銀行から立ち去った黒髪にウサギのお面の男は、無言でさぶ郎を抱き抱えたまま歩いていた。
あたりは銀行強盗があったというのにまだパトカーのサイレンも聞こえず、男の歩く音だけが聞こえていた。
「………助けるの遅くなってごめんな」
男は先ほどまでの粗野な感じとは裏腹に、か細いが優しげな声でさぶ郎に謝罪の言葉をかけた。
男が怒っていたり、思ったほど不機嫌ではないことを感じ取ったさぶ郎も声をかけた。
「さぶ郎、抱っこよりおんぶが良い」
「そっか。ちょっと待ってな」
男はさぶ郎を背負い直すと、辺りをうかがいながら道を渡り、木立に入りその中を歩き始めた。
しばらく歩くと木立を抜けた先に一台のスパローが停まっていた。男はさぶ郎を背負ったままそのヘリに乗り込んだ。
運転席には同じような服装の明るい金の短髪で赤いウサギのお面を被った操縦士がおり、黒髪の男が乗り込んだことを確認すると無言でエンジンをかけ離陸した。
少ししてから下を見るとようやく銀行にパトカーが到着したようだった。
やがてスパローはサイレンが聞こえないくらいの上空に達した。そうすると黒髪の男が一息ついてぼそぼそと話し始めた。
「………カバー助かった」
「………一旦、学校そばのガレージに行くね。そこで俺の車に乗り換える」
「了解した。先に移動して?オレ、スパローしまってくる」
男たちの会話を黙って聞いていたさぶ郎だが、意を決して話しかけた。
「………お父さん、お母さん。帰ったらオハナシがあります」
瞬間、機内の空気も男二人も凍りついたように止まった。
抱えているさぶ郎からじっと見つめられ、しばらくしてもごまかせないと思ったのか黒髪の男───ぺいんが口を開いた。
「バレる、マ!?」
「さぶ郎にはお見通しです」
操縦していた金髪の男───ミンドリーも苦笑しながら続けた。
「さぶ郎は察しが良いからなぁ。ぺいん君がバレたら俺もバレるか」
「あい」
観念したのか、ぺいんが情けない声を出した。
「んもぉ〜。どこでバレた?バレない自信あったのに」
「『犯人いるかー』の時」
「いっちゃん最初やんけぇ………」
「ミンドリーさんはタトゥー」
「俺、袖まくらなければ良かったかな?」
娘の言葉にまたも苦笑しながら、ミンドリーは続けた。
「さぶ郎も言いたいことあるみたいだし、続きは帰ってからにしようか」
帰宅し、家に入ってすぐ、さぶ郎は二人に声をかけた。
「オハナシがあります」
さぶ郎が譲らない事を悟ったのか、ぺいんは敬語で返事をした。
「さぶ郎さん?どうしてもでしょうか?」
「オハナシがあります」
「………ハイ」
ぺいんとミンドリーは着替えることも許されず、そのままの格好でソファーに座らせられ、さぶ郎から「オハナシ」されていた。
「いつから?」
「武器と変装は前々から準備していた」
「二人とも?」
「ハイ」
さぶ郎は二人をじっと見つめながら話を続ける。
「なんでさぶ郎に黙ってた?」
その言葉にミンドリーとぺいんは互いの顔を見、どちらから話すのか迷っている様だった。
やがてさぶ郎の視線に耐えきれなくなった、ぺいんが口を開いた。
「………巻き込みたくなかったから」
「何に?」
「危ないこと、させたくなかったんだよ。さぶ郎にはあの街でなかなかできなかった、家族で遊んだりお店とか楽しいことに時間を使って欲しかった」
ぺいんの言葉を聞いたさぶ郎が言い切った。
「そこが間違ってるよ」
さぶ郎は未だに二人を見つめながら言葉を続ける。
「大事にしてくれているのは分かるよ。でも、楽しい事も危険な事も、どんな事でも、さぶ郎は皆んなで一緒にやりたい。さぶ郎だって得意じゃないけど、車もヘリも戦闘も出来るよ」
さぶ郎は一息ついて、さらに続けた。
「何をやるかじゃなくて、誰と過ごすかが大事なんだよ」
さぶ郎の想いを聞いたぺいんとミンドリーは素直に謝った。
「気を使いすぎた。ごめん」
「そうだね。これからは何でも一緒にやろう」
「あいっ!」
ようやく、さぶ郎に笑顔が戻った。
笑顔が戻ったさぶ郎と気を取り直したぺいんが「さぶ郎も変装を作る!」と楽しげに出かけたのを見送ってから、ミンドリーはまるんに電話をかけた。
「はい。花沢まるんです。ドリーさん?」
「あ、まるん君。さぶ郎は砂漠のモーテルの近くで手錠をかけられた状態でいたのを発見して保護した。怪我もなく無事。付近に人影なし。犯人はどこかのフリーカかコンビニやって警察が来る前に逃走済みなんじゃない?」
「なるほど?さぶちゃん、無事で良かったです。あと、こちらからお詫びじゃないですけど一つ。砂漠のフリーカで銀行強盗がありましたが、犯人ロストで処理されています。現場に逃走車両と思しき盗難車と血痕はあったらしいですけど、別件の対応と重なり有耶無耶になりました」
「情報ありがとね。まぁ、こんなこと二度と起こさないようにするけど、何かあったらよろしくね」
そう言いミンドリーは電話を切った。
今のやりとりをぺいんが聞いていたらこう言うだろう。
「ミンドリーも悪いなぁ」
ミンミンボウの3人はまだ知らない。
この件を発端に小柳がこの街の署長や前の街の署長を巻き込み、ミンドリーたちの素性を調べていたことを。
コメント
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ずっと続きが楽しみ✨️