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書庫前で正座を命じられた夜。
それぞれ部屋へ戻ったはずの王子たちだったが――
「……先生。入っていい…?」
夜更け、ハイネの部屋の前に現れたのは、カイだった。
「……カイ王子? こんな時間に、どうしたのですか」
「渡したい、ものがあって……」
もじもじと懐から取り出したのは、小さな包み。
丁寧に折り畳まれた紙の中には――焼き菓子と、手書きのメモ。
「……これは?」
「王宮のコックに……教えてもらって、作った。……先生が、甘いの好きだって……前に、言ってたから」
言葉は少ない。でも一つひとつが、誠実で。
「……美味しいかわからないけど、……気持ちは、いっぱいこめた」
そう言って、カイはハイネの目をじっと見た。
「皆、先生が好きって言ってた。でも……俺は、前からずっと、先生を……」
言葉を切ると、カイは顔を少し赤らめながら、静かに続けた。
「……守りたい、って思ってる。先生に、何があってもらどんなときでも」
「……カイ王子」
「だから、……俺のこと、ちゃんと見て。……“生徒”だけじゃ、いやだ……」
いつもは無表情で強面なカイが、今はどこか不安そうで――
でも、まっすぐに思いをぶつける瞳だけは、ずっと真剣だった。
ハイネは黙って、その気持ちを受け止める。
「……ありがとう。いただきます、大切に」
その言葉に、カイの口元がほんの少し、やわらかくほころんだ。
そして――
「……また、来てもいい?」
「……もちろんですよ」
そうしてカイは、満足そうにうなずいて、部屋を後にした。
静かな夜に響いたのは、小さな足音と、
焼き菓子の甘い香り――。