テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
キルアが猫化しちゃった⁉︎🐾
キルアはいつも通り、時間ぴったりに×××の家へ向かっていた。
あと数歩で玄関、というところで――
「……え?」
視界が一気に低くなり、手足が軽くなる。
いや、軽いなんてレベルじゃない。
(……猫!? なんで!?)
銀色の毛並み、しっぽあり。鏡がなくても分かる。
自我はしっかりあるのに、完全に猫になってしまっていた。
「ちょ、待て、落ち着け……」
焦って周囲を見回すキルア。
×××の家の“目の前”。逃げるにも目立つし、今さらどうすることもできない。
(このまま待つ? いやでも、オレが来ないってなったら……)
そのとき。
「……キルア?」
玄関のドアが開き、心配そうな声がした。
時間ぴったりに来るはずのキルアが来ないことを不思議に思った×××が、様子を見に出てきたのだ。
「え……?」
×××の視線が、玄関前に置かれた見覚えのある服と、
その横にちょこんと座る“やけに見覚えのある猫”に止まる。
「……まさか」
しゃがみこんで、じっと猫を見つめる。
「……キルア?」
その一言に、キルアはピクッと耳を動かした。
(バレた!?)
「やっぱり……目がキルアだ」
×××は驚きつつも、どこか納得したように小さく笑った。
「……なにがあったか分かんないけど、とりあえず入ろ?」
そう言って、そっとキルアの頭を撫でる。
「……っ」
猫の体は正直で、思わず喉が鳴りそうになるのを必死でこらえるキルア。
撫でられていること自体も、×××にそうされていることも、全部が恥ずかしい。
(やめろ……今、猫だからって……)
「可愛い……」
ぽつりと漏れた×××の一言に、キルアのしっぽがピンと立つ。
(……可愛いとか言うな)
×××は気づかないまま、もう一度優しく撫でてからキルアを抱き上げた。
「大丈夫。ちゃんとキルアだって分かってるから」
その言葉に、キルアは小さく目を細める。
(……はやく戻らねーと、からかわれる)
そう思いながらも、
撫でる手の温かさに、少しだけ身を任せてしまうのだった。
部屋に入って落ち着いた頃、×××はふと眉をひそめた。
「……キルア、ちょっと汚れてる」
キルアはハッとして、自分の前足を見る。
任務帰りだったせいで、ところどころに擦り傷と薄い汚れが残っていた。
(しまった……)
×××は心配そうにしゃがみこむ。
「このままじゃだめだよ。お風呂、入ろ?」
「!?」
キルアは思わず後ずさった。
(待て待て待て!!)
でも声は出ない。
必死に首を振って抵抗するキルアを見て、×××は少し困ったように笑った。
「怖いの? 大丈夫だよ」
そう言って、やさしく頭を撫でる。
「私も前に猫になったとき、記憶あんまりなかったし……キルアもきっと覚えてないだけだよね」
(いや、全部覚えてる!!)
キルアは心の中で叫ぶが、×××はすでに準備を始めていた。
湯気の立つお風呂場に連れていかれ、そっと抱き上げられる。
「ほら、すぐ終わるから」
×××は服を着替えて、タオル姿で戻ってくる。
それだけでキルアの心臓は大暴走だった。
(近い……近すぎだろ……!)
お湯に触れた瞬間、キルアはビクッと体を強張らせる。
「ほらほら、大丈夫」
水が怖いだけだと思った×××は、ゆっくり、ゆっくりとお湯をかけていく。
その手つきがあまりにも優しくて、キルアは抵抗するタイミングを失ってしまった。
(……くそ)
洗われながら、キルアは顔をそむける。
撫でるみたいに洗われるたび、耳が熱くなるのが自分でも分かった。
「ふふ、すっかり綺麗」
最後に軽く流して、タオルで包まれる。
「えらかったね、キルア」
その一言で、キルアのしっぽが小さく揺れた。
(……オレ、何やってんだ)
部屋に戻ると、×××は満足そうに微笑む。
「これで安心。傷もちゃんと見えるし」
キルアはタオルにくるまりながら、目を細める。
(……守られてるみたいで、悪くねーな)
照れと恥ずかしさを抱えたまま、
キルアは×××のそばで小さく丸くなるのだった。
お風呂から戻ると、×××は小さく息をついた。
「はぁ……ちょっと濡れちゃった」
キルアを洗うのに夢中で、自分の服にも水が跳ねていたらしい。
キルアをタオルにくるんで寝かせてから、×××は別の部屋へ向かった。
その頃。
(……×××?)
キルアは目を覚まし、辺りを見回す。
さっきまでそばにいたはずの×××がいない。
(どこ行ったんだ……)
ちょこちょこと足音を立てて廊下を進み、
開いていた部屋の前まで来た、そのとき。
中が、少しだけ見えてしまった。
「……っ!?」
×××が着替えている途中だと気づいた瞬間、
キルアは固まったまま、全身が一気に熱くなる。
(ば、ばか……! オレ、何見て……!!)
反射的に視線を逸らし、慌てて後ずさる。
猫の体でも、いや猫の体だからこそ、誤魔化しがきかない。
(落ち着け……深呼吸……)
キルアはそっと部屋の外で伏せて、じっと待つことにした。
しっぽだけが、落ち着かない気持ちを表すように小さく揺れる。
しばらくして、ドアが開いた。
「……キルア?」
着替え終えた×××が、廊下でお行儀よく待っているキルアを見つけて首をかしげる。
「どうしたの? 迷子?」
キルアはぷいっと顔を背ける。
(……見たとか言えるかよ)
×××は不思議そうにしつつも、そっと抱き上げた。
「探してくれたの?」
その言葉に、キルアは小さく喉を鳴らす。
(……そういうことにしとけ)
×××の腕の中は、さっきよりも温かくて、柔らかい匂いがした。
キルアは恥ずかしさをごまかすように、顔をうずめる。
「ふふ、甘えんぼだね」
(……誰のせいだと思ってんだ)
照れと安心が入り混じったまま、
キルアは×××の胸元で静かに丸くなるのだった。
夜。
静かな部屋で、キルアは×××に抱かれたままベッドにいた。
猫の体は丸くて、×××の腕の中は驚くほど落ち着く。
胸の上下に合わせて、ゆっくり揺れる感覚。
(……あったかい)
×××は眠そうに目を細めながら、キルアの背中を軽く撫でる。
「キルア、今日お疲れさま」
その声がやさしくて、キルアは喉を鳴らしながら身を寄せた。
(……このまま朝になればいい)
そう思いながら、幸せな気持ちに包まれて、二人は眠りについた。
⸻
朝。
最初に目を覚ましたのはキルアだった。
(……ん)
体が、重い。
いや、重いというより――違和感。
(……あれ?)
視線を下げて、キルアは一気に目を見開く。
(ちょ、ちょっと待て!!)
猫じゃない。
元に戻ってる。
しかも、状況がまずい。
(なんで……なんでオレ――)
その瞬間。
「……キルア?」
隣で、×××が目を覚ました。
「っ!!」
キルアは反射的に毛布を引き寄せて、体を隠す。
「お、おはよ……」
声が裏返りそうになるのを必死で抑えるキルア。
×××も状況を理解したのか、一瞬固まってから顔を赤くする。
「……おはよう」
二人とも、黙る。
沈黙が、やけに長い。
(なに言えばいいんだよ……!)
先に口を開いたのは×××だった。
「……猫のとき、すごく大人しかったよ」
「言うな!!」
即座に返すキルアに、×××はくすっと笑う。
「だって、呼んだらちゃんと来るし、撫でると照れるし」
「だから言うなって……!」
キルアは毛布に顔を埋める。
その反応を見て、×××は少し首を傾げた。
「……あれ?」
「……なに」
「もしかして……覚えてる?」
キルアの動きが、一瞬止まる。
「……」
「……キルア?」
「……ちょっとだけな」
ぽつりとそう言うと、×××の笑顔が一気に悪戯っぽくなる。
「へえ?」
「ちょ、待っ――」
「じゃあ、お風呂も? 探しに来たのも?」
「……言うな!!」
完全にバレた。
×××は楽しそうに笑いながら、そっとキルアの方を見る。
「でも、嬉しかった」
その一言で、キルアは何も言い返せなくなる。
(……ずるい)
気まずさは残っているのに、
なぜか空気はあたたかくて、安心する。
からかわれながらも、
キルアは心の奥で思う。
(……最悪じゃない朝だな)
からかわれ続けたまま、朝の空気が少し落ち着いた頃。
×××はベッドの上でくつろぎながら、まだ楽しそうに笑っていた。
「キルア、ほんと可愛かったよ。猫のとき」
「……」
キルアは黙ったまま、ちらっと×××を見る。
その表情が、さっきまでの慌てた様子とは違っていた。
「なに、その顔?」
×××が不思議そうに首を傾げた瞬間――
キルアはすっと距離を詰める。
「なあ」
低く、落ち着いた声。
「……猫のときさ」
×××は一瞬、きょとんとする。
「オレ、全部覚えてるって言ったよな」
「う、うん?」
キルアはにやっと笑う。
「撫でながら、“キルア、いい子”って言ってたのも」
「えっ……」
「寝る前に、腕ぎゅってしてきたのも」
×××の顔が一気に赤くなる。
「ちょ、ちょっと待って……それは……」
「それから」
キルアはわざと少し身をかがめて、視線を合わせる。
「オレがいなくなると、探してたのも」
沈黙。
「……」
「……覚えてるんだ?」
小さく聞き返す×××に、キルアは肩をすくめる。
「全部な」
今度は×××が毛布を引き寄せて、顔を隠す番だった。
「……それ言うの、反則」
「は?」
「キルアずるい……」
キルアはくすっと笑って、そっと×××の頭に手を置く。
昨日撫でられていた、その仕返しみたいに。
「はいはい。いい子」
「……っ!」
×××が顔を上げた瞬間、キルアはもう一度微笑う。
「どっちが照れるか、勝負だったよな?」
「……完全に負けた」
そう言いながらも、×××はキルアの服の袖をつまむ。
「でも……覚えててくれて、嬉しい」
その一言で、キルアの余裕は一気に崩れた。
「……それ言うなよ」
視線を逸らしつつ、耳まで赤くなるキルア。
×××はくすくす笑って、キルアに寄り添う。
「おあいこだね」
「……ああ」
気まずさなんてもう残っていない。
ただ、からかい合って、照れて、安心する――
そんな幸せな朝だった。
家を出ると、朝の空気は少し冷たかった。
「寒くない?」
×××がそう言う前に、キルアは自然に距離を詰める。
「……平気」
そう言いながら、歩幅を合わせるのは無意識。
×××もそれに気づいて、何も言わずに隣を歩く。
(……昨日の続きみたいだ)
登校中も、視線が合うたびにどちらかが先に逸らす。
なのに、なぜか離れない。
「キルア」
「なに」
「……近い」
「今さらだろ」
即答されて、×××は小さく笑う。
学校が見えてきても、その空気は変わらなかった。
⸻
校門をくぐった瞬間。
「おはよー!!」
聞き慣れた元気な声。
「……げ」
キルアが小さく舌打ちする。
ゴンがにこにこしながら二人を見ていた。
「おはよ、キルア、×××。なんか今日も仲いいね?」
「いつも通りだろ」
キルアは素っ気なく返すが、×××は微妙に視線を泳がせる。
ゴンは二人の様子をじーっと見てから、にやっと笑った。
「昨日、なんかあったでしょ?」
「なっ……!」
「別に深い意味じゃないよ? たださ」
肩をすくめながら、さらっと続ける。
「空気がね。いつも通りなんだけど、
いつもより“いつも通り”っぽい」
完全に図星だった。
キルアと×××、同時に固まる。
「……っ」
「……」
「え、なにその反応」
ゴンは吹き出しそうになりながら笑う。
「やっぱりあったんだ」
「なにもねーよ!」
「そ、そうだよ!」
声が被って、さらに墓穴。
ゴンはもう隠す気もなく笑っていた。
「はいはい。深掘りしないでおくね」
そう言いながらも、最後に一言。
「でもさ、二人とも顔赤い」
キルアは顔を背け、×××は思わず両手で頬を押さえる。
(……最悪)
(……バレバレ)
ゴンは満足そうに頷いた。
「ま、いっか。仲いいのはいいことだし」
そう言って先に教室へ向かう。
残された二人。
しばらく沈黙のあと、×××が小さく言った。
「……恥ずかしい」
「……言うな」
でも、どちらも離れなかった。
教室に入る直前、キルアがぼそっと呟く。
「……昨日のこと」
「うん」
「誰にも言わねーから」
×××は一瞬驚いてから、柔らかく笑う。
「私も」
その笑顔に、キルアはまた照れる。
(……からかわれても、悪くねー)
ゴンにバレても、学校に着いても、
二人の甘い空気は――
結局、いつも通り続いていた。
授業が始まっても、二人はどこか落ち着かなかった。
キルアはノートを取りながら、ふと前を見る。
同じタイミングで、×××も顔を上げた。
――目が合う。
「……」
一瞬の沈黙。
キルアは慌てて視線を逸らすが、口元が緩むのを止められない。
(やば……)
×××の方も同じだった。
教科書に視線を落としながら、頬がじわっと熱くなる。
(なんで目合っただけで……)
また、ふとした拍子に目が合う。
今度は二人同時に、耐えきれずに小さく笑ってしまう。
「……っ」
「……」
咳払いでごまかすが、明らかに怪しい。
――その様子を、後ろの席からじーっと見ている影が一つ。
ゴンは顎を机に乗せながら、楽しそうに二人を観察していた。
(あー、これ完全に何かあったな)
⸻
昼休み。
三人で机をくっつけて、お昼を食べ始める。
「いただきまーす!」
ゴンは元気よく言いながら、ちらっと二人を見る。
「ねえ」
嫌な予感。
「今日さ、授業中ずっとニヤニヤしてなかった?」
「してねーよ」
即答するキルア。
×××も慌てて首を振る。
「わ、私も普通だったよ?」
「へえ〜」
ゴンはにこにこしたまま、箸を動かす。
「でもさ、目合うたびに二人とも同時に逸らしてたよね」
「……っ」
「……!」
「あと、笑うタイミングも一緒」
完全に見られていた。
キルアは弁当箱に視線を落とし、×××はストローを無意味にいじる。
「昨日なんかあった?」
「だからねーって言ってるだろ!」
「そうだよ、何も……!」
声がまた被る。
ゴンはそれを聞いて、満足そうに頷いた。
「うんうん、やっぱりあったんだ」
「なんでそうなるんだよ!」
「だってさ」
ゴンは身を乗り出して、ひそひそ声になる。
「今日の二人、距離近いし、雰囲気ふわふわだし、
照れ方が昨日までと違う」
×××は顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえる。
「……そんなこと……」
キルアも耳まで赤い。
「ゴン……いい加減にしろ」
「えー? からかってるだけだよ?」
そう言いながら、最後の追撃。
「ま、いつも通り仲いいんだけどさ。
今日は特に――幸せそう」
その一言で、二人とも完全に黙り込む。
数秒後。
キルアが小さく舌打ちする。
「……お前、ほんと勘いいよな」
×××は小さく笑って、ぽつり。
「……否定できないのが悔しい」
ゴンは大満足で笑った。
「でしょ?」
からかわれて、照れて、逃げ場はないのに。
不思議と嫌じゃない。
三人で食べるいつもの昼休み。
でも今日は、甘さが隠しきれない。
キルアは弁当をつつきながら思う。
(……昨日のせいだ)
×××も同じことを考えていた。
(……でも、幸せだからいいよね)
ゴンはそんな二人を見て、にやにやしながら一言。
「午後の授業も楽しみだね」
「黙れ!」
「もう!」
声が揃って、また照れる。
――からかわれても、
この距離、この空気は、簡単には戻らなかった。
放課後。
教室を出て、昇降口へ向かう三人。
夕方の光が差し込んで、少しだけ空気がゆるむ。
「じゃあね!」
ゴンはいつも通り元気に手を振った。
「二人とも、帰りも仲良くね〜」
「余計なこと言うな!」
「も、もう……!」
二人の反応を楽しそうに眺めてから、ゴンは先に走っていく。
その背中が角を曲がって見えなくなった瞬間。
――空気が、変わった。
「……行ったな」
キルアが小さく言う。
「うん……」
二人きり。
それを確認したみたいに、キルアは一歩、距離を詰めた。
「……なあ」
「なに?」
×××が見上げた瞬間、キルアはふっと表情を緩める。
学校では見せなかった、完全オフの顔。
「今日さ」
「うん」
「一日中、からかわれてたけど」
少し間を置いて、低い声で続ける。
「……嫌じゃなかった」
×××の胸が、きゅっとなる。
「……私も」
その返事を聞いて、キルアは満足そうに笑う。
「だろ」
並んで歩き出すと、自然に歩幅が揃う。
何気なく、袖が触れるくらいの距離。
「キルア、近い……」
「今さら」
朝と同じ言葉。でも今度は、声がやけにやさしい。
信号待ちで止まると、キルアは少しだけ前に出て、×××を影に入れる。
「……?」
「日、眩しいだろ」
ぶっきらぼうなのに、気遣いが甘い。
×××は思わず笑ってしまう。
「今日のキルア、ずっと優しいね」
「……うるせ」
照れたように視線を逸らしながらも、否定はしない。
「昨日のせい?」
その一言に、キルアの耳が赤くなる。
「……半分はな」
残り半分は言わないまま、歩き続ける。
家が近づくにつれて、キルアは少しだけ名残惜しそうに言った。
「……もうちょい、ゆっくり帰るか」
「うん」
即答。
その返事が嬉しくて、キルアは口元を緩める。
(……二人きりだと、素直になれる)
夕焼けの中、肩が触れる距離で歩く二人。
学校では隠していた甘さが、今はもう隠れない。
キルアは小さく呟く。
「……こういう時間、好きだ」
×××は顔を赤くしながらも、ちゃんと答えた。
「……私も」
からかわれることも、照れることもあるけど。
今はただ、二人きりの帰り道が――
いちばん幸せだった。
to be continued….