※テストやばい
「はあ、はあ…ま、まだあ…!?」
しずかなもりを抜けて数時間。体力の少ないアドレーヌが、早くも音を上げはじめた。前よりかは幾分かマシにはなっている(本人曰く「修行の旅の成果」らしい)が、それでもまだまだぼくたちには及ばない。リボンちゃんにも疲れが見えはじめているけど、デデデ城まではあと少し。それが分かっているから、誰も「休みたい」とは言わなかった。
「…ねえ、カービィ」
カエデがぼくを呼ぶ。
「なーに、カエデ」
「その…大王、って、どんなひとなの?」
「んー…一言で説明するなら…大食いで馬鹿力の負けず嫌い」
相変わらず扱いが雑な気がするけど、そこもいつも通りなので気にしない。たぶん本人も気にしないから。
「…あ!そろそろ着きそうっスよ!」
ワドルディの一言で、みんなが顔をあげた。彼の言葉通り、目の前にはデデデ城がある。中に彼がいるかどうかは別として、ひとまずの目標は達成できそうだ。
「バンワド、大丈夫かなぁ…デデデがなんか変になってたり、城のワドルディたちが騒いでたら大変そう…」
「あー…おおよその予想はつきそうっスね…でも、仮に夢の泉に何かあったとしても、オイラ、昨日は普通に良い夢視たのであんがい騒ぎは起こってないかも…」
「だとしても、だよ。旦那なら何か、感づいてるかもじゃん。最初に夢の泉の異変に気づいたのも、旦那だったらしいし 」
「…そう、っスね 」
ワドルディは静かに納得したようだ。当事者なのもあって、あっさり飲み込めたのだろうか。
「…あ、カービィ!ちょうどよかった。今から呼びに行こうと思ってたところだったんだよ」
「…バンワド?どうしたの?」
正面入り口の前に、見知った顔――ワドルディ族だから一見すると同じ顔だけど――が見えた。特に約束をしているわけでもなしにぼくを呼びに行こうとしていた、と言っていたから、また何かしら起こっていそうだ。緊張した面持ちのバンダナワドルディを見て、一度気を引き締める。
「あのね、カービィ…大王様が、リングまで来い、って。また最初みたいに戦ろう、って…さっき起きてきていきなり言い出したんだ」
「あー…別の意味で、面倒くさいことになった…」
少なくとも異変はなさそうだ。そして、以前みたいに侵入して強行突破――なんてことにもならなさそうだ。
「じゃあバンダナさん、オイラは三人を観客席に案内しておきます。その後、倉庫に寄っても大丈夫っスか?」
「キミのパラソルだね?ちゃんと整備してあるから、いつでも持っていきなよ!それと、仕事の報告、忘れずにね」
「あ、それならあたしがやっておくよ!ワドくんに任せっきりじゃいけないし…」
どうやらワドルディが言っていた用事というのは、しずかなもりの見回りの結果報告と、倉庫に置いてあるパラソルを取りに行くことだったようだ。ぼくとあいつが戦っている間に済みそうな用なら安心だ。
「じゃあ五人とも、あとでねっ!」
背中を向けて走り出す。のんびりとした会話の中に、少しの緊張を感じながら。
「――来たよ」
でかでかとした肖像画の下の戸をくぐると、ライトのまぶしい光が目につく。
「へーえ?お前にしちゃあ、早かったな」
リングの上で腕組みをしている人影。
「ぼくも、ここに行こうと思ってたから。ただの偶然だよ」
ロープを飛び越え、舞台に立つ。互いの悪い顔が見合う。それだけで、客席が沸きたった。四人は既に、緊張した面持ちで見守っている。
「…珍しい、ってわけじゃないけど…ほんと、キミが言いだすことは全部面白いね。…いいよ。“最初みたいに”戦ろう 」
「ああ。もちろん、小細工は…ナシだ! 」
その言葉が、開戦の合図になった。
「うぉらっ!」
先制の、ハンマーの一撃。最初みたいに、とは言ったけど、その実力は最初以上だ。代わりに、衝撃で出てきた星を吸い込んではき出す。
「へへ…いつも思うがなぁ…そのチカラ、インチキだろ…!」
「これがないとまともに戦れないんだよ。それとも――もう負け惜しみ?」
「んなわけ…あるかよっ!」
(…っ!)
相手の攻撃が、躱しかけた背にヒットした。これで互いに一撃ずつ与えている状況。威力と攻撃手段は相手が優勢、けれどリカバリー力と経験値なら負けてない。
「これなら…どうだっ!“ジャイアントデデデスイング”!」
「わわっ…お返しだよ、貫通弾!」
ハンマーの打撃と、星が飛び交う。攻撃を当てたり躱したり、あるいは大技を仕掛けたりするたびに歓声が空気を揺らした。
「次はこれだ!“スーパーデデデジャンプ”!」
「その攻撃なら…よっと!…とっくに見切ってる!」
数歩下がり、星をぶつける。…と、デデデがふらつく。そろそろ体力が限界に近づいてきたようだ。しかしそれは、ぼくにも言えること。たぶん、次の攻撃を決めた方が勝つ。
「…もう限界か?なら、これで決めてやる…!」
ハンマーを背に構え、力を溜める。めらめらと炎が燃え上がる。今の自分に攻撃手段がない以上、これを避けて星を当てるしかない。
「…これを避けきったらぼくの勝ち。でも―― 」
「――当たれば、オレ様の勝ちだ!」
だっ、と急加速した。その不意な動きに、体は反応できない。まさか発動前に、こんなに早く動くなんて…
バックステップで下がっていたから、余計に避けづらい。というか、もう避けきれない。
(なんとか、耐えなきゃ…)
炎が目の前を翔る。
星が飛び出し、視界が真っ白になった。
「…残念。まだやられないよ」
ふらふらの頭で立ち上がる。本当なら体勢を立て直したいところだけど、今はそんな余裕なんてない。今の攻撃で飛びちった星をまとめて吸い込んで、狙う。
(決めろ…貫通弾っ!)
大きな星の塊がぶつかる。残りの力ではき出した分の勢いが乗り、城の屋根――までは行かなかったけれども、デデデはロープを突き抜け、リングの下へと落ちていった。
(はあ、はあっ……これで、勝ち、かな…?)
そう思って力が抜けたのか、足はもう立っていられないようだった。仰向けになったらやっぱり、天井のライトがまぶしかった。
ひときわ大きな歓声が響きわたる。しかしそれが鳴り止むのを聴かないうちに、ぼくの意識は途切れてしまった。
「…う、うーん…」
次に目が覚めたとき、リングの光は目に入らず、代わりにやわらかな日の光が、今ぼくがいる部屋を照らしていた。どうやらあの後、城内の別の場所まで運ばれたらしい。働きはじめた頭で聞きとれた声は、ワドルディとバンワドの親しげな話し声。心配そうなカエデをなだめるリボンちゃんの声。デデデに仕事の報告を済ませているアドレーヌの声。やっぱり、いつも通りの会話だった。
「…カービィ!?もう起きたの!?」
「え、もう、って…ぼく、どれくらい寝てたの?」
「まだ5分も経ってないけど…回復力、すごいんだね…」
驚きつつも尊敬の念が混じった声だった。でも確かに、ハンマーに素手で戦ったのなら、だれだって心配してしまうのは分からなくもない。名だたる強敵たちに槍一本で挑んでいった友人を見ていたときのぼくも、そんな気持ちだったから。
「カーくん…よく“おにごろしデデデハンマー”を喰らって立ってられたね…あたしだったら絶対ムリだよ…」
「…あー…あれ?確かにあの時、本当ならやられててもおかしくはなかったんだけどね。発動直前に、デデデが急に移動してきたでしょ?…それだよ。そのおかげで集中とかエネルギーが一瞬だけ途切れて…威力が落ちたんだよ。あとは…根性?」
「ラストのラストに根性論っスか…まあカービィさんらしいっスけどね」
あはははっ、と笑いが起こる。不服そうな顔を浮かべるぼくと、悔しそうな表情のデデデの二人だけは、素直に笑えなかったけれど。
「…そういえばさ、旦那…なんで急にこんなことしよう、って思ったの?起きがけにいきなり戦ろうぜ!…ってのも、ちょっと珍しいし」
「…そのことなんだがな………お前らは気づいてるか?」
「え…?気づいてるか、って、何にでしょうか?」
リボンちゃんが率直な疑問を述べた。…もしかしたら、表面上はいつも通りなだけで、またデデデだけが気づいてしまったパターンだろうか。放っておいたらややこしくなりそうだったし、早めに見に来て正解だったかも…
「…あのさ、デデデ…ぼくがここに行こう、って考えてたのはさ。昨日…この子が、カエデが落ちてきたからなんだ。その時、夢の泉から“あれ”に似たのを感じて…前にも同じようなことあったから、当事者なら何か気づいたかと思って 」
「…ビンゴ。お前の予想通りだよ。
…結論から言うぞ。…俺は今日の朝、悪夢を視た」
いつもの空気が、一気に消し飛んだ。
あとがき
文字数3500以上行っとるやないかいワレェ!
…あ、作者やっておりますフジミヤです。
タイトル通り、デデデとカービィの話です。今回めっちゃルビ振りましたね。多かったよね。でもこれ小ネタ隠しやすくて好きなんだよ。そこ以外にも小ネタ隠してるけど。
ちなみにデデデの一人称が「オレ様」と「俺」となっておりますが、もちろんわざとです。うちのデデデはあんまり偉ぶらないです。64のイケメンっぷりに極振りした性格です。ただ公式サイトの一人称も使いたくて、使い分けさせました。仲間内では素の俺、格好つけたいときや外回りのとき(そこまで真剣じゃない外交)はオレ様…って感じかな?
あとカエデのイラストも(アナログで)描いてますが、3話あたりで描写したヘアターバン、なくします。…というのも、カエデだけ凝った服になる予感がしたもので…残りの友達はだいたいシンプルだったので、ターバンを取ってかなり控えめなデザインにできたと思います。そして描いたイラストは、前回言ったキャラ設定紹介のときにでも出します。オリキャラに限りますが。 こういう設定変更、よくあることなのであまり気にしないでくれると嬉しいです。
ちなみにターバンに関してはちゃんと紛失イベント作る予定ですよ!早めに失くしたいので、次の星あたりで…?
…少々喋りすぎましたね。では、また次回!
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