テラーノベル
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静かな治療室に、朝の淡い光が差し込んでいた。
みことが眠り続けて、どれほどの時間が経ったのか。
その傍らには、ずっとすちがいた。
椅子に座り、みことの手を両手で包み込んだまま、一睡もせずに。
治療が終わってからも、すちは何度もみことの様子を確かめていた。
呼吸は穏やかか。
熱は上がっていないか。
ちゃんと眠れているか。
少しでも変化があれば、すぐに気づけるように。
だから――
みことの指先が、ほんの少しだけ動いたとき。
「……!」
すちはすぐに顔を上げた。
「みこと……?」
眠っていたはずのみことの瞼が、ゆっくりと震える。
そして、ほんの少しずつ開いていった。
ぼんやりとした視界。
まだ意識がはっきりしない。
けれど、その視界の中にいる人だけは、すぐに分かった。
「……すち……」
かすかな声。
その一言を聞いた瞬間。
「……っ、みこと……!」
すちの瞳から、堪えていた涙が一気に溢れた。
何度も呼びたかった名前。
無事でいてほしいと、祈るように願い続けた名前。
「みこと……!」
すちは思わず身を寄せ、みことをそっと抱きしめた。
傷に負担をかけないよう細心の注意を払いながら、それでも離れてしまうのが怖いと言うように。
「よかった……本当に……よかった……」
声が震えている。
みことはそんなすちの声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
身体にはまだつらさが残っている。
けれど、不思議と心は穏やかだった。
ずっと会いたかった人が、ここにいる。
自分の手を握ってくれている。
ちゃんと、帰ってこられた。
――すちのところへ。
「……すち」
「うん……ここにいるよ」
すちは涙を拭いながら、みことの顔を見る。
その顔を見つめているうちに、みことの口元がほんの少し緩んだ。
力の抜けた、安心しきった笑顔。
「……ただいま」
その言葉に、すちはまた目元を濡らした。
けれど今度は、悲しみではない。
安堵の涙だった。
すちはみことの頬をそっと撫でる。
「……おかえり、みこと」
穏やかな声だった。
その一言を聞いたみことは、ようやく胸の奥から力が抜けていくのを感じた。
帰ってきた。
自分が帰りたいと願い続けた場所へ。
すちが待っていてくれる場所へ。
「……よかった……本当に、よかっ…た……」
その言葉とともに、すちの身体から力が抜けた。
「すち……?」
返事がない。
みことを抱きしめたまま、すちは静かに目を閉じていた。
どうやら、限界だったらしい。
みことが眠っている間、ずっと傍を離れず、一睡もしないまま看病していたのだ。
「……すち、寝ちゃったの?」
みことが小さく呟く。
返事の代わりに、すちの腕がほんの少しだけ動いた。
みことは慌てて身体を支えながら、そっと横になる。
「ちょっと……もう、急に寝るんだから……」
困ったように呟きながらも、その表情には嬉しさが滲んでいた。
自分を抱きしめたまま眠っているすち。
その寝顔は、起きているときよりずっと穏やかだった。
みことはしばらく眺めたあと、そっと腕を回す。
ぎゅっとすることはできない。
まだ身体が本調子ではないから。
それでも、触れるだけの優しい抱擁を返した。
「……ありがとう、すち」
小さな声は、眠っているすちには届かなかった。
けれど、それでよかった。
みことは目を閉じる。
すちの温もりがすぐそばにある。
戦場でずっと願っていたもの。
帰りたいと思い続けた場所。
そのすべてが、今ここにあった。
「……あったかい……」
みことは安心したように息を吐いた。
すちの胸元にそっと身を預ける。
すちも眠ったまま、みことを守るように腕を寄せた。
二人の間に、穏やかな沈黙が流れる。
外では朝の鳥が鳴き始めていた。
長い戦いの夜が終わり、ようやく訪れた静かな朝。
みことはすちの温もりを感じながら、ゆっくりと眠りへ落ちていった。
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