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――プシュー…
「次は〇〇、お降りの方は足元にご注意ください。」
何十回も何百回も見たこの景色。
賑やかでも、特別寂しい訳でもない。
ただ同じ景色が続くだけの日々。
「あぁ、つまらねぇ」
”人生はゲームだ。”
そんなことを言ったのは何処の誰なんだろう。
そう思えたら人生はきっと楽なんだろうな、でも、僕はそうは思えない。
だって、運命的な出会いも、真実の愛や奇跡の友情なんていうのは無い。
そして何より、この世界にはやり直しなんてものはないから。
勇気は一瞬。後悔は一生。
生きているのなら何かを決めなくちゃいけない時がある。
そしてまた後悔をする。
もうそんな人生に嫌気が差して――、、
『腹が立ってんだろ?』
図星だった。
どこからこの声が聞こえるのか
いや、本当に聞こえているのか?
疲れているだけなのかもしれない。
『この世の中に腹が立ってるんじゃなくて、お前は自分に腹が立っているんだろ?』
うるさいうるさいうるさいうるさい
『何も出来ず、誰にも求められず、誰かを傷つけ、自分を肯定する。そんな自分が嫌いで嫌いでしょうがないんだろ?』
黙れッッ!
――はっ
そうだ、ここはバスの中。
周りの乗客たちがこちらをじっと見ている。
その目線が身体にまとわりついて剥がれない。
「気持ち悪いッ…」
おぼつかない足取りで僕はバスを降りた。
その日は大好きなチーズケーキを買って家に帰った。
ホコリの舞う部屋でただ独りの生命体。
それが僕だ。
チーズケーキを一口頬張る。
あの時聞こえた言葉が頭から離れない。
ほかの人達には、さぞ当たり前かのように
”大切な人”というものが居る。
じゃあ僕には?
僕には何がある?
大切な人も居ない。
大事にしているものもない。
人としての尊厳も、プライドも、リスペクトだって、全部全部いつの間にか無くなってしまった。
――平凡な人生
そんな言葉が僕の人生にはお似合いだろう。
腹が立つ。
――プシュー…
「次は△△、お降りの方は足元にご注意ください。」
昨日あんな事があったとしても、この景色だけは何も変わらず動き続ける。
少し、安心をしてしまう自分もいた。
”大きな箱より小さな箱に幸せはあるらしい”
じゃあ小さな箱すら存在しない僕には何が残る?
幸せを溜める箱も、幸せを見つける道具だって、それを受け取ってくれる人も、何もかもが無い。
からっぽの僕は何なんだよ――、、
『お前、誰かに期待されたいんだろ?』
またこの声だ。
『今、死んでないのは、誰かに期待されたい。期待されてみたい。そう思ってるからだろ?』
うるせぇ、
『自分にだけは、まだ期待してしまっているからだろ。』
「黙れよッ!!お前はなんなんだよ!!!」
お前に僕の何がわかる!?
自分が救いようのないクソ野郎で、それでも尚、期待されたいと求める。
心底くだらない。
「そんなこと、わかってんだよ!!!!」
『俺が誰なのか…それはいずれ分かるだろう』
外を見ると、知らない景色が見えた。
小さい頃に夢見た、宝物を詰め込んだ宝箱のような輝き。
キラキラしている。そんな景色だった。
今までこのバスには何百回も乗ってきた。
そしてこんな景色は見たことがない。
――「ここは、どこなんだ」
一人きりのバスでそう呟いた。
気づけばあいつの声も聞こえない。
昨日からおかしい。
これは、夢なのか?
それとも走馬灯ってやつなのか?
僕は頬をビンタした。
鋭い痛みが走った。
どうやら夢でも走馬灯でもないらしい。
かといってこれが現実とは受け入れがたい。
でも、もう疲れた。
何も考えたくない。
今はただ、この景色を見ているだけでいい。
――プシュー…
「次は■■、お降りの方は足元にご注意ください。」
いつの間にか寝てしまっていた…
辺りの景色は寝る前の景色とは打って変わっている。
心無しか空も暗くなってきている気がする。
そろそろ帰らないと本気でやばい。
『お前はそれでいいのか?』
また君か。なんだよ
『今帰ったとしても、毎日同じバスに乗って、毎日同じ景色を見て、毎日誰にも必要とされない、価値を感じてもらえない。そんな日々が続くだけだ。』
……
『もう一度聞く。お前はそれでいいのか?』
……
嫌だ。
誰かに必要とされたい。
誰かに 君が必要 と言われたい。
誰かに褒めてほしい。
大切な人が欲しい。
大切なものが欲しい。
大切な人に命をかけてもいいと思えるような、美しい人生にしてみたい。
そして何よりも、今まで行動してこなかったクズのような自分を壊したい。
『……お前ならそう言うと思ってた』
僕は、君が誰なのか、段々わかってきた─
――プシュー…
「次は 心の真髄 お降りの方は足元にご注意ください。」
君は、
あの時惨めで泣くことしかできなかった。
必要とされたくて独りで泣いた。
それでも何も変えることのできなかった。
そんな醜い部分の自分なんだろ。
君は僕で、僕は君だ。
僕の本当の願いをさらけ出させてくれてありがとう。――
バス停を進んだ先は、何もないまっさらな景色が続いた。
あぁ、この景色は、この場所は…
なんで忘れていたんだろう。
何年も過ごしたこの暖かい思い出を。
何度も名前を呼んでくれた、あの声を。
この世界で僕のことを必要としてくれるたった2人のことを。
この世界がゲームじゃなくて
やり直せない世界だとしても、
それでももう一度やり直せるのなら。
あの時家を勝手に出ていったことを2人に詫びたい。
涙ぐんだ声で僕は
「……ただいま!」
そうやって僕は大好きな場所へ還った。