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この作者です普通に間違えてアカウント消してしまいました…これからこの垢で活動します
第1章 朝の匂い
両親から逃げるようにやって来たこの町。
ここは、何年経っても変わらない。──いや、私が変わらないだけかもしれない。
土間に響く、鈍い音。
見えないはずの“赤”が、私の目の前でゆがんでいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」──
声は幼い女の子。いや、男の子だろうか。
その震えた声が、私の胸に突き刺さる。
手を伸ばしているのに、届かない。
そんな現実に、なぜか涙が止まらなかった。
目を覚ました瞬間、枕元の空気が湿っていることに気づいた。
夢の内容はもうぼんやりしていたけれど、胸の奥に何かが重く残っていた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋の埃を静かに照らしている。
このまま布団にくるまっていたかった。だけど、それ以上に、外の空気が恋しかった。
私は静かに起き上がり、まだ眠っている家の中を抜け出して、サンダルをつっかけた。
外は、朝の匂いがした。