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「アイツは、確かに衰え始めていた
“老人”故に衰え始めていたんだ……だけど……
唯一無二の”強さ”をアイツは持っていた」
「イテテテテ……ちとやりすぎたか……。もうちっと手加減しとったほうがよがったかもしれんなぁ……」
H・タイゾウは呆然と空を見上げていた。
それもそのはず、今彼は、見たこともない場所にたった独り取り残されているのだ。
もっとも、その原因は自身の技にあるのだが。
「さて……まずこっからどうするかやなぁ……」
H・タイゾウは辺りを見渡す。
と、H・タイゾウは遠くにある建物の影を見つけた。
「お!建物!迷っとる時間はないばい!前進、あるのみ!!」
H・タイゾウはズンズンと歩きだした。
そのときだった。
突然目の前に紫色の拳の”像”が現れ、地面に小さなクレーターを形成した。
「!?」
「外したか……。珍しいこともあるものだな」
「お、お前は……!セイレーン!?」
「そうだ。俺はセイレーン……。名は、サターン」
そう、彼の名はサターン。
ツンツン頭と土星のような瞳が特徴の青年である。
「狙いは……俺やな」
「ああ。さっそくだが、死んでもらう」
サターンはH・タイゾウに襲いかかった。
H・タイゾウは防御の体勢をとる。
しかし、次の瞬間、サターンはH・タイゾウの目の前で文字通り消えた。
気づいたときには、サターンの攻撃が背後から繰り出された。H・タイゾウはギリギリのところでそれを防いだ。
「ほう、老いぼれにしては優れた瞬発力を持っているようだな」
「フンッ!まだまだ衰えちょらんわ!」
サターンは次に正拳突きを繰り出した。
が、それは全くH・タイゾウに届いていない、かのように思えた。
その直後、真横から突然紫色の拳の”像”が出てきた。
これもH・タイゾウはなんとか防いだが、少し押し出されてしまった。
「この感覚、確かに拳で殴られた感覚や……!さっきも一瞬で背後に回ったりしよったな……。お前……空間を操ったりするんか?」
「ほぼ正解だ。俺の能力は『空間移動』。自分の身体や身の回りの物質などを『亜空間』を介して移動させる。俺はこの特性を利用し、半径3mの領域にある対象に強制的に正拳突きを当てる拳法を編み出した。その名は……『幻槍拳(げんそうけん)』」
「全くもって逃げようがない能力やな……。半径3mから逃げても空間移動ですぐに追い付かれる……。やけ能力の内容も軽々と話せるんか……」
すると、再びサターンは消えた。
H・タイゾウは感覚に身を投じた。
そして……
「空槍拳!!」
真空波を放った先にサターンが出現。見事、真空波はサターンに命中した。
今、H・タイゾウは、サターンが空間移動をした際に発生する空気の揺れだけを頼りに戦っている。
冷静な雰囲気を放っているが、今、彼は自分を落ち着かせようと必死である。
「なかなかの集中力だな……。だが、それもいつまでもつかな?」
「お前を倒すまでッ!!」
「なるほど……。確かに、お前の瞬発力は相当なものだ……。だが、”これ”は避けられまい。幻槍拳……『十二単(じゅうにひとえ)』!」
サターンはさっきと同じように正拳突きを繰り出した。
が、さっきまでの攻撃よりも、それははるかに速かった。
H・タイゾウは、上手く攻撃に対処できずに、顔面に一発喰らってしまった。
喰らう瞬間、H・タイゾウは、サターンの出した拳の”像”の周りに輪(リング)が見えるのを確認した。
「い、今、何か輪(リング)みたいのがあったな……」
「ああ。一応教えといてやる。その輪(リング)は空間移動をした『回数』だ。回数が多ければ多いほど攻撃の速度は増える。つまり……」
「輪(リング)の数が多ければ多いほど速度が速くなる……そして攻撃力も上がる……。そうやろうが?」
「そういうことだ」
サターンはその後すぐに技を繰り出した。
輪(リング)の数は、さっきの2倍。
腹部に攻撃を受けたH・タイゾウはうずくまってしまった。
「思ったほどではなかったな……。残念だ」
「これで終わりと思っとったんか?残念やったなぁ……」
「!?」
H・タイゾウの手には、掌サイズの空気弾が握られている。
そして、回避する間を与えずに、それをサターンに飛ばした。
飛ばした瞬間、空気弾は銃弾と同じ、あるいはそれ以上の速さでサターンに襲いかかった。
空気弾はサターンの左頬をかすり、どこかへと飛んでいってしまった。
かすった左頬から血が伝う。
「これは……!」
「圧鬼弾・丸(ガン)」
これにはさすがのサターンも驚いた。
その隙にH・タイゾウはもう一発飛ばした。
が、それはサターンから外れた。
と、そのとき、H・タイゾウは足から真空波を出すことで、H・タイゾウは、空気弾の来るところに先回りし、空中で少し力を加えながら空気弾を蹴った。
すると、空気弾は多数の小さな空気弾に分裂し、サターンに一斉に襲いかかった。
サターンはこれには反応できず、身体のいくつかの部分を空気弾たちが貫いた。
「グッ……!?」
サターンは痛みに顔を歪ませる。
「圧鬼弾・散丸(サンガン)。圧鬼弾・丸にちょっと手を加えただけばい。圧鬼弾・散はもう見たことあるやろ?」
「あの炸裂させるやつか……。なるほど……、技を組み合わせたのだな……」
次にH・タイゾウは、空気弾をいくつか空中に留まらせた。
「小賢しい真似を……!」
サターンはもう一度『十二単』を繰り出した。
輪(リング)はさっきの4倍の数。
とんでもない速さでH・タイゾウに攻撃が下ろうとしたそのとき、空中にあった空気弾が攻撃の際に発生した空気の揺れの影響で、シャボン玉のように漂い、構えていたH・タイゾウの拳に触れた。
すると次の瞬間、H・タイゾウの拳は目にも留まらぬ速さで突き出た。
それは、サターンの攻撃と激しくぶつかりあった。
「チッ……!」
サターンは苛立ちを見せながらH・タイゾウの背後に空間移動し、攻撃に出た。
しかし、攻撃の瞬間、空間移動したときに生じた空気の揺れの影響で、もう一つの空気弾が動き、H・タイゾウの肘に触れた。
次の瞬間、とんでもない速さでサターンの右頬にH・タイゾウの肘がめり込んだ。
サターンは派手に回転しながら吹っ飛んだ。
「なっ……!?」
「銃槍空拳」
H・タイゾウは右手の拳を前に出しながら答えた。
『銃槍空拳』
空気弾の中にある『圧鬼弾・丸(ガン)』のエネルギーが身体の部位に触れることで伝わり、一時的に彼が繰り出した攻撃は、銃撃レベルに速くなる。
威力も高く、真空波も発射される。
「……正直、ここまで追い込まれるとは思わなかった」
「まあな!」
「だから……」
「?」
「とっておきを見せてやる……『夢幻(ムゲン)』」
「なるほどなぁ……『夢幻(ムゲン)』か……。こりゃあおもしろくなってきたなぁ!なら俺からもとっておき見しちゃる!!『無間(ムゲン)』!!」
そして、二人の”ムゲン”はぶつかりあった。
『夢幻』
『十二単』を何度も何度も組み合わせた連撃技。
『無間』
『圧鬼弾・丸(ガン)』を『圧鬼弾・散(サン)』で何度も何度も分裂させ、それを利用して何度も何度も『銃槍空拳』を繰り出す連撃技。
2つとも、相手に与えるダメージ、消費する体力がともに高い。
お互いの攻撃は止めどなくぶつかりあった。
その中には弾幕を抜けて相手にダメージを与えるものもお互いにあった。
5分間近くもの攻防が続いたが、お互いの顔面に攻撃が下ったとき、二人の攻撃はついに止まった。
お互い吹っ飛ばされ、地に倒れこむ。
そして、二人とも身体をゆっくりと起こす。
二人とも体力、ダメージともにほぼ限界である。
先に起き上がったサターンは攻撃の構えに入った。
「これ以上……、茶番に付き合うのももうウンザリだ……。そろそろ終わらせるとしよう……」
「……」
「?仲間のことを心配しているのか?」
「!!」
「安心しろ……。お前が独りで寂しくならないよう、ヤツらもお前と同じ、地獄へ送ってやる」
そう言ったときのサターンの威圧感は物凄いものだった。
H・タイゾウは一瞬動揺したが、すぐに覚悟を決め、構えに入った。
「幻槍拳……」
「空槍拳……」
「時雨乱舞(しぐれらんぶ)!!」
「乱れ櫻!!」
お互いに出した技。それは連撃技であった。
「「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」
二人とも咆哮を上げながら技を繰り出した。
そして、数秒たつと、お互い一発も相手に当てられないまま技を止めた。
サターンは空間移動で一旦H・タイゾウから距離を置き、幻槍拳を繰り出した。
H・タイゾウも空槍拳を仕掛けようとしたが、わずかに幻槍拳のほうが速かった。
しかし、疲労のせいか、サターンの攻撃は少しそれ、空槍拳を繰り出しそうとしたほうの腕の肘に幻槍拳が命中した。
そのときだった。
幻槍拳が肘に命中したことで、H・タイゾウの攻撃はコークスクリューのようになり、そのまま空槍拳が発現した。
すると、真空波が6つに分裂した。
突然の事態に上手く対応できず、サターンは6発中、4発被弾した。
「グッ……!?」
いっとき自身の拳を見つめていたH・タイゾウは、”これは使える”と判断し、サターンのほうに向き直った。
サターンは空間移動をした。
「フンッ!!」
H・タイゾウはさっきと同じような方法で攻撃を仕掛けた。
すると、やはり真空波は6つに分裂した。
サターンが出現したのは右斜め前。
サターンは完全に判断力が鈍っている。
サターンは全ての真空波を被弾し、すぐに退却した。
「あの感じ……まさか土壇場で新技を出したのか?」
「まあな!名は……『飛び六方』とでも言うか……」
一旦作戦を練ろうと考えたのか、サターンは亜空間に入ろうとした。
次の瞬間、真空波が6発飛んできた。
サターンは、今度こそ6発全ての軌道を見極め、避けた後、直前に作った亜空間への入り口に入ろうとしていた。
このとき、サターンが背を向けて入り口に入ったことが、彼自身の運命を二分することとなった。
突然、サターンは背中に6発攻撃を喰らった。
そのままサターンは不安定な体勢で入り口に入っていく。
すると数秒後、サターンが体勢を立て直したとき、目の前には、かなり高密度のエネルギーが圧縮されたバスケットボールくらいのサイズの玉を持ったH・タイゾウの姿があった。
「ッ!!しまっ!!」
「圧鬼弾・烈(レツ)!!」
高密度のエネルギー弾を思いっきり喰らったサターンには、もはや戦う気力も、腕力も、残されてはいなかった。
「ば……かな……。なぜ……だ。あんな一瞬で、どうやって二発目を……?」
「単純な話ばい。両手同時にやったとよ。やけん、俺の飛ばした攻撃は合計で12発。名付けて『飛び十二方』といったとこやな」
「……そうか。まさか土壇場で発現した新技を一瞬でここまで適応させるとは……。柔軟な思考を持っているのだな……。老いぼれだと、ナメてかかったのが仇となったか……。
H・タイゾウ、だったな……。お前のような強き『武人』と……最期に拳を……交わせたこ……と……心の底から……光栄に思う」
そう言い残すと、サターンは息を引き取った。
亜空間は崩れ、周りの景色はさっきまでと同じ荒野に戻っていた。
H・タイゾウは、いっとき座ったままサターンの死顔を見つめると、少しして立ち上がり、
「サターン……。お前の敗因はな……ズバリお前の言った通り、老いぼれをナメたことや。人間生きれば生きるほど知恵がつく。俺もこんな老いぼれになるまで長く生きてきた分、一杯知恵がついとるとよ」
と、サターンに告げた。
道はまだ長い。H・タイゾウは、辿り着くべき場所へと再び足を進めるのだった。
それから数十分後……
一機のヘリコプターがサターンの周辺に着陸した。
そこから降りてきたのは、白衣に身を包んだ女性と6人の多国籍軍。
「あらあら……。こりゃ、ひどくやられたもんね……」
女性はそう言うと、軍たちにサターンの遺体をヘリに乗せるよう命じた。
確かにサターンはひどい状況になっていた。
攻撃を思いっきり喰らったサターンの腹部は、見るに耐えない状態となっていた。
そんなサターンの遺体はヘリに乗せられ、最後に女性がヘリに搭乗した。
ヘリにあるのは、かつて存在していた『国際連合』のマーク。
しかし、その両端にはCとPのアルファベット(Cosmo Polisのイニシャル)があった。
ヘリの扉が閉まると直前、女性は独り言を呟いた。
「世界って……、『変わり続ける』ことだけは『変わらない』のよね……。何なのかしら、この矛盾……納得いかないわ……」