テラーノベル
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再会してからというもの、若井は意識的に藤澤との距離を取っていた。
笑顔で話しかけてくる藤澤のことを、必要以上に避けるようにして。
「若井先生って、やっぱり変わってないね」
「そうですか。……藤澤先生も、相変わらずですね」
敬語を使っても、心は乱れる。
あの夜が、まるで昨日のことのように思い出せる。
そしてあの日。
音楽準備室で、2人は再び身体を重ねた。
過去の古傷を、なぞるように。
けれど、 数年前のような関係には戻らない。
もう、戻ってはいけない。
身体を重ねるのは、この日限りで——
若井はそう、思っていた。
放課後、誰もいない教室に忘れ物を取りに戻った元貴は、ふと視線の先に、人気のない音楽準備室の扉が半開きになっていることに気づいた。
(……また?)
胸がざわつく。
踏み込んではいけない、とわかっていても。
あの時の熱が、喉元に蘇る。
そっと扉に近づき、覗き込んだ。
「……なんで避けるの? 俺のこと」
「……避けてるわけじゃない。ただ、もう……」
「もう、なに? 俺のこと、必要ないって?」
藤澤が、静かに若井のシャツを掴む。
「……俺たちは“教師”なんです。」
「じゃああれは、なんだったの?」
少しだけ睨みつけるような瞳。
それでも、若井は視線を逸らさず、言葉を絞り出した。
「……俺の中で、終わったと思ってました。……あれは、過去の話です」
「……ふうん」
藤澤が鼻で笑う。
けれど、その笑みは少しだけ寂しげだった。
「……じゃあ、なんで今……そんなに、苦しそうな顔してるの?」
沈黙が落ちた。
一歩踏み出した藤澤が、若井の耳元にそっと囁く。
「俺は……まだ、滉斗のことが欲しいよ。……触れたい、もう一度」
「……っ」
その言葉に、心が揺れる。
——触れられたい。
——でも、いけない。
背中に手を回されたその瞬間、若井は軽く押し返した。
「やめてください、藤澤先生……っ、今は、もう……」
「ねぇ、ほんとは……俺のこと、待ってたんじゃないの?」
その一言に、胸が詰まった。
(……俺は、何を望んでた?)
再会を願っていたのか。
忘れたかったのか。
その答えは、まだ出ないままだった。
—
一方その頃。
元貴は音楽準備室から離れた廊下の隅で、震える手でスマホを握っていた。
「……また…あの2人……」
聞こえてきた“終わったと思ってた”という言葉、
“欲しい”“触れたい”という囁き。
(……やっぱり、若井先生と藤澤先生って、ただの同僚じゃない)
胸の奥がじわじわと熱くなる。
あの夜と同じ、苦しくて、抑えられない何かが、また込み上げてきていた。
(……俺……やっぱり……)
その視線の先で、ちょうど若井先生が出てくる。
ふと、目が合った。
「……大森?」
「あっ……」
若井の声が、胸に直接落ちてくる気がした。
何も言えず、ただ立ち尽くした。
(……俺だって、先生の隣にいたい)
心の奥で、そう叫んでいた。
コメント
2件
ぬぅぅぅん😭(?) 続きが気になりすぎます…🥹 どうなっちゃうんだろ… いつも癒しをありがとうございます…!😭💞