮本は後ろから抱きついた。平日の遅い時間帯に、こうして自宅に寄ってくれるだけでもありがたみを感じる。


「今日は帰るからな」

「わかってますって。だから次に逢う時までに足りなくなるであろう、陽さんの成分を補充するため、こうして抱きついているんです」

「補充ねぇ。一方的に抱きつかれる俺は、補充できないわけだ?」


宮本は橋本のうなじに顔を寄せ、思う存分に香りを堪能してから、綺麗な首筋に唇を押しつける。橋本のセリフをスルーしたままおこなわれることに、「なんだかなぁ」というセリフが目の前で呟かれた。


「陽さん?」


首筋から顔をあげた瞬間だった。目の前の景色があっという間に変化するが、体幹を崩された躰は、あっけなくそれを受け入れるしかなかった。気がついたら背中には柔らかいベッドがあって、天井の次に橋本のしたり顔が、宮本の目に映る。


「おまえ隙だらけ。誰かに襲われたらどうするだ?」

「誰かって、陽さんしか襲う人はいないじゃないですか」


宮本としては当たり前のことを口にしたというのに、橋本は眉間に深い皺を寄せた。


「あのなぁ、見た目まんまネコなんだし、もう少しくらい注意してくれよ。俺の心臓がいくつあっても足りないぞ」


そんな文句だらけのことを告げた唇が、宮本の唇に重ねられた。求めるように蠢く舌が、簡単に宮本の欲望を引き出す。


(――このまま陽さんに襲われても、受け入れることができちゃいそうなキスだ。マジでどうにかなりそう)

不器用なふたり この想いをトップスピードにのせて

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