恐る恐る電話をかけてみると、ニ、三回のコール音の後で、どこかに繋がったらしかった。
「はい、超イケメン✧ホストクラブでございます」
ほ、ほんとに出た! だけどまだ電話に出ただけでは、いたずらじゃないとは言い切れないよね?
「あの……、そちらのお店のカードキーというのを、いただいたのですが……」
何から聞いてみるべきかを迷って、まずはもらったカードキーのことを訊ねてみる。
「そうですか。それでは、お客様は当店のホストに選ばれた方になります。どうぞ、お店の方へいらしてください」
電話の相手は、カードを渡して来た銀河の声とは異なるようで、口調も至極丁寧だったけれど、私は未だに本当なんだろうかという勘ぐりを捨てられないでいた。
「お店に行きたいのですが、場所がわからなくて。住所もカードには書かれていないようですし、お店はどこにあるんですか?」
よくある詐欺の手口みたいに、もし実店舗が存在しないようであれば、お店の在り処を言い渋るだろうと思って、そう探りを入れてみたのだけれど、相手の対応は私の思惑からは大きくはずれたものだった──。
「当クラブへは、ホストがエスコートを致します。お客様のご都合の良い日時をお知らせいただき、指定の最寄り駅までいらしてくだされば、そちらまでホストがお迎えに上がります」
「え? エスコート!?」
自分の考えていたこととはまるで違う斜め上からの答えに、驚いて口ごもる。
「……お客様、どうかされましたか?」
こちらを気づかうような声が通話口から聞こえて、「あっ、いえ……!」と、慌てたように返した。
「あの……、エスコートなんてしていただかなくてもいいですから」
そんな大袈裟な出迎えなんて、正直言って必要ないからと、向こうからの申し出を断ろうとした。
「ですがお客様、エスコートは当ホストクラブのシステムとなっておりますので、従っていただければと思います。エスコートには、そのカードキーをお渡しした当人が伺わせていただきます。恐れ入りますが、カードキーにあるホストの名前をお知らせ願えますか?」
「銀河……」
まるで畳みかけるような口ぶりに、つい答えてしまって、にわかに後悔が押し寄せる。
「銀河ですね、承知致しました。それでは、銀河がエスコートをさせていただきますので、お待ち合わせの日と時間のご指定をお願い致します」
なんだかここまで言われたら逃げ場がないようにも感じて、こうなったら一度きりのお試しのつもりで行ってみようかなと、仕方なく都合のいい日時を告げた。
折り返しに向こうが待ち合わせ場所にと伝えてきたのは、幾つもの路線が乗り入れる都心の大きな駅で、もしもいきなり連れ去られたりだなんていう想定外のハプニングとかが起こったりしても、人混みに紛れてなんとか逃げられるだろうからと考えた。
「では、ご指定の通りに駅まで銀河がお迎えに上がりますので、お客様もお忘れなきよう、時間通りにお越しください。それでは、当ホストクラブへのお越しを、心よりお待ち申し上げております」
電話は切れたけれど、私はしばらくの間、軽い放心状態だった……。
電話の相手にどこか押し切られるようにお店へ行くことを決めてしまったけれど、いざ電話を切ってしまえば、本当にそうしてよかったのかすらもわからなかった……。
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