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Jinto side
あの頃のように
近くの切り株に並んで座った
「俺にとってお前との時間だけが安らぎだった」
先に口を開いたのはこの人だった
「お前の歌声が心地よくて、 あの時だけはよく眠れた」
その瞳は少し先の揺れる草花を見つめているようだった
「…夜には、殺しの真似事をしていたけど」
伏せた瞼に
眠れない余多の夜と
この人が幼い頃からしてきたことの重さを知る
「しばらく行くことが出来なくなって…その後何度か行ってみたが、お前はいなかった」
僕の方を見て、ふっと笑った
「…会いたいと、思っていた」
優しい目で微笑むあなたがなぜ人殺しなどしているんだろう
「…僕も会いたかった」
あなたの存在に、救われていたから
「双子の片割れの、より体の小さな僕は、 呪われた…、 いらない、子どもでした」
昔からの言い伝え
双子は忌み嫌われる存在だった
本来、存在してはならなかった
「幽閉された生活は息が詰まって、 時々、抜け出しては泉に行きました」
存在してはいけないのに、なぜか存在し続けなければならないことが苦しかった
いっそ、消えてしまいたかった
でも、あなたに出会った
「僕にとっても、あなたが唯一の安らぎでした」
僕の唯一の楽しみといえば、うたうことだった
誰かが奏でる旋律を
こっそり聴いて覚えていた
「僕の歌を聴きながら眠るあなたの寝顔を見ている時は、その時だけは、幸せ…でした」
はじめて知った感情だった
当時はその感情の名前すら知らなかった
「いつまで…ここに居られますか」
この安らぎが、幸せが少しでも長く続けばいい
そう願って尋ねたが、答えは想像したものとは違っていた
「お前を殺せない俺は…殺される。 俺のかわりは腐るほどいる。俺と居たらお前だって…。お前の側には、居られない」
目が伏せられ影が揺れた
「僕を殺してください」
あなたが殺そうとしたということは
僕がいらない人達の誰かが僕を殺そうとしたということ
「あなたが出来ないのなら、僕が僕を殺します。 僕はいらない人間です…いずれ誰かが僕を殺します。 僕の命であなたが存えるなら、喜んで差し出します」
いらない僕が役に立てるのなら
「僕には…あなたのかわりなんていません」
あなたしかいない
僕の存在理由ですらも
あなたなしにはないのだから
「僕を、連れていって」
僕を殺して
僕を殺そうとした人に差し出せば
あなたは生きていられるのでしょう
「…お前は、どうか、生きて」
あの人は寂しげに告げると、手を引くことも叶わず走り去って行った
僕はあなたの名前すら
知らないままだった