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ティナの日本訪問二日目の正午過ぎ、事件は起きた。日本時間の朝からアリアとティリスが捕縛した工作員達から得られた情報を元に、合衆国を中心として某国に対して水面下で非公式かつ秘密裏に抗議が行われた。
某国を刺激しないように細心の注意が払われて、相手は遥かに格上で安易に刺激して良い存在ではない。異星人への対応は地球の意志統一が必要不可欠であり、他国と足並みを揃えて欲しいと要請したのである。もちろん見返りとして人道支援を中心とした手厚い支援も提示された。
某国は長引く経済危機と凶作による食料危機を抱えていたので、これらの支援を提示すれば交渉も幾分手応えのあるものになるだろう。少なくとも合衆国はそう考えていた。
だが、この動きに懸念を示したのは、長く隣国として某国と対峙してきた日本である。彼らに道理が通じるとは思えないと。更に某国の後ろ楯である中華が不気味な沈黙を保っていたことも日本の警戒心を高めていた。
そしてその懸念は的中した。国連本部で非公式に行われた国連大使達による最初の交渉で、某国の返答は予想外のものであった。
「アードからの訪問者は将軍様の大切な身内である。直ぐ様我が国へ招待したい。また同時に彼女達が提供したあらゆる技術ならびに物品は我が国の正当な所有物であり、速やかな返却を求める」
この要求に対して合衆国大使をはじめとした各国大使は、そのあまりに荒唐無稽な要求に唖然とした。
とは言え、ここは非公式とは言え外交の場である。相手を罵倒するわけにもいかない。
「そのような事実は存在しないし、仮に事実ならばティナ嬢達からその件についての発言があるはずだ。しかし、その様なものは確認されていない」
「貴国の発言こそ何の根拠も無いものである。事実確認を行うためにも、速やかに我が国へ引き渡すように要請する」
「……失礼を承知で言わせて貰いたい。正気か?彼女達は異星人、地球の道理が通じる相手では無いのだぞ?」
「我々の要求は変わらない。これを受け入れない場合、我々は将軍様の大切な身内を守るため断固とした対応を辞さない」
非公式の交渉は初手から行き詰まってしまった。その後も数時間掛けて見返りを含めた説得を粘り強く続けたが、某国は要求を取り下げず、逆に態度を硬化させた。
「これは貴国を中心とした西側諸国の陰謀であり、強い意志で抗議するものである。速やかな身柄引き渡しと共に賠償を求める」
「貴国の工作の証拠は揃っているのだぞ!」
「事実無根である!」
「本当に理解されているのか!異星人達が貴国に不信感を抱いているのだぞ!」
「我が国へ来ればその疑念も払拭される。むしろ貴国らが疑念を抱くように工作しているのだろう」
唖然とする各国大使達の中で、最後に日本国大使が口を開く。その表情はまるで菩薩のように穏やかだった。
「大使殿……私は、いや我が国は貴国に心底同情させていただきます。あなた方の行為がどれだけ危険か、少なくともこの場に居る貴方だけは重々承知しているでしょうから」
「……。」
「いざとなれば、我が国が仲裁します。もちろん相応の見返りはいただきますが。幸い我が国の首相とティナさんは個人的な繋がりがありますので、その事をお忘れなく」
地球各国による交渉を全て把握していたアリアとしては、不快極まりないものであった。そしてそれはティリスも同意見である。
「こっちから手は出さないし、傷付けない。ティナちゃんとの約束だからね。でも、合衆国も頼りにならないなぁ。アオムシ退治は私達がやろっか」
『マスターティリス、それでは』
「うん、やっちゃって☆ティリスちゃんと親衛隊の地球デビューだよ☆」
ありとあらゆる動画サイトはもちろん、全てのメディアが再び一時的な乗っ取りを受けた。そして歌うティリスとキレッキレのヲタ芸を披露する親衛隊のライブが流される。それだけならば世界を歓喜させるだけで済んだのだが。
「ティナさんの血を現場から採取したのは私でーす!」
「私は履き物の破片を採取しましたー!」
「もちろん無断でーす!」
親衛隊一同が一斉に所属氏名を名乗り、この工作の内容を詳細に暴露したのである。これには世界中が驚愕することになり。
「マイケル、始まったな」
「はい、大統領。どうやら我々の対処を手緩いと見られたのでしょう」
「手厳しいな……だが、こんなことをすればあの国が暴発するぞ」
「それが狙いでは?」
「……在日米軍に出動準備を、騒がしくなるぞ」
合衆国を含め各国は某国の暴発に最大限の警戒を敷いた。そして悪い予感と言うものは往々にして的中するものである。
この全世界に向けた暴露に対する某国の反応は極めてシンプルであった。すなわち、ミサイルの発射である。
数十年前より定期的に行われているこの危険な行為は、周辺諸国への威嚇と武威を示す意味を持っていた。しかし、今回ばかりは相手が悪かった。
ミサイルは日本上空を飛び越えて太平洋へ着弾するように設定されている。あくまでも威嚇目的であり、間違っても日本本土に落ちることがないよう念入りに調整されいた。
周辺諸国からすれば危険で不快な思いはあるものの、事を荒立てないように静観し、その後外交ルートを通じて抗議する。つまり、いつものことなのだ。
その弾道が何の因果か屋久島上空を通過するルートであること。その一点以外は。
『攻撃を探知、銀河航海法有事規則に基づき、正当防衛を開始します』
真っ先に動いたのはアリアである。彼女にとって何の事前連絡も無く、万が一不具合があればティナ達が滞在する屋久島へ着弾する可能性があるミサイルを見逃す道理など無かった。
ミサイルが海上に出た瞬間、軌道上で待機していたプラネット号がビーム砲による砲撃を開始。間近でそれを観測していたISS、ひいては統合宇宙開発局は大騒ぎとなった。
膨大なエネルギーの濁流に飲まれたミサイルは跡形もなく蒸発、そのままビームは海に着弾して巨大な水柱を生み出す。
『発射地点への攻撃を行います』
「駄目!止めてアリア!地球人を傷つけちゃダメ!」
直前にティナが止めた事により、第二射は若干標的を修正。発射拠点そのものではなく、無人である発射台に直撃。これを一瞬にして蒸発させた。
この惨劇を間近で見ていた発射基地の者達は皆腰を抜かしてしまう。
同時に地球上全ての為政者達が頭を抱えたのは言うまでもない。