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それから私がウィリアムに会うことができたのは、二週間も経ってからのことだった。
準備にかかりきりで忙しかったウィリアムは、ほとんどの時間を帝都で過ごし、こちらに帰ってくる暇さえもなかったのだ。そのお陰で、私の中でくすぶっていた感情にもだいぶ整理をつけることができたので、私にとっては有難い時間の猶予だった。
こんな私の為に時間を作ってくれたウィリアムには、本当に感謝の言葉もない。
「ウィル……。本当に、行ってしまうのね」
「私の可愛いリディ。どうか、そんなに悲しい顔をしないで。必ず手紙を出すと約束するよ」
「……本当に?」
「あぁ、本当だとも。いつだって、私の心は君にあるんだ。……決してそれを忘れてはいけないよ」
「……ええ、わかったわ」
「どうか、リディに幸せな毎日が訪れますように──」
そう告げると、私の手を取りそっと優しく口付けたウィリアム。その所作は相変わらずの優雅さで、私の手に顔を寄せながらも伏せた瞳をゆっくりと見上げるその仕草は、思わず息が止まってしまう程に妖しく美しい。
これで暫く彼に会うこともないのかと思うと、胸の奥から激しい荒波のようなものが押し寄せてくる。
(いけないわ……。泣いてはダメよ、リディ)
そう自分に言い聞かせると、恐ろしくも妖艶な微笑みを浮かべるウィリアムを前に、私はその細部まで一つも取りこぼすことのないよう見つめ返すと、これで最後とばかりにその姿を瞳に焼き付けたのだった。
それから直ぐに帝都へと戻ったウィリアムは、再びこちらに戻ることもなく出立の日を迎えると、そのまま帝都から開拓地である都市リベラへと旅立ってしまった。
当日の見送りすらできなかったことに胸を痛めつつも、私はこれで良かったのだと安堵した。きっと、ウィリアムを前にしてしまえば、笑顔で見送るなんてことはできなかっただろうから──。
「ウィル……どうかお元気で。私は──貴方のことが好きでした……」
自室の窓から見える遠い土地を眺めながら、誰に聞かせるでもない告白を小さな声でポツリと呟くと、私は遠い空の下にいるウィリアムを想って静かに涙を流した。
元より叶うはずもなかった私の初恋は、十二になったばかりの秋の暮れ、こうして突然の別れによって終わりを迎えたのだった。
それから待てど暮らせども、一向にウィリアムからの手紙が届くことはなく、私はその事実に悲しみながらも現実から目を背けると、まるでその想いを断ち切るかのように勉学に励んだ。
その甲斐あってか、いつしか私の中にいるウィリアムの存在も薄れてゆき、三年も過ぎる頃には、彼の事を考える時間も殆どなくなっていた。