ぺいんとミンドリーを乗せたスパローは砂漠へと向かう。
犯人と思しき車両はまだ見つからないが、警察車両も見当たらない。二人は進みながら情報・推測を共有した。
「犯人、砂漠を選ぶあたり犯罪初心者か、ハッキングに慣れていないやつかもな」
ぺいんは前の街での出来事を思い出しながら犯人を推測する。
ミンドリーはぺいんがどうやって場所を特定できたのかが気になっていた。
「よく場所分かったね」
「まぁ、この街の警察にも口の軽いやつや声のでかいやつがいるって事で。駐車場でパトカー出しながらしゃべっていたの聞こえたわ」
あの様子ではそうか───ミンドリーは先ほどの本署の様子を思い浮かべながら独りごちた。個々では気をつけているのだろうが、警察という組織としては褒められたことではない。
そう考えているうちのヘリは砂漠へとさしかかった。
「さて、どうしようか」
そうつぶやいたミンドリーにぺいんが答える。
「ドリー、銃持ってきてる?」
「ブルパップとヘビーピストル。どっちもサプ付いてる」
「オレ、刀しか持ってこれなかったから、警察のフリして突っ込んで体でチェックするわ」
「じゃ、向かいの屋根とっておくね」
「スパローはその建物の裏に停めよう。着いたら鍵渡しておく」
「これさ、警察がくる前に早めにケリつけて撤退か、警察来たら隠れて足がつかないようにしよう」
「了解。フリーカ前に黒のジェスター目視。念の為に別の変装に替えるわ」
「俺も変装しとく」
「じゃ、後ろは任せた」
もともと二人はさぶ郎を含めた家族になる以前からの付き合いがあり、こういったケースでも意思の疎通が速い。今回も、ぺいんの提案からあっという間に作戦・配置・どう行動するかまでも決まる。
折良く犯人と思しき盗難車も見つけた。あとは救出するだけだ。
ようやく銀行強盗犯が金を取り終わり、さぶ郎は犯人と一緒に銀行の外に出た。
そこには先ほどの声の主と思われる、黒髪に青いウサギのお面をつけ、モスグリーンのフード付きのアウターを着た男性が立っていた。
犯人とさぶ郎を見つけたその男は低い声で話し始めた。
「………その人を返してもらおうか」
「解放条件か?3分間アタックき………」
「なに条件出してんだよ。無条件に決まってんだろ」
「あぁっ!?テメー、警察じゃねぇのかよ」
「お前には関係ねぇだろ」
そう言うと、黒髪の男は背負っていた緑刀をスラリと抜いた。
それを見た銀行強盗犯が銃を構えた刹那、乾いた銃声がし犯人だけが倒れた。
「は?仲間がいんのかよ」
「教える義理はねぇな」
黒髪の男は淡々と言葉を紡ぐ。
男はゆっくりと近づくとさぶ郎の手錠を外して抱き上げ、倒れたままの犯人を引きずり始めた。
「せめてもの情けだ。銀行裏に置いてやるから、警察が来てもやり過ごしな」
男はそう言い捨て、犯人を銀行裏に放置すると背を向けた。
「じゃぁな。救急隊でも個人医でも呼べよ」
その言葉を残すと男はさぶ郎を抱えたまま茂みの向こうに消えていった。
黒髪の男が人質にしていた女を抱えて立ち去り、しばらくしてやってきたパトカーのサイレンも聞こえなくなってから、銀行強盗犯はようやく救急信号を出した。しばらくするとヘリの音がし、救急隊が来た。
「救急隊でーす。呼んだんは君?」
「あぁ。現場治療で頼む」
「はいよー。………お兄さん、銃創あるけど、事件?」
「俺は悪くねぇ。一方的にやられた被害者だ!」
「そうは言ってもねぇ。やられる理由はあるっしょ。まぁ、知っても口外せんけども」
本来なら銃創がある患者の場合、救急隊には警察への報告義務がある。しかし救急隊員───ズズはこの状況に関わりたくないのか口外しないと決めたようだった。
倒れていた男はしばらく黙り込んだが、救急隊員が深く追及する気がないことに気づきしゃべり始めた。
「銀行強盗やろうと思って人質取ったんだよ。そしたらそいつの仲間が奪い返しに来た」
「あらー。相手さん、ギャングやったん?」
「人質は中華料理屋の女だ。取り返しに来たやつは知らん。街で見たこともない黒髪にウサギのお面のやつだった。他にも仲間がいたらしく、そいつにやられた」
「なるほどなぁ」
「くっそ。人畜無害そうな形しやがって。あんなんバックにいるなら二度と関わるかよ」
「………治療終わったで。請求もしといたから、俺はこの辺で」
治療が終わり足早に立ち去ろうとするズズは、最後に一言だけ残した。
「これに懲りたら中華料理屋の看板娘には手を出さんことや。しっぺ返しくらうで」
「くそっ!」
警察に捕まらなかったため、治療費を差し引いても損はしていない。
わざわざ警察署から遠い砂漠の銀行を選んだ。成功すると思っていた。思い返してみても失敗する要素はなかった。ただ、相手が悪かった。変な女に関わってしまった。
銀行強盗犯は松葉杖が外れるまで悪態をついていた。
コメント
4件
凄く良い!投稿頻度早いのほんと助かります!