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橋本の唇が離れたと同時に、甘い吐息が宮本の口から洩れた。頬を染めてもの欲しげに見つめる視線をやり過ごすように、橋本は背を向ける。宮本は慌てて起き上がり、大きな背中に縋りついた。
「陽さん酷いよ。こんなことしておいて、なにもせずに帰るの?」
「その言葉、そっくりお返しするぞ。おまえだって同じことを、俺にしてるんだからな!」
「へっ?」
「まったく! 無自覚でそれをやってのけるんだから、雅輝の場合はタチが悪いよな」
目を瞬かせながら橋本の顔を覗き込んだら、大きな手がそれを阻止するように頬に当てられる。一瞬だけ見えた橋本の頬の赤みに、宮本の唇に笑みが浮かんだ。
「陽さぁん……」
「今日はなんとしてでも帰る。その理由くらい、雅輝はわかってるだろ?」
「うっ! ゴーカートに行くために、仕事の調整をしなきゃいけないから……です」
「よしよし。理解しているようでなにより」
宮本の頬に振れていた手が頭に移動し、容赦なく撫でてからさっと引っ込められた。いつもならその手を掴み寄せ、橋本を抱きしめていた宮本だったが、褒められた手前それができない。
そのままベッドから腰をあげて出て行く、橋本の背中を玄関まで名残惜しげに見送り、両手に拳を作って寂しさをやり過ごす。
「雅輝」
「はい?」
玄関で靴を履いた橋本が、振り向きざまに名前を呼んだので返事をした刹那、状況が一変する。ぼんやりしていたのもあり、自分が今なにをされているのかわからず、それを受け続けるしかない。
「陽さ……」
宮本を逃がさないようにするためか、首に片腕がかけられるせいで強く押しつけられる唇と、下半身に触れて淫靡に動く手に、どんどん息があがっていった。
(陽さんってばこのまま帰ると言ったクセに、なんてエッチなことをしてくれるんだ!)
「これだけじゃ物足りないだろ?」
最後に音の鳴るキスをしてから告げられた橋本の言葉に、迷うことなく「足りないです」と返答した。
「だったら俺になにをされようかな、なんてことをたくさん考えながら仕事に励め。そうすれば絶対にゴーカートに行けるだろ」
「陽さん……」
「俺だって楽しみにしてるんだからな。頑張ってくれよ!」
まくしたてるように喋るなり、颯爽と出て行った橋本に、宮本は返事すらできずに見送るのが精いっぱいだった。一緒にいられない時間を感じさせないようにする、優しい橋本の思いやりに胸が熱くなり、好きになってよかったとしみじみ感じる出来事になった。