テラーノベル
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世界にたった一人、私が愛することを選んだ男の、切実で誠実な体温。
呪いが完全に解けたあの日から、彼の強大な魔力は私の存在と深く
複雑に溶け合い、今では視線を交わし
互いの鼓動を重ねるだけで、乾いた魂の隅々までが潤いで満たされていくのを感じる。
「……ヴィル。あの絶望の夜のこと、今でも時折、誰にも渡したくない宝物のように思い出すんだ」
ルネサンスが、私の首元で今も静かに
誇らしげに輝く大粒のサファイアを、愛おしそうに指先でなぞった。
私の肌を滑る彼の指の感触が、甘い痺れを連れてくる。
「あのとき、君がついてくれた残酷な嘘があったからこそ、私は本当の君が隠していた、誰よりも熱く、高潔な心を見失わずに済んだ」
「嘘つきな君が、私に教えてくれたんだ。愛とは、誰かから奪うものでも、契約の紙切れで縛るものでもなく、ただ隣にいたいと願い、その幸せを我が事のように祈る───その、あまりにも切実で純粋な祈りのことなのだと」
「……私も、同じ思いですわ。貴方の放った『利用するだけだ』という、あまりにも不器用で、悲しいほどに優しい嘘に、私がどれほど救われ、この心を生かされてきたか」
私たちは至近距離で見つめ合い、自分たちの滑稽で
けれども何物にも代えがたい愛おしい過去を慈しむように、小さく笑い声を漏らした。
没落した家を救うため。
始まりは、互いの背中に隠し持った、自分を守るための鋭く冷たい「嘘」だった。
けれど、その嘘を一枚ずつ、血の滲むような痛みを伴いながら剥いでいった最後に残ったのは──
どんな華やかな修辞よりも重く、どんな魔法よりも強い、たった一つの真実だった。
「愛しているわ、ルネサンス。誰よりも、世界中の何よりも」
「今更だな。私も一生という限られた時間すべてを捧げても、この胸にある想いだけは、きっと語り尽くすことなどできないだろう」
窓の外、降り積もる雪が、二人が歩んできた険しく
美しい過去さえも包み込むように、世界を白く、静かに塗りつぶしていく。
だが、この温かな部屋の中だけは、永遠に消えることのない、真実の「熱」に守られていた。
嘘から始まった二人の歪な物語は
今、終わることのない愛の叙事詩へとその姿を変え
降り積もる雪のように静かで、それでいて
決して揺らぐことなく、幸せの記憶をどこまでも深く重ね続けていくのだった。
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