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(キスって、こんななの?)


想像していたそれより、何倍も深く溶け合うような甘さ。


舌が絡み合う感覚が、わけのわからない痺れを真衣香にあたえた。

背中がピクリと震えれば、その反応に気がついたのか。背中から腰にかけてを執拗に撫でられる。

すると、もっと、痺れが全身に拡がって。


「っ、あー、まずい」

「……ふ、ぁ、坪井くん?」


突然、切羽詰まったような坪井の声が聞こえた。

それはキスの終わりを真衣香に知らせる。

坪井の名を呼んだ真衣香のことを、一瞬だけちらりと見たかと思えば。


すぐに天を仰いだ。


「カッコつけてないでヤッときゃ良かった〜って思ってんの、俺、今」


力が抜けきっている真衣香は言葉を理解しきれずに。その声に先ほどのように照れることはなかったけれど。


「てか、お前早く乗って。 ほんと、ごめん」

「ご、めんって?」


聞き返した真衣香を、坪井は少しだけ眉を下げて、よくわからない笑顔を見せて。

真衣香の背中を軽くタクシーに向け、押した。


乗るんなら乗れよ、と。

呆れたようなため息をつくタクシーの運転手に軽く頭を下げながら乗り込んでいると。


窓を開けた運転手と坪井が何やら談笑している姿が見える。

どうしたんだろう、と。

真衣香が眺めていると、それに気がついた坪井が「じゃ、また連絡するね〜」と、ヒラヒラ手を振った。


もう、甘い空気なんて消えていて。

会社で見かける坪井、そのままだった。

いきなり魔法が解けたような感覚に陥ってしまった真衣香。


慌てて「私も!」と、返すけれど。

ドアが閉まり走行を始めてしまった後だったので、きっと届かなかっただろうなぁと、真衣香は小さくため息を吐いた。

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