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儚 (はかな)
※ バトエン で す
三枝明那 & 不破湊
〜 明那 視点 〜
俺の通っている高校。
その名も私立にじさんじ高校 。
その煌びやかな進学校の裏側で、俺の日常は音を立てて崩れていた。
きっかけは些細なことだった。
そう、俺はいじめの標的として選ばれたのだ
だが、一度始まった「標的」への攻撃は、クラスという閉鎖空間で加速度的に膨れ上がる。
机に刻まれた無数の罵倒
切り裂かれた教科書
トイレで浴びせられる冷水。
「あはは、wwアッキーナ、今日もリアクション最高じゃん!w」
主犯格たちの笑い声が、耳の奥で耳鳴りのように響く。
俺はただ、床を見つめて嵐が過ぎるのを待つしかなかった。
そんな俺を、教室の最後列からじっと見つめている瞳があった。
それは幼なじみのふわっちだった。
ふわっちはクラスの誰とも群れず、かといって浮いているわけでもない。
常に飄々として、どこかこの世界を冷めた目で見ている男。
ある放課後、ずぶ濡れで震える俺 の前に、ふわっちが立った。
「……明那。それ、いつまで続けるん?」
ふわっちの差し出した紫色のハンカチ。俺は それを奪い取るように受け取り、声を殺して泣いた。
「……放っといてよッ、ふわっちには関係ないでしょ」
「関係あるよ。俺、明那のこと放っておけん」
ふわっちは、明那の震える肩を力強く抱きしめた。
その体温だけが、明那がこの世界で唯一「生きている」と感じられる錨《いかり》だった。
〜 不破視点 〜
それから、俺たち二人だけの秘密の時間が始まった。
放課後の旧校舎、
屋上、
夜の公園。
俺は明那の傷に指を這わせ、痛みを分かち合うようにキスをした。
「ふわっち、俺もう無理だ。明日、学校に行くのが怖い。……生きてるのが、もう、疲れたんだ」
明那の瞳からは、もう光が消えかけていた。
不覚にもそんな顔が可愛い、そう思ってしまった。
俺は、そんな感情を押し殺し明那の頬を優しく包み込み、自分の額を押し当てた。
「……じゃあ、やめる? 全部」
「え?」
「このクソみたいな世界、俺と一緒に卒業しよ。明那が一人で逝くのは許さへん。俺も、おらんくなった後の世界なんて興味ないし」
明那は俺の言ったことにびっくりしていたが、初めて光がさした。
そんな顔をしてた
一人で消える恐怖が、”俺”いう共犯者を得たことで幸福に変わった。
「……いいの? ふわっちも、一緒に来てくれるの?」
「当たり前やん。俺ら、二人で一つやろ」
二人は指を絡め、最期の約束を交わした。
〜 明那視点 〜
文化祭前夜。
誰もいなくなった校舎に、二人の足音が響く。
俺の制服は、今日最後に受けた嫌がらせの泥で汚れていたが、俺は全く嫌な気分ではなかった。
屋上のフェンスを乗り越え、二人は縁《ふち》に並んで座った。
足下には、俺たちを拒絶し続けた灰色の街が広がっている。
「ふわっち 、怖くない?」
「全然。明那の手、握ってるしな。……あ、見て、星。めっちゃ綺麗やん」
「……本当だ。最後に見るのがふわっちで、本当によかった」
俺は、ふわっちの横顔に唇を寄せた。
ふわっちは笑って、明那の指の隙間に自分の指を深く滑り込ませる。
「せーの、でいこうな。……大好きだよ、明那」
「俺も。……大好き 、ふわっち」
合図なんて、いらなかった。
二人の鼓動が重なった瞬間、重力は優しく二人を抱き上げた。
夜風を切り裂き、二人の体は一対の鳥のように堕ちていく。
視界が真っ赤な夕闇から暗転するその刹那、
俺が見たのは、誰にも邪魔されない、二人だけの真っ白な楽園だった。
翌朝、校庭で見つかった二人の遺体は、どれだけ引き離そうとしても、
その指先だけは固く結ばれたまま、決して離れることはなかったという。
コメント
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え、好きすぎる私が見ていいのか不安になるくらい神作品